第1回/全3回

経営戦略としての紹介営業(第1回)

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経営戦略としての紹介営業(第1回)

経営戦略としての紹介営業

EXECUTIVE SUMMARY

Amazonの創設者ジェフ・ベゾスが経営戦略におけるセールス・マーケティングのトレンドの変化について、以前このような発言をしています。

「力のバランスは企業から消費者へと移りつつある。この事実への正しい対応は、エネルギー、注意力、お金の大部分を、優れた製品はサービスの創造に使うことだ。宣伝やマーケティングではなく。
古い世界では、30%の時間を優れたサービスの構築に使い、70%の時間を広告宣伝に使っていた。これが新しい世界では逆転する。
とりわけブランドは、会社が何を言うかではなく、会社が何をするかによって形作られる」

スターバックスのハワード・シュルツもまた、広告宣伝費については同じ考えを持っており、自著で次のように語っています。

「Starbacksの成功は、全国的なブランドを確立するために広告宣伝費に何百万ドルもかける必要はないことを証明している」

彼らはともにベンチャー企業からスタートし、革新的な戦略でトップに登り詰めた成功者であることに間違いはありません。

Amazonの正式スタートは1995年、スターバックスの成功もまた1990年代と言ってよいでしょう。つまり、それ以前に行われてきた広告宣伝中心によるセールスの時代は終わり、彼らの言う通り、いまや広告宣伝よりも、優れた製品と口コミがセールスの原動力となる時代に変化したのです。

データから見る既存メディアの衰退

かつて花形であったマスコミ四媒体の広告費が年々減少しています。雑誌の部数は減り、テレビの視聴率も以前の勢いは見られません。
図1は2015年の業種別広告費の伸び率をまとめた資料です。

ほとんどの業種において、マスコミ四媒体広告費は減少していることがわかります。

メディアが多様化され、視聴者や読者が分散することで、広告費もまた分散の一途をたどっています。

インターネットの台頭

マスコミ四媒体と入れ替わるように伸びているのがインターネットです。スマートフォンの普及により、特に若年層にはインターネットは圧倒的に身近なメディアとなりました。情報のスピード性、インタラクティブ性が評価され、SNSやキュレーションアプリなどさまざまなサービスが誕生しています。

インターネットの台頭とメディアの多様化により、情報の分散化がますます進みました。さらに情報は分散するだけでなく、爆発的にその量を増やしています。

総務省がまとめた資料(図2)によると、2001年の情報量を100とした場合、2009年には7,163に達し、わずか10年で情報量は70倍以上となっています。
しかし一方で、人間1人当たりの情報消費量には限界があります。把握し切れないほどの情報過多により、情報は一瞬にして消費され、忘れ去られます。情報洪水時代ともいえるこの状況下で、人はどのようにして情報を取捨選択しているのでしょうか?

情報の価値は、量より質

2009年4月ニールセンの調査(図3)によると、信頼できる情報源の順位は、テレビや雑誌などを抑え、1位:知人からの推奨、2位:インターネット上の消費者の意見という結果が出ています。消費者にとって、紹介や口コミは信頼のおける情報源であることがわかります。

身近な人からの紹介や境遇の似た第三者の口コミは、心理的距離や立場が近い分、信頼性が高くなります。今や紹介・口コミは消費者にとって、テレビなどマスコミ四媒体を超え、最も信頼できる一つのメディアとなっていると言っても過言ではありません。

そうすると、企業側から見たときに、この紹介・口コミをうまく利用していくことが、これからの企業の営業・マーケティング活動にとって重要な戦略であることは当然と考えられます。

CLV最大化のその先へ

紹介・口コミを活用した営業戦略を立てていく上で、前提として考えておかなければならないのが市場の成熟度です。例えば東南アジアのような発展途上地域では、未開拓の産業分野がまだまだ多く、既存の取引先の成長が自社の成長に直結します。既存取引先の事業拡大により予算枠が増え、その結果自社との取引額も拡大し、自社の成長につながるという図式です。高度成長期の日本でもそうであったように、このような段階においては、CLV(Customer Lifetime Value=顧客生涯価値)の最大化を目指すことで、十分な売上拡大が狙えます。

ここに、CLV向上を考える上で参考となる資料(図4、5)があります。

スターバックス社の顧客満足度(=CS)とCLVに関する資料です。CSを横軸にCLVを縦軸にとっています。

グラフを見ると、顧客満足度が高ければ高いほど、訪店回数や購入金額が多くなっていることがわかります。そして「満足している」と「とても満足している」では、実にCLVに3倍以上の金額差が生まれています。

このように、CLVの最大化のためには顧客満足度を上げるということが大前提となっています。

紹介・口コミ戦略にとって重要指標となるCRVとは?

しかしながら、日本のような成熟市場では、すでに競合各社が高いレベルでCLV最大化に取り組んでいます。既存顧客からの売上が頭打ちの中、従来のCLV最大化の観点だけでは競合差別要因とはなりづらく、なかなか成長につながらないのが現状です。もう一歩踏み込んだ追うべき指標が必要なのです。

そこで現在、米国など成熟市場において積極的に取り組まれているのがCRV(Customer Recommend & Referral Value=顧客紹介価値)の最大化です。
CRVは、顧客満足度を上げた際にその顧客自身から売上を上げるだけでなく、いかに周辺の家族・友人・知人からも紹介・口コミを通して売上を上げるかという指標です。つまり、既存顧客から効率良く新規顧客を開拓していくということが論点となるのです。

紹介・口コミの信頼性

さてCRV最大化のお話を進める前に、紹介・口コミの信頼性についてもう少し掘り下げておきます。

デル社の調査結果(図6)によると、新規顧客における紹介・口コミ経由の割合は約25%(2億1,000万ドル)。これに対し、肯定的な口コミの件数は4,000万件に及びます。1件の口コミにつき5.25ドルの売上が上がった計算になります。
企業にとって肯定的な口コミは重要な財産であることがわかります。

次のグラフ(図7)は、中価格帯(5~10万円)の商品に対し、家族・友人・知人から口コミがあった場合に取る行動についてまとめたものです。

これによると、口コミされた消費者のうち、50%以上は該当商品・サービスを実際に検索し、40%以上が実際にその商品を見に行っています。つまり、身近な人からの口コミは行動につながりやすいことがわかります。

そして次のグラフ(図8)は、身近な人からの口コミが購入価格にどのように影響するかを教えてくれます。
これによると50%以上の消費者が、口コミを受けた商品の価格がたとえ10%以上高くとも、それを許容すると答えています。

つまり、紹介や口コミは情報の信頼性が高い分、購買行動につながりやすく、また少々の割高感があったとしても購入に至る可能性が高いということがわかります。

このような現状からも、企業の成長にはCLVだけでなく、CRVを向上させていくことが非常に重要であることがわかります。

CLV、CRVから成り立つCRMの全体像

では、今後の営業活動において紹介や口コミを増やし、CRV最大化を目指すにはどうすればよいのでしょうか?
これを、CRM(Customer Relationship Management=顧客関係性マネジメント)の観点から考えます。

これからのCRMにおいては、CLVだけではなく、CRVの最大化も考えていく必要があります。

まずCLVを上げるためには、顧客満足度(=CS)を上げることが必須です。そこから紹介・口コミが生まれることでCRVは上がります。先のスターバックス社の例で言うと「満足している」状態からさらにステップアップし、「とても満足している」状態を作り出し、紹介・口コミが生まれやすい顧客関係を築いていくことがCRV最大化の条件となってきます。そのためには、①紹介が生まれやすい顧客の識別、②紹介が生まれる因子となる自社商品・サービスの特徴の抽出、③紹介が生まれやすい顧客との接点やコミュニケーション手法、④紹介による新規売上をパターン化する自社の組織づくりが重要となってきます。

日本企業の組織の高齢化がCRV最大化の追い風に

近年、日本では組織の高齢化が叫ばれており、営業力の衰退要因と考えられることもあります。しかし、紹介・口コミを活用した営業戦略において、組織の高齢化はむしろ追い風となります。高齢化した営業組織では、往々にして一から新規顧客を開拓するモチベーションに欠ける一方で、長く関わってきた既存顧客との関係性は、若年営業組織に比べ良好な場合が多くあります。この「顧客資産」を紹介営業に活かさない手はありません。

CRV最大化はすべての業種で取り組むべき課題

実は業種によって、すでにCRVに対する取り組みを行っている企業もあります。BtoCでは不動産や自動車ディーラーなど、BtoBではシステム開発やオフィス機器販売などが該当します。つまり購買頻度が低い業種です。それに対して、購買頻度が高い業種では、今のところCLV指標だけを追いかける企業が目立ちます(図9)。しかしながら、今後の人口減少、高齢社会において、CLV指標だけの成長戦略では成長鈍化となる可能性が高くなります。このような業種においてもCRV最大化への取り組みを推進し、効率的な新規顧客の開拓を実践していくことが必要不可欠となるでしょう。

次回コラムからは、CRV最大化のために行うべき具体的な取り組みを紹介します。先述の四つの行動指針、①紹介が生まれやすい顧客の識別、②紹介が生まれる因子となる自社商品・サービスの特徴の抽出、③紹介が生まれやすい顧客との接点やコミュニケーション手法、④紹介による新規売上をパターン化する自社の組織づくり、をベースに述べていきます。

このコラムの執筆者

小川 純市
チーフコンサルタント
小川 純市

早稲田大学大学院にて工学修士取得後、大手経営コンサルティング会社に入社。
大手企業向け教育研修プログラムの企画運営、経費削減コンサルティング等に従事した後、住宅・建設・不動産業界を中心としたコンサルティングに従事。
経営戦略立案から、営業・マーケティング力強化等の成果直結型支援で数多くの実績を残す。
2013年、リブ・コンサルティング入社。
大手企業向けに戦略立案から、選抜チームでのパイロット展開、全社への教育体制整備や組織変革まで、戦略から実行フェーズを一貫して担っている。

UPDATE 2018.02.15
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