第3回/全3回

経営戦略としての紹介営業(第3回)

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経営戦略としての紹介営業(第3回)

経営戦略としての紹介営業(第3回)

EXECUTIVE SUMMARY

「紹介営業コラム」の最終回です。紹介戦略のフレームワーク四つのSのうち、残り二つのSについて説明していきます。

四つのS その3:セールス

紹介・口コミ戦略を組織として進めていくためには、営業やマーケティングなどによる具体的な顧客アプローチは欠かせません。満足度を最大化し、紹介につなげるための営業アプローチとはどのようなものなのか、項目別に解説していきます。

マインド

営業という観点で紹介戦略を考えたときに、そもそも営業組織に紹介アプローチをする習慣がないという課題が出てきます。
調査によると、営業担当者は「紹介依頼をしている」つもりでも、顧客側は「紹介アプローチを受けていない」と答えるケースが非常に多いことがわかりました。これは、営業担当者のアプローチが弱いか、あるいは顧客の認識が薄いかによるところですが、元をたどれば営業組織に紹介・口コミが営業アプローチとして定着していないことの現れでもあります。
紹介営業は「おこぼれをもらうようで嫌だ」「自分の仕事ではない」という感覚の営業担当者も多く、まずは紹介活動自体にどういう意味があるかをきちんと説明し、会社としてもしくは営業組織として紹介に対するマインドを変えていく必要があります。

このマインド変革において重要になるのが、紹介元、紹介先、自社の「三方よし」の考え方です。紹介元にとっては、知人にいい会社を薦めることができ、紹介料という金銭的な報酬を得るケースもあります。紹介先は知人から信頼できる情報を得ることができ、紹介特典がついてくる場合もあります。自社メリットだけでなく、紹介元、紹介先のメリットを意識し、三者の立場で紹介アプローチを理解することが重要です。相手のためという視点が加わることで、マインドは確固とした信念に変わっていきます。

タイミング

組織として顧客にアプローチするタイミングも紹介活動においては大切な要素です。先のサティスファクションの項目で説明した三つのタイミングの中で、特に「契約時」は重要となります。契約時では自社への評価がわからないと考えがちですが、競合他社から選ばれている時点で高く評価されているポイントがあるはずです。紹介の可能性は間違いなくあります。
続いて、契約から納品までの間に紹介が発生する場合も少なくありません。そして、提案内容は良かったが予算が合わなかった場合などに「契約は決まらないが紹介はもらえる」というパターンも実は多いのです。

紹介アプローチはできるだけ早い段階で行うことがよく、また会社のルールとして業務フローに落とし込んでおくことが重要なポイントになります。

テクニック その1:コンテンツ整理

ここからは具体的なテクニックを紹介します。

紹介・口コミを発生しやすくするためには、自社の特徴を「ナンバーワン」「オンリーワン」「ファーストワン」の視点から整理します。自社商品の良さをこのようにわかりやすい形で伝えることで、紹介に結び付きやすくなります。会社や商品にそのような特徴付けができない場合は、人に焦点を当てていきます。しかしながら「人がいいから」というだけでは差別化としては弱く、自社の市場価値が低く見られてしまいます。
ここで重要となるのが二つのコミュニケーションスキルです。一つは顧客の警戒心を解き懐に入り込む「好感形成」、もう一つは「販売のプロフェッショナル」として心から信頼してもらえる「心頼形成」です。「好感が持てさらにプロフェッショナルとして頼れる人だから紹介しやすい」と思ってもらえることが大切です。好感形成と心頼形成を強化することで、新規営業も紹介営業も同時に実績を上げることができます。

テクニック その2:ネットワーク把握

該当顧客のネットワークを把握することは、紹介アプローチにおいて重要です。接点を持った段階から、関連会社や所属する団体、組合など、人脈やネットワークを早めにヒアリングし、推奨度が高かった場合、影響力のより強い人から優先的にアプローチしていきます。会社での役職や部下の人数もネットワークの把握では重要です(図1)。

テクニック その3:アプローチ(紹介依頼・特定依頼)

紹介アプローチをかける際に、まずは紹介元となる顧客に紹介のメリットを理解してもらうことが必須です。紹介元、紹介先、そして自社の三者が「三方よし」となるために、紹介活動を積極的にやっていきたいという強い思いを届ける必要があります。

次に、自社の商品・サービスを買いそうな人を特定しながら依頼することが重要です。紹介をお願いしてもいい返事がもらえない理由の一つに「紹介する人が思い浮かばないから」ということがあります。「三方よし」の思いを伝え、シーンや人物が思い浮かぶような具体例を提示しながら特定して紹介依頼をすることは、相手が紹介しない理由をなくしていく作業となります。これはまさにセールスの基本であり、営業における買わない理由を排除いくこととほぼ同じことです。

テクニック その4:橋渡し依頼

依頼した顧客から、紹介先の具体的な名前が挙がってきたとします。その際に大切なことは、「その時、その場で」つないでもらうことです。紹介先の電話番号やメールアドレスを教えてもらい、後日連絡を取ったとしても、紹介意向が伝わっていなかったり、記憶から抜け落ちている場合もあります。こうならないためにも、顧客から紹介先に「目の前で」電話をかけてもらい、話の途中で代わってもらうことが鉄則です。ここで初めて「紹介してもらえた」といえるのです。
紹介の鉄則は、紹介元、紹介先、自社の三者が同時につながる場を持つことであり、このひと手間が大きな結果をもたらします。

テクニック その5:リピート促進

紹介において、過去に実績のある人からのリピートを狙うことは定石です。一度でも紹介した顧客には、推奨度が高く広いネットワークを持っていることが頻繁にあります。多くの紹介者を増やすことで、紹介からの成果はかなり安定してきます。紹介戦略においては、「一人紹介者」をどうやってランクアップし、「多数紹介者」に育成していくかということを考えていきます。
一人紹介者が多数紹介者になる最大の要因は、一人目の紹介があった際の営業担当者の対応にあります。一人目を紹介したあと、営業担当者の対応がよくなければ、また誰かを紹介したいとは思いません。進捗状況を含め、言いにくいこともきちんと報告し、随時情報の提供をしていく中で、紹介元を大切にしていることをしっかり伝えていく必要があります。
また、紹介料や特典など、紹介元へのメリットを組織制度として形にすることも一つの方法です。この際に特典の存在は紹介元にきちんとアピールしておくことが肝心です。

営業担当者個人として取り組むこと、チームとして取り組むこと、制度として取り組むこと、それぞれの枠組みで手法をうまく使い分けながら、紹介のリピート促進をしていくことが大きな結果につながります。

四つのS その4:システム

ここでいうシステムは、「成果創出パターンを広範囲で実現・継続するために組織で運用する制度(ルール)」と定義します。
会社や業界を超えて紹介という成果を実現し、継続するためには、組織で運用すべき制度(ルール)が必要になります。この項では、システムを作っていく方策を、「管理指標」「ツール(社内向け・顧客向け)」「経営層の役割」の観点から考えていきます。

紹介活動の管理指標

成功パターンに再現性や継続性を持たせるためには、成功パターン策定において「結果」だけを見ていてはあまり意味がありません。中間指標として「プロセス指標」が成功パターンの策定には必要です。
まず、何が紹介活動のプロセス指標となるかを考えます。
重要なことは、最終結果と相関の強い指標を先行指標として選ぶことです。例えば、面談から契約が決まることの多いビジネスにおいては、「紹介からの面談数」を管理することが妥当となります。

図2は、紹介から契約に至るまでの各段階における管理指標を図で表したものです。大きく分けて3段階のプロセスがあり、ステップアップしていくイメージです。
しかしながら、これら全ての指標を管理するには時間がかかりすぎます。そこで各段階において一つずつ指標をピックアップし、管理しやすい量にしていきます。
★印のついたものがKPIとして比較的多くの企業が採用している指標です。紹介活動を始めたばかりの企業の場合、まずは「ターゲット件数」「紹介依頼数」「紹介からの面談数」をプロセス指標として管理し、あとは結果指標を押さえておきます。企業規模によってはデータが乏しくなり課題発見が難しくなるケースがあるため、より多くのプロセス指標を取った方が確実です。指標の数は企業の規模感で変える必要があります。

社内向けツール

社内向けツールとして準備するものには、紹介営業マニュアルがあります。紹介活動には一定の成功パターンがあるため、マニュアル化することは十分可能です。しかし営業マニュアルであればすでに存在する企業は多く、マニュアルをむやみに増やすことで内容が社内に浸透しなくなる懸念も出てきます。そこで営業マニュアルと紹介マニュアルを一体化させます。
つまり、営業の仕事を、「契約してくれた顧客に良い商品・サービスを提供して満足していただき、次の顧客を紹介してもらうところまで」と定義し直すのです。これによって明確なゴールを認識し、全員がそこに向かうようになります。「紹介がもらえてこそ一人前」という意識を、マニュアルを通じて当たり前にしていくことが重要です。

顧客向けツール

紹介アプローチの質を全社的に高いレベルで維持するためには、顧客向けの紹介ツールを準備し、誰もが使える状態にする必要があります。顧客向け紹介ツールは二つに大別できます。一つはセグメンテーション用紹介ツールで、CSアンケートの他に、アンケート回収率を上げるためのコールスクリプトがあります。もう一つはセールス用紹介ツールです。顧客への具体的アクションを把握するタイミング別アプローチプラン(図3)、顧客の人脈を記録するネットワーク把握資料、紹介方法が整理された顧客向けの紹介アプローチブック、紹介元および紹介先に紹介特典やメリットがわかりやすく伝わる紹介制度一覧表が挙げられます。

経営層の役割

紹介戦略における経営層の役割は二つあります。
一つは、紹介に対する取り組みの本気度を社員に示すことです。会社にとって「なぜ紹介が必要なのか」を明確なビジョンとともに社員に伝えることは経営層にしかできません。しかし、往々にして紹介活動は重要ではあるが緊急ではないと認識されがちです。これに対しては、成熟社会においてCLVからCRVにプライオリティが高まる中、紹介活動の重要性を「危機感」というキーワードを通して伝えていくことができます。
もう一つの経営層の役割は、紹介活動が良いことであるという確信を社員に信念を持って語ることです。紹介・口コミでビジネスを広げることは良いことであるというマインドを当たり前のこととして発信しなければなりません。会社として方針を徹底させていくためには、経営層が常にメッセージを発信し続けることが重要です。普段から社員に語りかける、もしくは紹介営業による顧客の創出に対して通常営業とは異なる高い評価を与えるなど、経営層からの明確な発信や制度化が大切です。

紹介営業を継続することによる効果

組織として紹介営業を続けていくと、当然ながら紹介実績は上がっていきます。最初は件数が少なくとも、少しずつ紹介比率が上がってくるにつれ、経営陣には「紹介が主要なルートなのだ」という認識が生まれてきます。これは経営層だけでなく社員にも同様で、紹介実績が上がっていくことで紹介戦略を継続するメリットを感じられるようになります。
紹介による契約顧客が増えてくると、会社自体が次の紹介を呼び込みやすい顧客構造に徐々に変化してきます。初めの半年から一年はなかなか結果につながらないかもしれません。しかし、つらいこの時期を乗り越えて活動を続けることで、次第に好循環が生まれてきます。

日本のような成熟市場において、企業に求められるものはCLVからCRVへと確実に変化しています。これからの新規拡大を目指そうとするとき、たとえいかなる業界であったとしても、紹介・口コミ活動を視野に入れない営業戦略は考えにくいでしょう。
また、紹介営業を継続することにより、単なる新規顧客の獲得を超えた継続的な成果を生み出し、社内の認識が変わり、組織に新しい変化が起こります。紹介戦略は一つの営業戦略の枠を超えた組織改革の大きな一歩となるのです。

このコラムの執筆者

小川 純市
チーフコンサルタント
小川 純市

早稲田大学大学院にて工学修士取得後、大手経営コンサルティング会社に入社。
大手企業向け教育研修プログラムの企画運営、経費削減コンサルティング等に従事した後、住宅・建設・不動産業界を中心としたコンサルティングに従事。
経営戦略立案から、営業・マーケティング力強化等の成果直結型支援で数多くの実績を残す。
2013年、リブ・コンサルティング入社。
大手企業向けに戦略立案から、選抜チームでのパイロット展開、全社への教育体制整備や組織変革まで、戦略から実行フェーズを一貫して担っている。

UPDATE 2018.02.15
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