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【LiB Mobility経営 創刊号】
販社統合で目指す新時代のカーディーラー経営とは

EXECUTIVE SUMMARY

静岡トヨペットは、2021年4月1日に静鉄GTホールディングスのトヨタカローラ東海、ネッツトヨタスルガと統合し「トヨタユナイテッド静岡」となった県内最大規模の自動車販売会社である。
業界を先駆けてのキッズクラブ『SKIP』や、リアル宝探し『キラキラ探検隊』、地域の憩いの場となる『ワンダーランド店舗』等々の地域活性化の取り組みはベンチマークされている。また、RPA導入を始めとするデジタル化の取り組みも先行して進められており、業界内でも非常に注目を集める企業である。
今回は静岡トヨペット(現・トヨタユナイテッド静岡)の代表取締役会長の平光敬和氏、代表取締役社長の桝谷安城氏に、先進的な取り組みにチャレンジされる経営の考え方や展望について伺った。

地域貢献活動に取り組む背景

LiB 静岡トヨペット(現 トヨタユナイテッド静岡)様は、地域の親子に向けたさまざまな活動に力を入れていらっしゃいますが、その背景と思いについて教えてください

平光会長 我々は車売りではなく、モノの提供が目的ではありません。お客さまに「この車のおかげでこんなに生活が豊かになった」「想像以上の楽しさがあった」と感じてもらうことを目指しています。例えば、車で出かけた先で写真を撮ることにより、豊かな経験の記憶を積み上げていくことができます。その写真を、子供が大きくなった時や孫が生まれた時に振り返り、思い出の1ページによって心が豊かになります。キラキラ探検隊(キラ探)などを通じ、そのような人生づくりに寄与することが我々のビジネスであり、そのためのツールとして、我々は車を扱い、提供しております。

LiB 従来のカーディーラー経営にはない新たな取り組みに対して、桝谷社長はどのようにお考えですか

桝谷社長 キラ探は私が静岡トヨペットに来る前にスタートしていましたので、会長(当時は社長)が作ってくれた船に乗っているだけです(笑)。ただ、改めて振り返ると、巷ではよく「若者の車離れ」と言われますが、私たちは車離れを防ぐために努力したのだろうかと考えさせられます。お客さまに向けて車に乗ると楽しいということを伝えてきたかというと、実はほとんど行ってこなかったと思うのです。その点を踏まえて、我々は100年後まで見据えた経営を考えなければならないと考えています。

平光会長 「明日のための仕事」を作るということですよね。実態として、カーディーラーの社員は今日の数字を追いかけています。限界まで力を使っている状態で、明日のために力を使うのは難しいことです。経営者側も、サラリーマン経営者の場合は、任期があるためその期間にどうしても目が向いてしまいますが、なかなか明日を作るという意識が持てません。経営に携わる任期がありますから、その間の数字にどうしても目が向いてしまうわけです。

一体感を高めるための施策

LiB 明日を作る意識を現場に伝えるのは難しかったのではないですか?

平光会長 明日のための仕事をすると、数年経った時に仕事がもっと楽しくなっているということを徹底して伝えていく、トップの強い意思が必要だと思います。当社の場合は私が29店舗を全て回り、新しいことに取り組む理由や、取り組んだ結果としてどんな嬉しいことがあるかを説明しました。社内でDVDを作り、パワーポイントを使って説明し、経営として伝えたいことが伝言ゲームにならないように、各店舗の店長、営業、エンジニア、フロアコンシェルジュにDVDを見てもらいながら説明して回りました。

LiB 浸透させていくために工夫したのはどのようなことですか

平光会長 新しいことを1つだけやろうとするのではなく、歯車をかみ合わせるように複数の施策を進めていくことです。キラ探のような企画にだけ焦点を当てても、それだけでは会社全体に良い影響は与えられません。社員には1人1人の思いや考えがあるため、キラ探で心が踊る人がいれば、何も感じない人もいます。それが当然なので、いろんな施策を組み合わせます。例えば、キラ探が始動し、SKIPやワンダーランド店舗が動きます。その結果、店舗に足を運んでくれるお客さまが増えたら、フロアコンシェルジュに対応や店舗づくりの面などで活躍してもらいます。営業側では残価設定の提案を頑張ってもらい、ローンの金利を下げるなどの施策も組み合わせます。そのようにして、複数の施策を総合的に進めていくことで、相互に影響し合い、この施策によって他がうまく回り始めたといったように、全体が動き、変わっていくのです。

桝谷社長 成果が出るまでには時間がかかります。取り組みが失敗するかもしれない恐怖もあります。そのような状況を乗り越えるために、会長が「痩せ我慢」と言っていたのが印象に残っています。

平光会長 社員が「この取り組みは正しい」と思えば、あらゆる施策が継続します。そのためにも、うまくいかない、思ったような効果が出ないといってやめるのではなく、成果が出るまで我慢です。一方で、社員に心を開いてもらうための取り組みも大切です。新しいことを取り組む上では会社と社員の心が一体化している必要があります。会社と社員の心が通っていなければ、会社がいくら「明日のためにやろう」と言っても、社員はそっぽを向いてしまうでしょう。

LiB 「明日のため」は、シンプルな表現ですが奥が深いですね。

平光会長 そうですね。明日を作るもう1個の背景として、経営者には社員の明日を作る役割があります。例えば、20歳から65歳まで当社で働く社員がいる場合、経営者はこの40数年に責任を持たないといけません。本人の人生だけでなく、社員を育ててきたご両親に対しても社員の明日を預かる責任があります。だからこそ、今日だけでなく明日もよくしていくことが大事ですし、社員には自分の力で生きていく力を持ってもらう必要があります。我々の想定の範囲を超えて変化する環境を生き抜いていくために、自ら考え、チャレンジできる社員に育てていくことも社員の明日を作るという点で重要なことです。

桝谷社長 会社と社員の関係性もひと昔前から変わっています。ある雑誌で読んだことなのですが、従来の会社と社員は親子の関係だったと書いてありました。親が子を守る代わりに、子は会社に一生を捧げるという関係です。しかし、これからは婚約の関係です。お互いがドキドキ、ワクワクしながら、相手を尊敬し、大切に思う関係です。相手にとって魅力的な存在であり続けるために、緊張感をもって努力します。そういう関係性を作れる会社となることが、これからの時代を生き抜く上で絶対に必要なのだと感じます。

DXに取り組む狙いと意識

LiB カーディーラー業界もDXの波が来ておりますが、現在と今後の取り組み状況を教えてください。

平光会長 IT化やデジタル化は、言葉だけが先行しても何の価値も生み出しません。会社としてやりたいことがあり、そのために使えるITやデジタルツールがあれば、もっとも効率的、効果的に取り組んでいくための手段として活用したいと思っています。例えば、フロアコンシェルジュは役回りが多いため、必ずしも彼女たちが処理しなくても良い業務はITで軽減することができます。キラ探の話と同じで、明日のために必要という視点を持って、組織を作って取り組んでいるのが現状です。

桝谷社長 取り組んでみて分かったこととして、必要な情報を社員全員で共有できるようになり、無駄な伝言ゲームが減ったと感じます。
一方で、DXに取り組んでいく際には、仕事そのものを変える意識が重要だと感じています。先日「日本のデジタル化は、現状のアナログ業務をそのままデジタル化しようとするからうまくいかない」という話を聞きました。その通りだと感じます。アナログをデジタルに置き換えるのではなく、アナログでやっていた作業をデジタル化によって、なくす、やめるといった発想で考えていかないと、本当の意味でのDXにはならないでしょう。アナログの業務が減れば、そこにかけていた時間や労力を別のことに使えるようになります。カーディーラーの場合、全ての業務をデジタルにすることはできず、優秀な営業担当者による提案が必要です。そのような業務に力を注げるようにすることが、DXの目的なのだと思います。

平光会長 日々の業務のデジタル化は、本質的な意味で会社の価値を高める差別化にはなりません。我々が提供するものが、前述したような思い出の1ページを作ることであると考えるのであれば、デジタル、アナログを問わず、リアルを背景としたコンテンツを提供できる体制に変えていく必要があると感じます。

今後の展望

LiB 静岡トヨペット様は近隣他社との併合によって静岡最大規模の会社に変わります。目指す姿について教えてください

桝谷社長 社内については、社員自らがブランド化することに挑戦し続けたいと思っています。ブランド化は、例えば、社員一人ひとりが自分の仕事に誇りを持ち、主体的に考えて行動するといったことが要件で、このような社員が増えていくことで、お客さまは我々との付き合いにステータスを感じてくれるようになります。地域に向けては、近江商人の三方よしを意識しながら、地域に認められ、頼られ、憧れられる存在を目指したいと考えています。会社の規模が大きくなれば、周りも我々を大きな会社として認識します。相撲の世界で横綱が常に精進し続けるように、我々も努力を怠れば引退しかないという意識を持って、努力を続けていく必要があります。そのことを社員一人ひとりが理解した上で、会社と社員が婚約の関係を続けていけるような会社に発展していきたいですね。

平光会長 地域に向けた具体的な取り組みとしては、震災に見舞われた時の緊急避難場所として機能するような仕組みを整えています。例えば、各店舗にて社員とお客さま数名分の防災グッズや、簡易トイレ、ガソリンとガスボンベのハイブリッド発電機などを準備するとともに、近隣の方々には店舗にそのようなグッズがあることをお知らせし、万一の時には店に入ってくださいと案内しています。防災関連の今後の取り組みとして、給電可能な車を用意して、停電をしのげる店舗を増やしていくことも検討中です。また、キラ探のような企画では、キャンプと関係が深い企画も考えています。キャンプと車は親和性が高いですし、コロナ禍ではお互いに距離をとりつつ、かつ絆を深められるようなイベントが求められています。

LiB これまで同様に親子をターゲットとした企画などにも力を入れていくのですね

桝谷社長 もちろんです。地域に向けた取り組みは、静岡のための会社になると主旨で行っているものです。静岡トヨペットだからやっているのではなく、静岡にある会社としてやらなければならないことと考えています。

平光会長 親子向けの企画に限らず、会社として取り組む全ての施策が地域活性化に直結します。明日を作るという文脈で言うと、地域の明日が作れなければ、地域で事業をする我々の明日もありません。地域と共生し、地域社会のために存在する土着企業として、その方針は貫いていくつもりです。

貴重なお話ありがとうございました。

 

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UPDATE
2021.04.07
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