タイコラム

日本企業はいかにしてジャパンプレミアムを売り込んだか―タイ進出の成功事例

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EXECUTIVE SUMMARY

はじめに

 2016年、タイの名目GDPは4,000億米ドルを超えました。これはASEAN諸国の中でインドネシアに次ぎ2番目の規模となります。国民1人当たりのGDPにおいても、1997年の2,466米ドルから、2016年には5.908米ドルに成長しています。年平均成長率は4.7%と非常に高い水準を保っています。

 年々活気づくタイ経済において、外資系企業の進出は多く、日系企業もその例外ではありません。多数の日本企業が進出を果たす一方で、撤退を余儀なくされる企業も非常に多く見受けられます。
 ここでは、タイ進出で成功を収める日本企業2社を紹介し、その成功要因を考察していきます。

現地市場を的確に捉えた商品選定

 KOSEは主力ブランドの雪肌精(せっきせい)をはじめとするスキンケア製品メーカーとして、1985年にタイへ進出しました。
それまでにも同業他社が小売価格の伸び悩みを理由に撤退する中、KOSEはバンコク伊勢丹をはじめ、セントラル、ザ・モールなど、現地の主要ショッピングモールに店舗を構え、今なお、タイにおいて非常に強いブランド力を維持しています。

 さて、同社のタイ進出における成功要因を分析すると、商品選定とコストマネジメントにあることが分かります。

 まず、KOSEのポジショニングを確認します。

 タイにおいて、KOSEはスキンケア製品をメインとした比較的高級なブランドとして認知されています。
 日本では大手化粧品メーカーであり、数ある商品カテゴリを保有するにもかかわらず、同社は進出時、まずスキンケア製品シリーズ「雪肌精」のホワイトニングローションのみをタイ市場に投下しました。

 タイ人にとって透明感のある色白肌は憧れの対象で、日本人の肌はまさに理想に近いといわれています。この現地需要に応える形でスキンケアシリーズ「雪肌精」を展開し、高品質なスキンケアブランドとして認知度を高めたことが、同社の成功要因の一つに挙げられます。

 さらに、ホワイトニングローションのみに絞ったことが高級感の演出につながり、それと同時に高価格帯の維持に貢献しました。実はタイでは、美白系スキンケア市場において、すでに競合が多数存在し、価格帯も安く抑えられていました。そこで同社は差別化を図る上で日本品質を活かすべく、あえてスキンケア商品の中でもより高級感を演出しやすいホワイトニングローションを選定します。

 例えば、石けんや洗顔フォームなどは汚れを取るための消耗品であり、単価は100~1,500THB(約300~5,000円)と低めです。一方、ホワイトニングローションのような美白や保湿など、美肌を目的とした商品は400~6,000THB以上(約1,000円~数万円以上)と高単価であり、プライスレンジが広いことが特徴です。低価格帯の商品では、いくら日本品質をアピールしたところで価格の上げ幅には限界があります。

 またスイッチングコストも低くなり、愛用者を作りにくいことも事実です。ジャパンプレミアムを活かすためには化粧水や美容液などWTP(=Willingness to pay / 支払い意思額)の高い商品が最適で、同社のホワイトニングローションの選定は、まさに日本品質を最大限に活かすポジショニングであったといえます。

コストマネジメントのために何を残し何を捨てたか

 KOSEではR&Dを日本と中国で、生産は日本、中国、台湾で行っていますが、タイに流通する製品はすべて日本から輸入したものとなっています。日本製を直接輸入することで日本品質を強調できる一方、輸送コストがかさむことがネックになります。そこで同社では日本で展開されている雪肌精のブランドアイデンティティをそのまま現地に持ち込むことで、広告やVMDなど販促費においてコスト削減に成功しています。

 日本のタレントは特に現地で有名というわけではありませんが、タイ人が憧れる理想がビジュアル化されており、日本人の美肌がアピールされています。また、商品パッケージにもあえて日本語を残すことで、コスト削減と日本品質の訴求を同時に実現しました。

 下の資料は雪肌精ローション(360ml)の商品単価を2017年11月の為替レートで算出したものです。


 日本での単価が8,100円であるのに対して、タイ価格は7,669円です。差額はわずかに400円と大差なく、タイでの販売においては売上原価が高い分、その他のコストを抑える必要性があります。適切な市場選定や販売戦略によりWTPがコストを上回り、日本と同等の利益率を実現させました。

 サプライチェーンのどこでコストアドバンテージを出し、かつジャパンプレミアムを活かしていくか、この点においてKOSEのタイ進出は非常に卓越した戦略設計であったといえます。

 美白市場が人気で日本品質の信用性が高いCustomer(市場顧客)、低価格帯のコモディティ商品が充実したCompetitor(競合)に対し、日本ブランドを活かした美白製品が主軸のCompany(自社)と、3C分析から考察しても市場と競合を把握したマーケティング戦略が実を結んだということができます。

日本の住宅に対するイメージづくりに注力

 2017年6月、信和不動産株式会社が出資するタイ現地法人、Shinwa Real Estate(Thailand) Co.,Ltd.(シンワリアルエステート)は、日本人が多く居住するバンコクのトンロー地区に8階建て156住居の分譲マンションを開発し、タイ人向けの販売住戸枠を完売させました。

 過去、日系デベロッパーがタイへ進出する中で、主導権を持って進められた事業がほとんどありませんでした。そういった中、地元不動産が手掛ける分譲マンションに比べ、決して安くない価格設定で同社が成功を収めた要因とは何だったのでしょうか。

 シンワリアルエステートの成功要因としてまず挙げられることは、日本の住宅品質の高さを市場に認知させることができたという点です。進出当初は、タイ人消費者にとって日本の住宅に対するイメージや知識はほぼ皆無であったといわれています。そこで、日本の住宅の工法や機能性をまず市場に理解してもらい、そこに日本品質をひもづけていくことで信頼性を高める工程が必要でした。

 これはすでにアニメや化粧品、自動車など、別業種において日本クオリティが評価されており、タイ参入に優位に働いたと考察できます。

<コンドミニアムプロジェクト「RUNESU Thonglor5」>

 実際にタイ市場において、シンワリアルエステートが手掛ける住宅では、品質理解につなげる日本的特徴が大きく二つ打ち出されています。一つ目は、工場生産であるということです。日本の住宅メーカーでは当然のことですが、現地では珍しく映ります。建築現場で直接建てる場合、雨や湿気など天候による影響を受け、部材が劣化する恐れがある一方で、工場生産では室内で大部分を作ることにより、品質が安定し、生産性の向上や輸送コスト削減にもつながります。

 二つ目の特徴は、タイではそれまでなかったルネス工法を採用していることです。梁が天井にある一般的な工法とは異なり、梁を床下に設けることで、床下にできる空間を収納やデザインに活用します。

 これらの特徴はいずれもタイでは馴染みがなく、日本らしい独自のスタイルとして打ち出されたことで、新しいもの好きのタイ人消費者に受け入れられました。

 また、プロモーションにおいても、TVCMなどのマスメディアだけでなく、facebookやInstagram、YouTubeなどデジタルメディアを積極的に活用し、現地KOLもアサインしたクロスメディアによる口コミマーケティングが展開されました。日本品質の理解促進のために、モデルルームへの来場増しに注力し、来場者にはマット紙で印刷された高級感のあるパンフレットを配布、さらに住居各部の名称や説明文には「GENKAN」「JIDOU TOILET」「SOKKAN FLOOR」など、日本語をそのままアルファベット表記した言葉を多数使用し、細部に至るまで日本ブランドを印象付ける努力がなされました。

<実際に配布されたパンフレットの様子>

現地の住宅事情や慣習にも配慮

 現地規制に基づき、販売床面積にして51%以上をタイ人に販売する必要がある中、過剰な日本押しはタイ人集客の足かせとなりかねません。目新しい工法や品質の高さは興味を引くところではありますが、実際の住み心地となるとタイの居住慣習にマッチしたものであることが重要です。

 例えば、タイではキッチンに洗濯機があることが一般的です。また日本に比べ平均気温が高く暑いため北向きの部屋が人気です。タイ人にとって慣れ親しんだ居住空間には日本のものとは全く異なる点が多数存在します。このような現地の住居環境についてリサーチを重ね、プロダクトに十分反映されたこと、そしてそれをスピーディに行える体制が組織されていたことも成功の要因であったと考えられます。

 タイ経済が活況の中、国民の生活水準は確実に上がってきています。所得増加に伴い、消費財やコンテンツなど低価格商品だけでなく、今や住宅、自動車など高価格商品にも手が届くようになってきています。進出時期としても、ジャパンプレミアムを後押しする絶好のタイミングであったといえます。

裁量ある担当者のアサインと撤退条件の設定

 タイに限らず、海外進出にはあらゆる局面でスピーディな決断が求められます。その都度日本に持ち帰り、会議にかけていてはビジネスの進みは遅く、機を逃すことにもつながりかねません。海外事業の責任者は、ある程度の決裁権を持つことも極めて重要です。

 また、万が一のために事前に撤退条件を設定しておくことも必要不可欠です。撤退条件は、いつまでに利益をどのくらい出すか、いつまでに現地人に業務を完全委任するか、という指標で設計されることが多く、一般的には海外進出から「3年で黒字化」というケースがよく見受けられます。

 以上、タイ進出で成功を収めた日本企業2社を紹介してきました。いずれの事例もまず、現地特有の顧客ニーズに対して正確な理解がなされていました。そして現地市場に対してジャパンプレミアムをどのように提案していくか明確な打ち出しがあったことで、タイ人消費者の心を的確につかんだと考えることができます。

このコラムの執筆者

チョンバンヤチャロン サラ
コンサルタント
チョンバンヤチャロン サラ

バンコク出身。文部科学省の奨学金を受けて日本に留学。
一橋大学卒業後、2014年にリブ・コンサルティングに入社。
日本でコンサルティング経験を積んだ後、タイに赴任。
タイのローカルの大手企業、中堅企業向けに営業、マーケティング領域のコンサルティング支援を担い、
自社のタイ、マレーシアオフィス立ち上げにも携わる。

UPDATE 2018.04.27
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