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《今こそデジタルウィンを決断するとき》第2回_DX推進のポイントとカーディーラー経営におけるデジタル活用事例

EXECUTIVE SUMMARY

弊社は、良い経営とは、「環境、戦略、組織、人財の一貫性が取れていること」と定義している。環境の変化を機会と捉え、適応することが、経営の基本である。
今年の業界における大きな環境変化として、①トヨタ系列における全車種併売化による変化、②コロナ禍による社会の変化、の二つがある。
弊社は、7月に環境の変化、特にデジタル化に着目し、「カーディーラー経営革新セミナー」を開催した。その内容を3回の連載で紹介する。
第2回は、カーディーラー業界のデジタル化とその推進のポイントを説明する。

第1回目のコラムはこちら

■デジタル化の変化(図1)

ダボス会議UBS白書(2016年)では、現在までの産業革命を4回で説明している。第1次産業革命は、18世紀から19世紀初頭の蒸気機関、紡績機など軽工業の機械化である。第2次産業革命は、19世紀後半の石油、電力、重化学工業である。第3次産業革命は、20世紀後半のインターネットの出現、ICTの急速な普及である。第4次産業革命は、近年の極端な自動化、コネクティビティによる産業革新である。デジタル化は「第4次産業革命」と呼ばれ、社会構造変革の原動力となっている。
インターネットが出現し、ICTが普及した第3次産業革命を思い出してほしい。今日、インターネットがない社会生活や産業構造が考えられるだろうか。産業革命が起きた後は、元には戻らない。第4次産業革命におけるデジタル化も、革命後は元に戻らないと考えるべきである。
デジタル化自体も進化している。従来のデジタル化は、効率化を目的に、自社と外部の関連企業の間の手作業で行っていた活動の一部をIT化するものであった。近年は、顧客におけるデジタルの環境が浸透し、また関連企業もデジタルの取り組みが進んでいる。近年のデジタル化は、自社、関連企業や顧客を含む全体の仕組み化、エコシステムとも言われるものである。
技術革新は、ITの適応範囲を拡大させ、コストを安価にした。これによりIT利活用が容易となった。前回も紹介したが、「コロナ禍において、2年分の変化が2か月で起こった」と言われるぐらい、変化のスピードは加速している。

■自動車業界のデジタル化(図2)

自動車業界におけるデジタル化の主なキーワードとして、CASE、MaaS、「100年に一度の大変革期」がある。
CASEは、繋がる、自動運転、シェアリング、電動化の総称である。2016年9月の「パリ・モーターショー」でダイムラーが提唱したコンセプトである。自動運転は、少し時間がかかると思うが、それ以外の繋がる、シェアリング、電動化は、ほぼ現実の技術となっている。
MaaSは、「Mobility as a Service」の略称である。移動をサービスと捉えるというコンセプトである。既に一部でサービス化されている。
100年に一度の大変革期は、第4次産業革命を現した言葉である。CASEやMaaSによって自動車業界の構造変革を表す際に使われる。
自動車に関連する業界では、自動車メーカーをはじめ、様々なメーカーでもデジタル化の取り組みが進んでいる。自動車メーカー、タイヤメーカーなど製造業は、新たなビジネスモデルへの転換にデジタル化を活用している。例えば、ブリヂストンは、2018年に「製造販売業からソリューションプロバイダーへ」と、ビジネスモデル転換を宣言した。アナログのデジタル化、価値を生み出すデジタル化の2つのデジタル化により、プロダクト事業からソリューション事業へ幅出しを行った。製造業として商品の差別化が困難になる中、ソリューションやサービス領域は我が国の製造業においても強みになると考える。
その他、公共交通機関では新たなサービスの提供、運輸業者では属人情報のデータ化にデジタル化を活用している事例もある。

■カーディーラーのデジタル化(図3)

カーディーラーのデジタル化において、「何を実施するのか」が議論になることが多い。背景として、「改めてデジタル化をしなくても、現状で困っていない」ということがある。理由は、カーディーラーの事業活動に必要なデジタル化の多くは、メーカーが関連するシステムを提供しているからだ。カーディーラーは、それらシステムを活用し業務を遂行しており、表面的には不便を感じていない。
カーディーラー業界は、自動車における産業構造の川下に位置付けられ、顧客接点機能を担う。機能別システム化を事業領域、事務領域、経営領域の対象領域と、業務活動のバリューチェーンの2軸でマッピングすると、産業構造に関係が深い事業領域では、自動車メーカーや保険会社などがシステムを提供している。このため、世の中で言われるほどデジタル化の必要性を感じにくい。
一方、企業体としての経営に関係する経営領域や事務領域は、メーカー等のカバー領域の対象外であり、カーディーラー個社の領域となっている。

■事業環境の変化

事業環境は変化している。少子高齢化、「モノからコトへ」という消費者意識の変革により、自動車販売自体は減少する傾向である。また、「販売店において顧客を待ち、セールス活動を実施する」という従来からの基本的な業務活動に関してGoogleとマクロミルの調査(2015年)によると、訪問した店舗数が平均1.7店舗、店舗に通った回数が平均2.5回であった。
インターネット検索が一般化し、訪問するカーディーラーの店舗数、訪問回数は減少傾向にある。現在では、来店後のセールス活動よりも、訪問対象の店舗として選択されることが重要になっている。デジタルマーケティングと言われる領域であり、事業活動において強化すべき領域となっている。

■デジタル化による新たな機会

事業環境が変化する中、従来の戦略、活動の維持、強化では事業成長は厳しくなる。環境変化に適応した方向性、活動の最適化が必要である。デジタル化は、事業成長を加速させる可能を持っている。
直面しているコロナ禍での対応、中長期的な販売台数の減少、デジタルネイティブなど対面での接触機会の減少など、今後の市場の変化においてデジタル化をどのように進めていくべきであろうか。

■デジタル化推進の3つのテーマ(図4)

現時点で、カーディーラーが対応すべきデジタル化のテーマは、優先度が高い順に、①コロナ対策、②カーディーラー事業強化、③ビジネスモデル変化、の3項目である。

■コロナ対策(図5)

コロナ禍の事業継続計画(BCP)において、デジタル化による対応が有効である。デジタル化は、社内業務視点、お客様視点の2つの視点から強化する。
社内業務では、緊急体制におけるデジタル化、事業の正常化に向けたデジタル化、という業務の復旧のステップに応じてデジタル化を検討する。働き方の視点から、WEBでのミーティング、情報共有などが検討対象である。
お客様視点では、Googleの調査結果から、車両体験における「自宅への試乗車お届けサービス」、購入手続きにおける「オンラインでの車両登録・書類のデジタル化」などのニーズが高かった。どの機能をデジタル化すべきか、デジタル化のニーズを確認し、適切な機能のデジタル化を推進することが重要である。

■カーディーラー事業強化(図6)

カーディーラー事業の強化におけるデジタル化は、事業の効率化、顧客接点の新規創造、営業力強化の3項目である。
カーディーラーの主たる事業は、販売活動であり、契約に関係する業務が多い。契約業務が主たる業務の特徴は、デジタル化が進んでいない状態では紙が多く工数がかかること、手間やコストがかかること、間違いが増えることなど、QCDの各項目が低下することである。
本部、店舗、お客様の間で多くの書類が流通する。書類の流通におけるデジタル化は、大きな効果が期待できる領域である。
A社では、車両購入に必要な書類量が約2cm、顧客は数十万顧客であった。デジタル化推進により、契約における書類数、捺印時間などの工数が数千時間以上削減され、郵送コスト、書類保管コストなどコスト削減が数千万円以上であった。
デジタル化は、業務効率を上げる有効な手段である。

■ビジネスモデル変化(図7)

デジタル化は、ビジネスモデルの変化、多様化の推進力となる。
カーディーラーは、自動車メーカーとお客様の間に位置する機能を担ってきた。
今後、自動車メーカー主導でモビリティーサービスを提供する方向である。これにより、自動車メーカーが直接お客様と繋がる新たなビジネスモデルが予想される。
モビリティーサービスにおいて、自動車メーカーはカーディーラーを含め、様々なサービス事業者と連携する。このビジネスモデルにおいて、カーディーラーは、販売、納車、メンテナンスなどを期待される。
自動車メーカーが直接お客様と接点を持つことにより、カーディーラーがお客様と接触機会が減少する。接触機会の減少は市場の縮小となり、業界内競争が激化する。お客様に選ばれるカーディーラーとなるべく、サービスの向上や新規事業の創造を取り組む必要がある。
現時点での新規事業は、デジタル化をベースにした事業になる。新規事業は、モビリティ領域における事業、モビリティ領域以外での事業、の2つの領域がある。
従来から自動車販売に関係する業務は、自動車メーカーが提供するシステムを利活用し、実施されてきた。今後のモビリティ領域の自動車メーカーが主導する業務は、その傾向が維持されると考える。一方、モビリティ領域以外で自動車メーカーと関係が薄い新規事業は、自動車メーカーがシステムを提供することはない。この領域の事業に関しては、自社においてシステム投資を検討する必要がある

■デジタル化の定義(図8)

従来、デジタル化は、IT導入によるアナログをデジタルに置き換える、デジタイゼーションであった。アナログをデジタルに置き換えているオンラインセールスなどが該当する。現状では、まだ多くの企業は、このデジタル化が有効であるとの認識である。
近年ではデジタル化は、IT導入ではなく、情報技術とデータのビジネス活用、データやテクノロジーによって価値を生み出す、デジタライゼーションとして捉えられることが多くなっている。CtoCのカーシェアは、このデジタル化がなければ実現しないサービスである。

■デジタル化推進のポイント

デジタル化のステップは、①目的から決める、②ビジネスとシステムの整備、③小さく始める、である。

■目的から決める(図9)

デジタル化の推進において、サービスやツールの機能比較を実施する方法もある。
昨今、デジタル化に関するサービスは多く、機能のアップデートも早い。サービスの選定において、機能比較から着手するというボトムアップからのアプローチは、失敗するリスクが高い。
お勧めするのは、「目的から決める」というトップダウンアプローチである。「デジタル化で実現することは何か」、デジタル化の目的とする対象領域を明確にすることである。
デジタル化対象領域は、経営領域、事業領域で分類できる。
経営業域は、デジタル時代の経営スタイル変革である。例えば、目的が経営のレベルで、経営スタイルを変えたい場合は、PDCAのモデルを整備し、ダッシュボードを構築する、などである。
事業領域は、事務領域、既存事業領域、新規事業領域の3領域がある。事務領域は、ペーパーレスによる業務効率化、オンライン採用、デジタル教育など、業務効率化である。既存事業領域は、既存事業を強化し、届いていないお客様にリーチしたい場合、新たなお客様との繋がりを構築すべくデジタルマーケティングを導入する、などである。新規事業領域では、次世代ビジネスモデル構築、デジタル新サービス立上げなど、新規事業創造である。

■ビジネスとシステムの整備(図10)

デジタル化の目的が決まらない場合は、最初に「ビジネスモデルは何か」を確認することから始める。
デジタル化で効果を出す要諦は、ビジネスモデルとデジタル環境が一致していること、デジタル環境を具現化する施策があること、その施策の定着化に注力していること、の3項目である。まずは、「何の目的のためにデジタル化を推進するか」を明確にすることが重要である。

■新規事業(図11)

新規事業は、従来の自動車購入客を無条件にお客様と設定するのではなく、ビジネスモデルをベースに改めてターゲットを選定することから始める。お客様モデルとして、お客様(市場)を戦略と整合性がある何らかの軸で分類(セグメンテーション)し、自社の提供する商品・サービス群(サービスモデル)とマッピングさせる。自社の商品、サービスが画一化から多様化する場合は必要なステップである。

■デジタル化の成功要因(図12)

デジタルツールの導入では、導入したものの利用されない、業務効率が低下した、など失敗するリスクが高い。主な失敗の要因は、経営スタイルが変わっていない状態でツールを導入した、ツールを活かすべくプロセスや人財の最適化が実施されていない、などである。
IDC調査(2019)の「DX(デジタルトランスフォーメーション)の取り組みにおいて、どのフェーズの実施が最も困難を伴うものでしたか」という問いの回答では、DXの目標設定やロードマップの策定、DXに対する従業員の理解と受容、個々のDXプロジェクトの計画立案と予算承認、DXに対する幹部層の理解、など技術以外の要因が上位を占めた。
経営スタイル、デジタルツール、プロセスや人財などの実行環境といった戦略、組織、人財の一貫性が重要である。

■終わりに

今回は、デジタル化の捉え方、推進の方法について説明した。
最後に、デジタル化をツール導入や業務視点での利活用だけでなく、戦略レベルで捉える。大きく先行者利益を得やすいこと、競合の活動把握が難しいこと、の2点を意識したい。
デジタル化は先行者利益が得られやすい。従来アナログで実施してきた自動車販売におけるデジタル化を推進することで、デジタルに親近感を持つセグメントをお客様に加えることができる。
デジタル競争の難しさは、目に見えないことである。同じ地域の競合の新店舗の建設やリニューアルは把握できていたが、競合がどのくらいデジタル化に投資しているか、を把握することは難しい。実態を把握できた段階では、既に差が開いている可能性が高い。
次回は、デジタル化へのアクションについて説明する。

 

株式会社 リブ・コンサルティング
DXチーム ヴァイスプレジデント MASATO.Y

 

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UPDATE
2020.11.26
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