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カーディーラーにおける
「ブランディング」を考える
個社ブランディングの必要性

EXECUTIVE SUMMARY

これまでは「ブランド」といえば、シャネルやヴィトンなどの高級商材において使われるものという誤解もあった。しかし昨今では、顧客にとって価値のある商品やサービス、空間、企業そのものなど、さまざまなものがブランドとなり得ることが一般的に認知されるようになってきている。カーディーラー業界においても、その流れの中で、徐々にではあるが個社ブランディングの必要性の声を聞くようになった。業界におけるブランディングの必要性と、そのメリットについて考えてみたい。

ブランディングとは

ブランドとは、あるものをカテゴリ内の他のものと区別するあらゆる概念を指す。つまりブランディングを考える上で一番の上位概念とは「差別化」「個別化」であるといえるだろう。「他では得られない価値がある」と顧客に感じさせることで、自社や自社商品を選んでもらう確率を上げることが目的である。

カーディーラーのブランドを考える上で、自動車メーカーの存在は非常に大きい。
ところで、消費者がものを買う場合、「価値」と「価格」によるコストパフォーマンスを考慮して意思決定をする。そして「価格」には、実際の製品の価格に加えて、アクセスコストも含まれる(アクセスコストとは、その商品を手に入れるための時間的コストや、手続きなどの作業コストを指す)。スーパーマーケットで値引きされた商品を、近所のコンビニで正規価格で購入してしまうのは、消費者が、提示されている価格をアクセスコストを含んだものとして捉えているからである。
また「価値」には単なる製品自体の価値だけでなく、企業ブランドや営業活動やサービス接客などにより顧客に与える価値も含まれる。

さて、これまでのカーディーラー業界では、「価値」をメーカーブランドに大きく依存していたといえる。自動車メーカーのブランド力は強く、「トヨタ」「日産」「ホンダ」など、国内では知らない人はほぼいないといえるほど、認知度は高い。しかし、いかにブランドが浸透していても、そこに対するアクセスコストが高ければ、購買行動を起こさせることはできない。カーディーラーは、それぞれのテリトリーにて、販売網を広げることで、アクセスコストを下げる役割を担ってきたのである。
10年ほど前まで、カーディーラーの経営において、個社のブランディングがあまり意識されてこなかったのは、形なく、成果が見えるまでに時間のかかるブランディングに力を入れるよりも、「価値」における商品や企業ブランディングをメーカーの役割とし、自社は販売網を広げ、「価格」としてのアクセスコストを下げるほうが、より効果的だったからである。
しかし、全国的に十分な販売網が行き届いている今、これ以上、販売網を広げることで得られる利益は少ない。そこに、販売会社個社のブランディングの必要性が浮かび上がってくるのである。

チャネル統合による販売会社内の競争激化

ディーラーチャネルの統合が行われたことにより、同メーカー内での競争は日々激しくなっている。自動車メーカーが担ってきた企業ブランドと商品ブランドはあくまでメーカーとしてのものであって、販売会社のブランドではない。
例えばトヨタのプリウスの認知度は非常に高いものの、そのプリウスを販売している「自社」を認知している一般消費者がどれくらいいるだろうか。
一般消費者に、同じ商品を取り扱っている他社ではなく、自社に足を運んでもらいたいと思うのであれば、メーカーのブランドに依存するだけでなく、自社独自のブランドを強化することで、他社との差別化を図らなくてはならないのである。

ブランディングによる効果

カーディーラーが自社のブランディングを強化することは、経営においてどのような効能があるだろうか。一つには、同じ商品を販売していても、自社のブランディングにより顧客提供価値を高めることで、他社との価格競争からの脱却が可能となる。また、自社のブランドに共感してくれる顧客が増えれば、多額の広告宣伝費を使わずとも、口コミや紹介、ときにはマスコミによる報道で顧客が来場する店舗となる。それだけではない。ブランドが高まることによって、採用活動においても、より良い人財を獲得することは可能であるし、自社に自信を持つことができれば、社員の士気も高まる。このように自社のブランディングは経営において、さまざまな面での効能があるのである。

ブランディング = 認知度×イメージ

ブランディングは「認知度」×「イメージ」で示されることが多い。単に認知度を高めても、マイナスのイメージや、来店しにくいイメージで認知されてしまうと、逆効果になる。そのため、自社のブランディングを考える際には、認知度だけでなく、そのブランドがプラスのイメージを与えるかどうかという点も重要になる。では、認知度とイメージのそれぞれについて考えてみよう。

認知度を高める

まずは、認知度について考えてみる。カーディーラーは、非常にブランディングの効率の良い業態である。その最も大きな理由の一つは、エリアビジネスであることである。全国的に展開をしている企業と異なり、カーディーラーは自社のテリトリー以外での認知度を考える必要はほとんどなく、自社のテリトリーにおけるブランディング(認知度向上とイメージ強化)に注力することが可能である(もちろんテリトリー外の顧客もいるが、全体を捉えるとほんの一部である)。
とはいえ、実際に、自社の認知度を調査し、改善を図っているカーディーラーが全国にどれほどあるだろうか。自社のテリトリーを分析した際に、来場の少ないエリアがどこで、どのような層が来場しており、どのような層が来場していないかを捉え、的確に対策を打てているだろうか。
来場の少ないエリアに関しては、しばしば距離の問題と片付けられがちであるが、なぜ距離があると来ないのかを考えなければならない。そもそも認知されていなかったり、距離があっても来店しようという意欲につながるほどブランドが浸透していないという捉え方もできる。
そのようなエリアで、認知度の高いエリアと同様の営業手法を行っても、効果を見込むことはできない。まずは自社の認知を高める施策を打ち、自社のブランドがより伝わる手法を講じる必要がある。例えば、認知度の高いエリアでは、営業時に自社の紹介などをする必要はないかもしれないが、認知度の低いエリアにおいては、自社のことを知ってもらうプロセスを省略した場合、他社との差別化ポイントが見えず、負けてしまう可能性も高い。

実際にブランドを伝える媒体としては、CM、チラシ、ダイレクトメール、ネット、店舗、接客、口コミ、紹介、イベント、ラジオなど、多数存在する。20代の多いエリアで、折り込みチラシを投入しても効果は薄く、WEBやSNSに注力するなどというように、これらの媒体をターゲットに合わせてうまく組み合わせていくことが重要になる。

ブランドコンセプトを考える

次に「イメージ」について考えてみる。効果的なブランディングを行うためには、単に認知を高めるだけでなく、狙ったイメージを顧客に浸透させることが必要である。カーディーラーでこのイメージをつくる際に重要なのが、ブランドコンセプトである。
例えば、1000万円を切る価格での家を売りにしている住宅会社がある。「この家が870万で手に入ります」という商品にコンセプトを乗せる打ち出し方をした場合、他社がより安い金額を提示した場合には負けてしまう。しかし、この企業は、「無理しない、でも妥協しない」というコンセプトをつけることにより、所得の低い消費者ではなく、スマートな生活をする消費者というイメージを持たせることに成功している。

プリウスのコンセプトにもヒントがある。当初は、「世界で最も燃費の良い車」という打ち出し方を考えていたが、さらに燃費の良い車が今後発売されることを懸念し、打ち出したコンセプトは「環境にやさしい車」というものであった。
ブランドコンセプトは消費者のマインドに浸透するまで一定の期間発信する必要があるものであるが、商品の特性に依存したコンセプトでは、そのコンセプトが独自のものとして認識されなくなる可能性がある。そのため、長年消費者の記憶に残るブランドコンセプトを設計することが重要である。

ブランドを一気通貫させる

ブランドコンセプトが明確になったら、それをさまざまな顧客接点で浸透を図っていく。前述のように、CM、チラシ、ダイレクトメール、ホームページ、SNS、店舗、接客、口コミ、紹介、イベント、ラジオなどあらゆる顧客接点において、一気通貫したブランドコンセプトが伝わるものにする必要がある。特に今、そして今後メインターゲットとなる 20代、30代前半の層は、インターネットやSNSで情報収集をするケースが多い。弊社の調査によると20代の消費者が購入経験のないものを購入する際、広告やチラシを参考にする人が 55%程度なのに対し、知り合いからの紹介やSNSの口コミを参考にする人は 80%近くに上る。そのため、これまでのように、折り込みチラシにより商品や価格を訴求するだけでなく、ホームページや自社のSNSにて、いかに自社の強みや特徴をブランドコンセプトとして打ち出していくかを考えていく必要がある。また弊社社の調べでは、メーカー表彰を受けている優良販社の多くは、自社のホームページに企業メッセージを掲載していたのに対し、残念ながらそれ以外の販社では、掲載されていない企業も多くあった。一つの顧客接点事象ではあるが、非常に興味深い結果である。最近では、自社のホームページの充実とともに、LINEやFacebookで自社のアカウントをつくり、積極的にブランドコンセプトに沿ったイベントや企画を投稿している企業も増えてきている。このように、今の市場、自社の狙いたいターゲットに合わせ、さまざまな媒体において、自社のブランドコンセプトを一気通貫させることが重要なのである。

経営におけるブランディングの効能は多岐にわたる。競争環境が厳しくなる中、カーディーラーの個社ブランディングは、自社の生き残りを考える上で、外せないキーワードとなっていくであろう。当記事が、御社の今後の戦略を考える上で、何かしらのヒントとなれば幸いである。

UPDATE
2017.03.22
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