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【LiB Mobility経営 vol.2】
地域MaaSへのチャレンジで目指すカーディーラーの新たな価値とは

EXECUTIVE SUMMARY

ネッツトヨタ福島は、カーディーラーの新たな価値創造を目指し、地域MaaSの事業化に向けていち早く取り組む優良自動車販売会社である。
同社が手掛ける国見町での通院専用の乗り合いタクシーは、実証実験を当初予定であった2020年11月から2021年3月までのところを同年9月まで延長し、本格導入に向けた検討を進めている。従来の「自動車販売」に関わるサービスに加えて、福島の移動課題を解決する「新たなモビリティサービス」の事業化を模索されており、業界内でも非常に注目を集める企業である。
今回はネッツトヨタ福島代表取締役社長の大沼健弘氏に、地域MaaSへのチャレンジを決めた背景や具体的取り組み、今後の展望について伺った。

地域MaaSに着手した背景

LiB ネッツトヨタ福島様は、地域の患者さんと病院を結ぶ MaaS(通院のためのオンデマンドタクシー)を手がけています。サービス開始の経緯を教えてください。

「地域に選ばれる会社になる」と公言するのであれば、自分たちから地域に歩み寄り、つながりを作っていく姿勢が必要です。そこで考えたのが、MaaS です。医療向けに展開した理由は、過疎傾向にある地域の人口動態は役所か病院に集約されることです。病院に通う人は基本的には体調が良くない人です。高齢者の比率も高いといえるでしょう。また、ケガの状態によっては自分で運転することができず、付き添いが仕事を休んで送ることもあります。人は集まりますが、集まるための移動手段に課題があるため、オンデマンドタクシーのような形で車を回すことができれば、患者さんや付き添う人たちの心理的、身体的な負担が軽減できます。付き添う人が仕事を休む必要性が低くなり、世帯の生産性も上がります。そのような効果が見込めるなら、自分たちがやるべきだろうと思ったのです。

LiB 自動車ディーラー業界では、自動車販売に特化し、業務の効率化を徹底していく企業と、地域 MaaS などに取り組み、地域に新たな価値を提供する企業に二分化している傾向があります。ネッツトヨタ福島様は後者のケースと言えますね。

MaaS は従来、人口が密集している都市部にフィットするといわれていました。実際、カーシェアも都市部を中心に普及しています。ただ、過疎化が進んでいる地域では MaaSがないと人やモノの移動が成り立たないという実態があります。そこに着目して、我々の主たるテリトリーである福島でも MaaS がフィットするという仮説を立て、2018 年ごろから動いてきました。モビリティの可能性を広げていくには、腰を上げ、積極的にビジネスチャンスを見出す必要があります。自分たちが変わらなければ、何も変わらないと思ったのです。

LiB 移動のニーズを掴んだ上で事業を考えられたのでしょうか。

ニーズはいろいろな角度が見ることができます。例えば、車でいうニーズは、SUV が人気、安全装備が必要といったトレンドがあります。我々は、そこはあまり気にしていません。その角度からニーズを分析するのは自動車メーカーの仕事で、我々が考えるよりもメーカーが考えた方が精度は高いと思うからです。では、我々には何ができるかというと、車に対するニーズを生み出せる素地を作ることだと思っています。我々には交通弱者を作ってはいけないという大前提があります。人が減り、人とモノが動かなくなってしまうと、自動車販売という我々の生業も成り立たなくなるのです。そう思ったきっかけとして、ネッツトヨタの若手経営者たちと原発周辺地域を見に行ったことがありました。報道では、津波の被害を受けた港が復興してよかったといわれています。しかし、少し離れると、家も田んぼもありません。商店もなく、人の気配すらほとんど感じられないのです。案内してくれたガイドは、この実態を「人がいない復興」と言っていました。こうなってしまうと事業はできません。人とモノが動き、コミュニケーションが生まれ、事業が起きます。そのための計画や支援は政治の仕事だと思いますが、我々が事業をしている地域においても、企業人としてできることがあり、モビリティという視点で動く必要があると思ったのです。

取り組みの中で感じた苦労と学び

LiB MaaS は新しい事業モデルです。周囲や関係者の理解を得るためにどのような苦労がありましたか。

営業を始めた当初は、協力してくれる自治体や病院がほとんどありませんでした。既得権益を侵されるとか、自分たちが慣れ親しんだ仕組みが壊れるとか、やはりそういうことが壁になるのです。また、潤っている自治体もなかなか話を聞いてくれません。現状として特に困っていないため、わざわざ手間をかけて新しいことに取り組む必要性を感じないのです。

LiB 人口減少や過疎化に対する危機感が薄かったということでしょうか。

いいえ、課題意識を持って取り組んでいる人はいるのですが、総論は賛成、各論で反対となるのです。「地域活性化に向けて取り組もう」と声を上げると、皆さん「それは必要だ」「やろう」と賛同します。しかし、具体的な話に落とし込むと、「うちはとりあえず間に合っているので……」「まずは他
所から……」となります。ダチョウ倶楽部さんの「どーぞ、どーぞ」です(笑)。このマインドシフトが大変でした。また、我々は自動車ディーラーですから、提案に行くと「車を売りに来た」と思われがちです。実際、車を売るわけですので、そこは否定しません。しかし、本当に提案したいのはモビリティによる地域の発展であり、地域に潤ってもらうことです。我々の都合を押し付けるのではなく、自治体や病院の課題をとにかく引き出していく中で、我々と同じ志を持つ人や、理念に共鳴する人が徐々に増えていきました。「失敗したらどうする」と聞かれて、「土下座しにいきます」と答えたこともありました。

LiB 社内ではどのような体制で取り組まれたのでしょうか。

この取り組みは、細かなところで社員に手伝ってもらうことはありますが、基本的には 1 人で進めることができます。最初は「社長、何をやっているんだろう」と思われていたと思います。ただ、既存ビジネスにプラスになればみんなの意識も変わり始めます。車が売れた、貸し出せた、売り上げに繋がっていることがわかることで、納得してくれます。また、どなたかの受け売りなのですが、100 の課題に 100 のビジネスチャンスがあるという言葉があります。課題が大きいと尻込みしてしまう人が多いのですが、1 つでも課題を解決すれば、それが事業になっていくはずです。そう考え、とりあえずやってみれば、先行者利益が取れます。賢い人ほど、やらない理由を考えてしまいますが、何もやらずにダメになるなら、何かやってだめになった方が良いですよね。

LiB 新しいことに取り組む原動力はどこにあるのでしょうか。

私自身は頑張っている意識はありません。ただ、社長だからできることはあると思っています。私にとってのそれは、次の事業を作ることです。敷かれたレールを走るのではなく、レールを敷くことが自分のミッションと思っているのです。レールを敷くことが具体的にどういうことかというと、これまでやったことがないことをやることなのだと思います。先頭に立って進み、社員に向かって「こっちへおいで」と言います。レールがあるから、みんな来てくれます。また、その取り組みを面白いと思う性分でもあります。努力は夢中に叶わないと言う言葉があるように、面白いと思ったことは夢中になれます。頑張っている感覚がないのも、結局、レールを敷くことに夢中になっているからなのです。

収益化と事業展開について

LiB 収益化についてはどのように考えていますか。

車の販売は、1 人に 1 台、法人であれば 1 法人に 5 台といった考え方をします。ただ、エンドユーザーは実は個人でも法人でもよく、地域でも良いと思います。1 法人で 5 台と同じ考え方で、1 地域で 5 台でよいわけです。販売方法などについての細かな違いはあるとしても、そういう発想を持って車を拡販していけばいいと考えています。また、地域という販売相手が増えても、販売業務に関しては従来と変わりません。既存の組織体制で進めていくことができます。

LiB オンデマンドタクシーの今後についてはどんな計画を考えていますか。

まだ準備段階ですが、考えていることは医療向けのサービスを逆回転させることです。現状は患者さんを病院に連れていく仕組みです。これを逆回転させ、医療スタッフを患者さんの家に運ぶことで、訪問医療や訪問介護ができるようになります。特に今後は新型コロナワクチンをどう打つかが課題になるでしょう。接種会場に行くことが出来ない接種対象者の方も、この仕組みを活用すれば接種可能になります。更に、加えてリモート環境を活かしてオンライン診療を行い、熱などが無い場合に看護師さんが注射するといったことが出来るのではないかと考えています。

今後の展望

LiB ネッツトヨタ福島をどのような会社にしていきたいですか。

地域に根ざした、福島っぽい会社にしたいと考えています。
福島の人たちは、物静かで、控えめで、平和主義で、人のつながりを大事にする人が多いと感じます。そういう人たちが受け入れてくれる会社として、人と人のつながりを大事にしたいですし、地域との結びつきを大事にしてきたからこそ、先代から 50 数年に亘って商売できているのだと思います。事業の内容や方法は時代に合わせて変化させながらも、原点は守り続けていきたいですね。もう 1 つ目指しているのは、社員の子供たちに「入社したい」と思ってもらえる会社になることです。自動車ディーラーは土日休みではありませんし、異業種と比べて見劣りするところもあると思います。しかし、決して卑下する仕事ではありませんし、高い志を持って取り組める仕事だと思っています。社長の息子だけでなく、社員の 2 代目や 3 代目が増えていくといいですよね。「お父さんの会社、いい会社だよ」と子供に自慢できる会社、仕事をしているお父さんやお母さんの背中を見て、子供たちが「自分もこの会社で働きたい」と思えるような会社でありたいと思っています。

貴重なお話ありがとうございました。

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UPDATE
2021.05.12
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