対談PREMIUM TALKS

成熟市場で売上を伸ばすブランド戦略

EXECUTIVE SUMMARY
ハーレー・ダビッドソンジャパンの元社長・奥井俊史氏と弊社代表の関は、経営に対する考え方に共感するところが多く、かねてより交流させていただきました。 もう長いお付き合いとなる二人が「ブランドづくり」をテーマに語り合いました。

方針が何もないところからのスタート

ハーレー・ダビッドソン・ジャパン(以下ハーレー・ジャパン)は非常に有名でブランド力もあるのに、社員100名で切り盛りしていたんですね。

奥井

そうですね。会社の立場としては、インポーター、ディストリビューターなので、実際の小売にはタッチしていません。販売店を含めると、総スタッフは2000名くらいになると思います。

アメリカ本社からの日本におけるマーケティングポリシーを実践していくという立ち位置でした。会社として担っている機能がマーケティングとブランディングのみと限定的だったので、100人という人数でもできていたのかなと思います。

でも奥井さんがハーレー・ジャパンに入られた当時、アメリカ本社は日本におけるマーケティング方針を全く決めていなかったんですよね。

奥井

全く何もありませんでした。驚くことに、「ハーレー・ダビッドソン」という日本語の商標すら取得できていなかったんです。商標権は本来本社が持っているので、本社が各国で登録すべきなのですが、なかなか動いてくれなくて。しびれを切らして私たちから申請して、商標権が取れたのは、なんと2002年になってからでした。

価格で売らずに価値で売る、モノで売らずにコトで売る

「価格をどんなに下げたとしても、競合製品と比べて2.1倍までしか下げることはできない」と以前おっしゃっていましたね。価格がもう下がらない状態になって、そこからどのように価値を上乗せして売っていくかを考えるとき、「製品と価格を固定化してのブランディング」がスタート地点になりますね。

奥井

私が以前に読んだソニーやパナソニックのブランド戦略に関する本には、「ブランドが確立されると価格競争力が1.2倍になる」と書かれていました。つまり「ブランドによって2割のプレミアムが得られる」「2割の価格差は認めてもらえる」ということです。「価格で売らずに価値で売る、モノで売らずにコトで売る」です。ハーレー・ジャパンの場合、当時日本のマーケットでブランド価値が確立されていたわけではなかったので、これを生かすのが一つの手だなと思いました。

ハーレーは「輸送手段」ではない ~選択と集中

最近になって商品の本質的な価値を見つめ直すことや「コト売り」が一般的になってきていると思うのですが、奥井さんはどうして20年以上も前にそのような考え方に行き着かれたのでしょうか?

奥井

自社の商品がどのように使われているかを素直に観察して、他社とどう違うのかを考えてみたのです。町を見てみると、蕎麦の配達や郵便配達のためにハーレーを使っている人は一人もいない。ハーレーは二人乗りするのも難しいし、一番早くて安い輸送手段なわけでもない。ハーレーに輸送機能を期待して乗っている人はいないように思いましたね。ということは、「ハーレーの存在意義や購買目的は楽しみや趣味のためなのだ」と気づいたのです。

「輸送手段ではない」と発想を切り替えて選択と集中をされたことが「コト売り」のマーケティングにつながったのですね。もし「輸送手段」という考え方が中途半端に残ってしまっていたら、ここまでの世界観には至っていなかったでしょうね。以前に「全てが整った世界観を一度見せないと完成した状態が分からない」というお話をされていましたね。高額なものを売るには大切なポイントだと思います。

奥井

ブランドは抽象論ですから、100人いれば100人が異なるブランドイメージを持つわけです。そこをメーカーとして、「うちのブランドはこういう世界ですよ」と示していくと、対お客さんだけでなく、社内のコミュニケーションも非常に良くなります。

ディズニーランドも、外の道路や電車などが中から絶対に見えないようにして、見えるもの全てをディズニーの世界で固めていますよね。トップレベルのブランドづくりとはこういうことかなと思います。

「オンリーワン」「ファーストワン」の積み重ねで「ナンバーワン」に

ブランド戦略においては、「ナンバーワン」「オンリーワン」「ファーストワン(日本初、業界初など)」の3つの要素をどれだけ増やせるかも重要ですよね。

奥井

実は当時、社員が誇りを持てるような共通項が必要だと感じていました。みんな中途採用で入ってきて、「生粋のハーレー・ジャパン育ち」の社員は一人もいなかった。背負っている背景も文化もばらばらだからこそ、メンバーを引っ張るものが必要だと思いました。

外部向けというよりも、最初はインナーブランディングだったんですね。確かに当時の状況で結束力を生むためには大切ですね。

奥井

最初は「ナンバーワン」は狙っていませんでした。とにかく「オンリーワン」「ファーストワン」があればいいと。3か年保証など、「本当に小さなことでも、やりやすいところからファーストワンになろう」と言っていました。

中小企業は「オンリーワン」「ファーストワン」からブランドを作り始めて、それをきちんと積み重ねていくうちに、どこかのカテゴリで「ナンバーワン」になっていきますよね。とても現実的なブランドづくりだと思います。

通念にとらわれず事実を見つめる

奥井さんの経営哲学の中でも、パレートの法則(※)の捉え方は特にユニークですよね。「パレートの法則は全てのビジネスに当てはまる」とほとんどの人が考える中、実際に調べたデータをもとにこの法則を否定して経営方針を作り上げてこられたことには驚きました。

奥井

トヨタ時代の先輩から「通念を疑え」という心構えを教わっていたので、あまりにも定理になりすぎていることは疑ってかかった方が良いなと思っていました。一般概念としてはそうでも、個別の事象には当てはまらないこともありますよね。パレートの法則は、少なくとも自動車やオートバイ市場の場合、常に当てはまるわけではないのです。

フラットに物事を見ることはなかなか難しいですよね。でも通念に縛られないということが、新しいものや価値を生み出すときのスタートなのかなと思います。 私は自社の社員に「自論を持ちなさい」といつも言っています。「持論」ではなく、「自論」です。コンサルタントはクライアント企業を伸ばさなければならないので、一般常識の範囲でお手伝いしていても他社との差をつけられません。だからコンサルタントは常識ではないところに本質を見出せなければならない。パレートの法則はビジネス界では誰もが信じている通念・常識です。「こういった常識を否定してビジネスを作り上げる方がいるんだ」と、奥井さんのお考えには本当に驚きましたね。

奥井

ハーレー・ジャパンの場合、ユーザー数が少なかったので1件1件分析することができました。実際に分析してみた結果、パレートの法則とは全く違っていたので自信を持って言えたんです。私が担当していたマーケティングは需要の創造が絶対的な使命ですから、顧客を創造しなければいけない。事実と異なる法則を運用していても、需要は生み出せないからというシンプルな理由です。

これまで様々な会社にコンサルティングをしてきましたが、伸びる会社は業界の常識とは違ったことをしているケースが多い。周りからすると「何だか変なことをやっているな」と思うのですが、面白いことに、3~5年経ってその会社が大きく成長するといつの間にかそれが通念に変わっているんですよね。

※パレートの法則
イタリアの経済学者パレート(1848-1923)が提唱した20:80の法則。ビジネスにおいては、「2割の顧客が8割の売上を生み出す」「全商品のうち2割の商品が全体の売上の8割を占める」と言われてきた。

疑いをもち、反証してみせる

奥井

例えばコトラーさんは「新規顧客の獲得は維持客をユーザー化するのに比べて5倍のコストがかかる」とおっしゃっていますが、全てのビジネスで実証されているわけではないですよね。本当に5倍のコストをかけないと獲得できないのかというと、現実はそうではないし、実際に5倍のコストをかけて新規顧客を開拓するほど熱心な企業はほとんど見たことがありません。

人はその時主張したい論旨に合わせてある程度データを操作するので(笑)。このような理論も、そのまま受け入れる人と「本当にそうなのか?」と思える人とで差が出ると思います。

収益化できてこその「顧客第一主義」

「顧客第一主義」を掲げていても、CRMとの関係を押さえられていないがために売上につながっていない会社も多いですよね。

奥井

「顧客第一主義」は、ビジネス上は慎重に解釈する必要があります。顧客をリードできているか、オファーをぶつけながら顧客を尊重しているか、あるいは単に顧客の言うことを聞いているだけか。顧客満足にも様々なパターンがあります。 やはり自分のビジネスのための顧客第一主義でないと、経営者として掲げる意味はないと思います。どのように顧客を尊重すれば自分のビジネスにとってプラスになるかを考えていないと、「結局何も残らなかった」という結果になりかねません。

企業はリターンがないと続かないですからね。一時的にお客さんに丁寧に対応しても、自社へのリターンがないと分かると、次の年から予算がなくなる。自社にとってのCRMとは何なのか、そしてどこで収益化するのかが見えていないと、お客さんに継続的にサービスを提供することができなくなってしまいます。

奥井

アフターサービスを含めると、お客さんとは複数回接触することになります。ものすごく高いCSを1回だけ出すことと、世間の標準より少しだけ高いCSを継続的に出し続けることのどちらが大切かと言えば、ビジネス的には後者だと思います。事業は継続できなければ意味がないのです。

全社員で作り上げるマーケティング

全社員が集まって、一日でマーケティングカレンダーを作る取り組みをされていたそうですね。ハーレー・ジャパンのCRMに基づいたマーケティングが、まさか一日で決まっているとは誰も思わないでしょうね。

奥井

全員参加で決めるというのは意外と考えつかない方法でしょう?約1ヶ月前に私が来年やるべきだと思うことを共有し、全社員が一堂に会して、一日で全社マーケティング計画をつくるのです。100人入る会議室と自動コピーが取れる白板が60台あったので、まず各部門の年間スケジュールを2時間で作って、その後の2時間で修正しスケジューリングしていました。

方針を決めるのと同時に「何をやるべきか」の浸透もできる「スピード経営」ですね!

「所有する」概念が薄れていく時代に大切なこと

今後消費者がモノを買うとき、どこから買うかを考える以前に、「そもそも所有する必要があるのか」がポイントになってくると思います。インターネットのダウンロード速度は2020年までに今の1000倍になるそうですが、そうなればきっと電子書籍もダウンロードするのではなくストリーミングで見るようになりますよね。ダウンロードが所有の概念だとしたら、ストリーミングはレンタル、シェアの概念です。これからは何も所有しないのが当たり前になって、教科書ですら、電子教科書をストリーミングで使う時代になるかもしれない。そういう環境で育つ子どもたちは、「所有する」という概念を持ち合わせなくなるでしょうね。
所有の概念が薄れている時代だからこそ、世界観のあるイベント(「第6のメディア」)で「持つことの楽しさ」を伝える必要があります。ハーレーを持つことの面白さや乗ったときの興奮を、いかに敷居低く体感してもらえるかがとても大事ですよね。

奥井

そのイベントをさらに「売る」ということまでいかに結びつけられるかですね。どんなにイベントマーケティングをやっても、購買までつなげられなければ会社は生き残れないですから。

ハーレーはすごく贅沢品です。「買わなくてもいい」ものを売ってこられた流れは、今「買わなくても良い人たち」にいかに売るかと同じなのではないかと思うんですよね。

奥井

ハーレーは買わなくても生活に困ることはありません。だからこそ、楽しみを感じていただく必要があるのです。

PROFILE

ハーレー・ダビッドソン・ジャパン元社長
奥井 俊史 おくい としふみ

1965年大阪外国語大学中国語科卒業後、トヨタ自動車販売株式会社(現トヨタ自動車株式会社)入社。1980年、トヨタ自動車初代北京事務所所長就任。エジプト、アルジェリア、リビア、ヨルダン、チュニジア、スーダン等十数カ国向けの輸出・販売業務を担当。各国で輸出実績を大きく伸ばす。1990年、ハーレー・ダビッドソン・ジャパン株式会社代表取締役就任。1982年以降6分の1までに縮小していた国内オートバイ市場にあって、代表取締役を務めた19年間一貫して連続成長を実現。2008年12月同社代表取締役を退任。2009年1月、アンクル・アウルコンサルティング開業。企業経営の経験を生かした実戦的コンサルティング活動を開始、現在に至る。

株式会社リブ・コンサルティング 代表取締役社長
関 厳 せき いわお

東京大学教育学部卒業後、大手経営コンサルティング会社に入社。同社史上最年少で取締役就任、2010年専務取締役就任。リーマンショック後の逆風の中、自身の統括部門を3期連続の増収・増益に導く。2012年7月リブ・コンサルティングを設立。「“100年後の世界を良くする会社”を増やす」を理念に掲げ、トップコンサルタントとして幅広い業界のコンサルティング支援に携わる。コンサルティング活動以外にも多くの業界団体向け講演活動も行っており、年間約5,000名を動員。昨年11 月出版の書籍「経営戦略としての紹介営業」は、全国の大手書店ビジネス部門にて第1 位を獲得。同社は「2016年:注目企業33」(経済界)に加え、2年連続で「働きがいのある会社ランキング」のベストカンパニーに2015年、2016年と2年連続で選出されている。

UPDATE 2015.02.15
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