マーケティング戦略

ディスラプティブマーケティング戦略の日本的実践

コラムCOLUMN

EXECUTIVE SUMMARY

■はじめに

「ディスラプティブマーケティング戦略(破壊的マーケティング戦略)」が、米国のマーケティング科学アカデミー2017において発表されました。これは日本企業にとって非常に参考となる一方、その実践は必ずしも容易ではない側面もあります。

昨今注目されるインサイトセールスもまた、ディスラプティブマーケティング戦略の一環と捉えることができ、これが日本企業においてうまく機能していないことも事実です。

機能不全となる日本のインサイトセールスをディスラプティブマーケティング戦略にまで視点を引き上げ、考察することで、日本企業の組織面における体制構築の課題が見えてきます。

■ディスラプティブマーケティング戦略とは

ディスラプティブマーケティング戦略(破壊的マーケティング戦略)とは、マーケティング科学アカデミー2017においてミシガン州立大学(Eli Broad College of Business)教授のトーマス.Hult氏とオーバーン大学経営学部教授のデイビッド.J.Ketchen氏により発表されたマーケティング戦略の名称です。

本文引用(訳)
“破壊的マーケティング戦略とは、貴重なマーケティング活動が当初は組織内の部門や機能内での応用が根付いた後、企業内の他部門や機能をひたすら横断し、最終的には市場本位の価値創造が企業の主要な利害関係者にもたらされることを確実にするため外部企業と結びつくプロセスである”
※引用元:Disruptive marketing strategy, G. Tomas M. Hult & David J. Ketchen Jr

ディスラプティブマーケティング戦略への理解は、近代マーケティング・コンセプトの変遷を把握することで得られます。

■近代マーケティング・コンセプトの変遷

近代マーケティングの始まりは1908年、米国ヘンリー・フォードの「T型」から始まったといわれます。
産業革命後、急速な工業化が進むと、まだ近代的な製品を手にしていなかった消費者層にも、大量生産方式による低価格高品質な製品供給がなされるようになります。

企業の目的は製品を販売することであり、マーケティング・コンセプトは専ら製品開発にありました。規格標準化と規模の拡大により低価格化を実現し、より多くの消費者に届ける仕組みが築かれていきます。
1960年代前半には米国の経済学者エドモンド・ジェローム・マッカーシーがマーケティング・ミックス(4P理論)を提唱し、フィリップ・コトラーはこの時代をマーケティング1.0と称します。

そして1990年、米国の経済学者ロバート・ラウターボーンはマッカーシーの生産者視点を顧客視点へと転換し、4C理論を打ち立てます。この頃日本でも、市場が飽和し、技術の高度化が進展していきます。
次第にプロダクトアウトによる成長戦略は頭打ちとなり、1990年代前半、多くの企業がマーケットインへと舵を切りました。マーケティングは2.0へと進化を遂げました。

21世紀、市場は成熟期、分野によっては衰退期へと突入し、マーケティングは消費者中心時代から価値中心時代へとシフトしていきます。ソーシャルメディアの普及、社会課題の顕在化、市場の成熟化といった時代背景により、企業の社会的責任がより一層深く問われるようになりました。

マーケティング3.0では、企業は「マーケティングで世界をよりよくする」ことが求められ、「マインドとハートを持つ全人的存在」としての顧客と共に価値創造をしていくことで、結果として成長につながると説明されます。

■マーケティング・コンセプトの変遷が生む必然的ディスラプション

マーケティング・コンセプトは企業のミッションや価値観へと移行し、1.0の機能的価値、2.0の感情的価値に加え、精神的価値を顧客インサイトに見出すことが利益創出につながることとなりました。
昨今日本でも注目されるインサイトセールスの早急な実現が求められ、この時点において、マーケティング・コンセプトの実践としての市場志向は、企業にドラスティックな組織変革を強いることとなります。

もはや機能別組織による売り込み型や課題解決型のセールス・マーケティングは顧客価値創造に直接的な要因とはならず、企業は組織として各機能、例えば営業部門、マーケティング部門をはじめ、あらゆる部門を横断的に統合したコミュニケーションモデルが鍵を握ることとなりました。

事業部制組織、マトリックス組織への編成など、組織のあらゆる側面にマーケティングを浸透させ、時には企業間をまたぐ形で破壊的なマーケティング活動が必要となったのです。
そうすると、成熟期から衰退期に差しかかる市場において、次なる新需要創出期として成長戦略を描く際、そのバックボーンとなり得るのは、破壊的マーケティング戦略を実践するための体制を組織としてどのように構築していくのかという方法論だといえます。

■インサイトセールスが日本企業で機能不全となる理由

破壊的マーケティング戦略を実践していく上で、インサイトセールスの実現は必要不可欠です。クリエイティブペアやチームセールスなど部門横断的なコミュニケーションモデルの構築・運用に成功している企業では、従来のセールス体制ではなし得なかった組織としての創造性を増幅させ、顧客インサイトの適切な把握により新需要を生み出し、ビジネスを成長させています。

例えば、精密機器・計測機器メーカー大手のキーエンス社はこのような取り組みで最も成功を収めている企業の一つといえます。顕在ニーズへのソリューション営業では製品のコモディティ化は避けられず、クライアントの現場から潜在需要を発掘し、製造部門や開発部門との一体的な活動により新たな利益創出に促しています。


これはまさに新しい売り方、ひいては新しいマネタイズのアプローチを考え実践する取り組みでもあります。しかしながら、多くの日本企業において、この体制構築がネックとなってしまっています。

ではこの新たな体制構築を阻む要因とは何でしょうか?
一つは、日本企業を取り巻く「人材の流動性の低さ」にあると考えられます。新需要創出期において従来のマーケティング・セールス手法とは全く違う新しいアプローチが構築された際、人財最適化が課題となってきます。

人財の流動性の低い日本において、新しい需要が創出されるたびに人を入れ替えることは現実不可能です。この事実を踏まえた上で、新需要創出期に適合した部門横断的コミュニケーションモデルを構築するための慎重な日本的アプローチを考えていく必要があります。

■R&D組織としてのパイロットチームとは

需要創出期において、モデレートに組織を編成していく初期段階として、営業やマーケティング部門を横断する「パイロットチーム」の編成は非常に有用な手段となります。

市場成長期から成熟期にある企業では、営業やマーケティング部門は常に現在価値の最大化が求められてきました。今顕在化する需要に対してどのように売り込むか、今顧客が抱える課題をどのように解決するかといった、ニーズは常に顕在化しており、それに対する顧客アプローチを効率よく行い、現在価値を高めていくことが是とされてきました。

営業やマーケティング部門には将来に向けた投資は一切されず、必然として新しい枠組みが生まれることもありませんでした。しかしながら、ニーズが顕在化されていない現代において、営業やマーケティング部門は将来価値を上げていくべき新たなR&D組織として認識される必要性があります。

営業、マーケティング部門から選出されたメンバーによりパイロットチームを編成し、小さく実験的な取り組みを行っていきます。そしてそこから新しく非線形的なセールスアプローチを開発していくことが新たな利益創出の突破口となり得ます。

これはいわゆる新規事業開発室とは全く違う役割で、あくまで新しいマーケティング・セールスの枠組みを開発するということになります。企業はパイロットチーム導入で成功した新たな手法を徐々に組織に浸透させ、新需要創出期に適合した組織編成を実現していくことができるのです。

■日本的ディスラプティブマーケティング戦略の最適解

1.0~2.0時代、’’ものづくり志向’’により組織された日本企業にとって、3.0以降の’’ものがたり志向’’は理解は得られるものの、組織としてキャッチアップできていない現状があります。
利益志向、インサイトセールス、CSなど、マーケットインの発想から製販一体を試みる日本企業が増える中で、販売機能に属する営業部門、マーケティング部門だけがいまだに現在価値の最大化に注力するばかりで、将来につながる新しいアプローチの開発がなされていません。

破壊的マーケティング戦略を日本企業が実践していく上で、まずは営業やマーケティング部門がR&D組織として認識され新たな顧客関係性を築いていくことが重要です。
そして製造や開発と一体となり、ひいてはバックヤード部門とも連携することで、ステークホルダーへの価値創造を全方位的に実現していくことが可能となります。

このコラムの執筆者

権田 和士
常務取締役
権田 和士

早稲田大学卒業後、大手経営コンサルティング会社に入社。
様々な業界のマーケティングコンサルティング、経営戦略コンサルティングに従事。
2008年より4年間、住宅不動産コンサルティング部門の本部長を務めたのち、
米国ミシガン大学に留学し経営学修士(MBA)取得。
2014年、リブ・コンサルティングに参画。
現在、常務取締役として海外事業および新規事業を統括している。

UPDATE 2018.03.09
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