2018.06.07

中国シャオミ:世界最大のコミュニティマーケティングカンパニーから学ぶこと

はじめに

シャオミ(Xiaomi、小米)の上場への動向が注目されています。上場時期は2018年後半と見られており、時価総額予測は10兆円とも言われています。

「風があれば豚でも飛べる」というCEOレイジュン氏(Lei Jun、雷軍)の格言は中国国内であまりにも有名で、同社はまさに最も時代の追い風を捉えたユニコーン企業と言えます。

2013年12月には中国中央テレビの人気番組「年度経済人物」において、格力電器CEOドンメイジュ氏(Dong mingzhu、董明珠)との舌戦の末、掲げた公約売上10億元(160億円)を先行して達成し、その有限実行ぶりから中国全土にレイジュン氏の名を轟かせる結果となりました。

シャオミのこれまでの道程

シャオミは2010年4月に設立されました。

中国スマートフォン市場において、ファーウェイ(Huawei、華為技術)、ヴィボ(VIVO、维沃移动通信)、オッポ(OPPO、欧珀)に続く第四の勢力であり、累計3億人のユーザーを有します。2017年のスマートフォン台数シェアは15%、その出荷台数は海外を含め9,600万台、売上にして150億米ドル(1.5兆円)と、わずか9期目の企業とは思えない破竹の勢いで成長を続けてきました。レイジュン氏は、2015年5月時点において5年以内の上場を否定してきましたが、2016年3月に「上場の可能性を完全に排除することはない」と発言したことで、IPOの憶測に現実味が帯びてきました。

設立以来、輝かしい業績を誇るシャオミですが、これまで順風満帆な道を歩んできたわけではありません。さかのぼること3年前、2015年にスマートフォン出荷台数が7,000万台とピークに達したものの、2016年一気に転落、4,150万台と36%の減少を記録しました。

 

 

原因はなんだったのでしょうか。当時、レイジュン氏は「シャオミは2016年、スマートフォンに関する『極めて複雑』なサプライチェーンが原因で、4ヵ月にわたる供給問題に苦しんだ。」と語っています。また同氏の著書「参与感」でも業績悪化の理由が詳細に書かれており、下記5つの点にまとめることができます。

 

<出典:参与感より弊社作成>

 2016年、多くの点でつまずいたシャオミですが、結果として翌年には課題を克服し、現在様々な新しい動きを見せています。転機となった2016年以前と以降において、シャオミはいかにして成長してきたのでしょうか。2016年以前、時代の寵児とまで呼ばれたシャオミの急成長には、同社独自の強みがありました。

 

シャオミの根底にある強みとは?

シャオミの強みは、言うなれば、同社の製品とマーケティングの双方の特性を相乗効果的に最大限活かすことのできる唯一無二の戦略であることがわかります。レイジュン氏は、この強みを構成する要素を三つに集約し、同社の基本戦略として、著書「参与感」において「口コミ『鉄の三角』」として説明しています。

 

 

■鉄の三角を構成する要素① – Appleをベンチマークした製品開発

シャオミの強みはユニークな製品開発に支えられています。設立当初、中国のスティーブジョブズとまで称されるほど、デザイン性の高い製品を作り、これらを比較的リーズナブルな価格帯で販売してきました。

ファーウェイやVIVOなど主力機種がおおよそ2,500~3,500元(4~6万円)であるのに対して、シャオミの価格帯は1,500~2,500元(2.5~4万円)と、約1,000元(1.6万円)ほど安く、主に流行に敏感なコストパフォーマンス重視の若いユーザー層を中心に支持されています。また開発をオープンソース化することにより、ユーザー参加型の製品開発を行っています。これによりコアなファン層を生み出し、自社と顧客の双方にメリットの高い製品開発を実現することに成功してきました。

そしてシャオミは、海外においても製品のコストパフォーマンスが高く評価されています。既にインドではスマートフォン出荷台数シェア首位であり、「Appleと同等レベルのスマートフォンが半額で買える」とまで言われるほどです。その他、世界70ヵ国以上に進出を果たしており、うち16ヵ国においては台数シェア5位以内と、他社には類を見ない海外での実績を有します。

またシャオミの製品開発において注目すべき点は、スマートフォン以外にも様々な家電製品をラインナップしているところです。冷蔵庫から炊飯器、ヘッドフォンや電動自転車、カメラ、AV機器、PCサプライ製品など、消費者の生活を取り巻くあらゆる商品を提案し、良いものを割安で提供するブランドイメージを広く横展開することで、国内での売上を伸ばしてきました。

 

■鉄の三角を構成する要素② – コミュニティの構築

シャオミの強みは同社のもつコミュニティにもあります。シャオミでは製品ユーザーとの接点を、計3,000万人を有する同社オリジナルの会員制コミュニティサイトで行い、製品情報や販売情報、製品の使用方法、さらにはユーザーフィードバックや開発部門への技術的な質問、先述のオープンソース開発など、あらゆる顧客コミュニケーションを双方向に行うことで、製品開発や顧客獲得、CS向上につなげています。

2014年には、それまでカスタマーサポート部門のみで対応していた顧客とのやりとりを全社員対応に切り替え、すべての部門、機能において、顧客の意思を反映させることで根強いファン層を作り上げてきました。

 

■鉄の三角を構成する要素③ – 情報コンテンツ戦略

コミュニティの活性化には緻密な情報コンテンツ戦略が欠かせません。レイジュン氏は同社のコミュニティにおける情報コンテンツ戦略も重要な位置づけとして説明しています。情報コンテンツ戦略は、(1)話題づくり、(2)拡散体制の2つに分けることができます。

話題づくりでは、ユーザーにとって有益な情報、エキサイティングで創造性をかき立てる情報コンテンツ、双方向性を誘発させるトピックなど、顧客を巻き込む情報を充実させています。そしてそれらの拡散には影響力の高いインフルエンサーの協力を得て、拡散導線を設計することで、情報コンテンツ戦略をより確実なものとしてきました。

 

<出典:参与感>

 シャオミの基本戦略「口コミ『鉄の三角』」は、同社が創業当時から行ってきた洗練されたコミュニティマーケティングの中枢となっています。

 

2017年シャオミはどのようにして復活したか?

ここまでは、シャオミの基本戦略を見てきました。冒頭で述べたとおり、設立以来、2016年に初めて業績を落とすこととなった同社ですが、その要因となった5つの点に対して、2017年以降、新たな施策を講ずることで見事な復活劇を遂げました。

 

■新たな施策① – 実店舗の拡充

シャオミはまず、オンラインのみの販売力に限界を感じ、実店舗の拡充を急ぎます。事実、2016年、中国国内においてオンラインによるスマートフォン購入はわずか3割(出典:GFK China)と少なく、販売チャネルとしては限りがありました。

そして、実店舗であれば販売員に対するセールスインセンティブを設けることができ、販売力を強化し競合に負けない営業体制を作ることができます。2016年に50店舗であった販売拠点を翌年には250店舗へ、一気に5倍に増やすことでオフラインにも販売の主戦場を見出しました。

 

■新たな施策② – ブランドの再構築

これまでシャオミブランドは、主にコミュニティ内で形成され共有されてきました。比較的閉ざされた環境での同社のブランディング活動は、顧客のロイヤリティを高める一方で、競合他社に比べ、ユーザーの裾野を広げることには遅れをとっていました。さらに、低価格路線では、中国国民特有のステータス意識や見栄を満足させることはできませんでした。

これにより、シャオミは2017年、ブランドの再構築に打って出ます。製品プロモーションにおいて、積極的に有名タレントを起用し、新たな消費者層へのアプローチを行っていきます。2018年2月には、同社のモバイルバッテリー のCMにパリス・ヒルトンなど世界的に著名なモデルを多数起用したことで大きな話題を呼びました。

また新たなブランディング体制は店舗にも及びます。これまでの通常店舗ではなく、内装、立地にこだわったハイグレード店舗を設置し、シャオミブランドを高級感のあるイメージにシフトさせていきました。

 

■新たな施策③ – ハイエンド製品の投入

これまで低価格路線を走ってきたシャオミですが、2017年、初のハイエンド製品を発売します。従来は2,000元程度であったスマートフォンの最新機種を約3,000元で発売しました。ハイエンド製品はスマートフォンだけにとどまらず、電動自転車を2,999元(一般的な価格は、炊飯器を999元(一般的な価格は300~400元程度)など、高級感を売りにした製品を揃えていきます。

ハイエンド製品を投入することで、先のブランドイメージの刷新やCS向上につなげると同時に、同製品にしかない新機能やオプションを通してユーザーに新しい話題を誘発させ、さらなるコミュニティの活性化にも役立てていきました。

なお、スマートフォン機種において、毎年10種類以上の新作を発表してきた同社ですが、2017年、新たなハイエンド製品は投入したものの、製品ラインナップ全体としては縮小させています。これによりサプライチェーンの簡略化が進み、業績にポジティブに働きました。

 

<2017年以降におけるシャオミの新たな施策>

<出典:参与感より弊社作成>

 

世界最大のコミュニティマーケティングカンパニー

興味深いことに、シャオミにとって新施策として着手された上記のような実店舗販売やマスプロモーション、タレント起用などは、通常の企業であれば、既にマーケティングの本流に据え置かれる常套手段であり、目新しさに欠ける印象を受けます。

その理由には、同社は創業5年で売上1兆円を超え、常識を覆すスピードで巨大企業となった一方で、従来の企業では、まず重きを置かれることのないコミュニティマーケティングを軸に成長してきたからです。

同社にとってコミュニティは、マーケティング戦略のメインストリームにありました。この強みをベースにしながら、2017年、実店舗の拡充、ブランドの再構築、ハイエンド製品の投入を行ったことで、それが第二のエンジンとなり、より強固で拡張された基盤を築き上げることに成功したのです。

同社のユニークな点は、コミュニティを基盤にした経営戦略であり、コミュニティの特性を熟知した製品戦略、プロモーション戦略、新技術の活用であると言えます。シャオミは、もはや世界最大のコミュニティマーケティングカンパニーであり、同社の取り組みは多くの日本企業のマーケティング戦略の参考になると同時に、世界のあらゆる企業がコミュニティマーケティングを見つめ直す良いきっかけになるのではないでしょうか。­­

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