ファイナンス 営業戦略 経営戦略

2023.06.29 イチからの出直しを支えた資金調達と営業支援

株式会社aba

介護におけるテクノロジーの活用を目指し、大学在学中に立ち上げたプロジェクトを経て2011年に設立。介護職の現場の意見を反映し、オムツを開けずに「におい」により排泄を感知するセンサーを内蔵した「Helppad(ヘルプパッド)」を、パラマウントベッドと共同開発し製品化。2023年秋には、より改良を加えた「Helppad2」の発売を予定している。

2019年 文部科学省科学技術・学術政策研究所より「ナイスステップな研究者」に選出。
2020年ICCサミットFUKUOKA2020リアルテックカタパルト 優勝 IVS 2023 KYOTO スタートアップ・ピッチコンペティション「LaunchPad」優勝。

代表取締役CEO 宇井吉美 様

EXECUTIVE SUMMARY

  • 1.排泄センサー「Helppad」を開発したabaは、製品の品質をより確かなものとして発売することを決断した。2022年2月に新製品「Helppad2」の原型を完成させた。しかし、当時は資金が乏しく、販売戦略が不明瞭という苦境に立たされていた。
  • 2.リブ・コンサルティングは、abaの資金調達と営業戦略立案の両面で支援。二人三脚の体制で仮説検証を重ねつつ、出資を得られるよう奔走した結果、3.45億の資金調達を実現した。営業支援においては、2023年秋発売予定の新商品の、プライシングと販売手法を立案。予約販売という、介護業界の商習慣ではあまり見られない販売方式にもかかわらず、順調に受注を増やしている。

プロダクトを1から作り直すことを決意

リブ 辻(ベンチャーコンサルティング事業部 コンサルタント)aba社へのご支援を開始したのは2020年でした。当時は弊社 常務取締役の権田和士を中心に、排泄ケアシステム「Helppad」を世に出すにあたって、営業手法の開発を支援させていただきました。(株式会社aba様|Voice|リブ・コンサルティング

それから今日に至るまで、貴社の事業をとりまく状況はどのように変化しましたか?

宇井  実は2021年10月に、「Helppad」を大幅に改良する必要があるというのを、CTOの谷本と話していました。プロダクトに、改善の余地がいくつも見つかったのです。

一般的なスタートアップであれば、いわゆるβ版を発売して実績を作り、改良を重ねることができると思います。しかし、私たちは介護職の皆さんの願いを形にしようと、abaを設立しました。だからこそ、プロダクトの完成度について妥協したくなかったのです。このまま商品を販売しても、ただの押し売りになると考えました。

この時点でパートナー会社はいなかったので、自社だけで商品を一から作り直す覚悟を決めました。同時に、abaはこれから何をすべき会社かというのを、約半年間かけて、ほぼ事業をストップさせて議論し続けました。

このタイミングで、会社を離れるメンバーもいました。この時は、自分自身のふがいなさを痛感しました。私が話すとすぐ「申し訳ない」と口にしていたので、谷本には「その口癖をやめろ」と怒られていました(笑)。

それでも技術開発だけは継続して、2022年2月に「Helppad2」の原型となる実験機が完成したのです。においで排泄を検知できるシートとして、現代の技術では最高峰の商品ができたと確信できる商品でした。

「私という人間にはまだ自信が持てないけれど、abaの技術と『Helppad2』には自信を持とう」。そう考えて再起を図ろうというタイミングで、権田さん(※当社常務取締役COO)から連絡がありました。

権田さんは2021年末に、abaの経営顧問を辞任していました。自身もリブ・コンサルティングの役員であり、他社に時間を割くことが難しい立場だったので、abaを支援するために辻さんを紹介してくださいました。

話がそれますが、2021年に社内が大混乱状態だった時、認定NPO法人フローレンス会長の駒崎弘樹さんから「コーチングを受けるといい」と勧められました。

私は、中学生の時に家族の介護者になったという原体験から起業した、ソーシャルアントレプレナーです。自分の体験や想いが整理されれば、会社への影響も大きいと考え、駒崎さんのアドバイスに従いコーチングを受けることにしました。

コーチングを通じて、経営者・個人の両面で内省を深めていたタイミングで、権田さんから連絡があったのです。ちょうど資金調達をしていきたい時期で、実働部隊として辻さんにお願いしようと考えました。

「資金調達はサイエンス」の精神で出資を獲得

リブ辻  その後、aba社と3ヶ月ほど行動を共にして、本格的に資金調達ラウンドを回り始めました。当時は資金調達に必要な資料がなかったので、ピッチ資料や事業計画といった、ラウンドを回る際に必要な要素をそろえていきました

宇井 私たちは、「2023年11月11日の『介護の日』に製品化する」と決めて、量産体制を整えていきました。

それ以外にも、日中はデザイナーさんやパートナー会社の方々と打ち合わせをしたり、「Helppad2」のコンセプトをもう一度練り直したりしました。夜はほぼ毎日、辻さんとミーティングしていましたよね。

abaは今回で3回目の資金調達ラウンドではありましたが、過去2回はいずれも、既知の間柄である会社さんや個人投資家さんからの出資でした。一般的な「ラウンドを回る」という経験は、今回が初めてでした。

そこに対して、ジョインしたばかりの辻さんが怒涛の勢いでキャッチアップしてくださいました。投資周りのあらゆる知識を網羅しつつ、2022年5月頃から本格的にラウンドを回り始めることができました。

反応が悪かったり、お断りされたりした投資家さんについては、なぜダメだったのかを1社1社見直していきました。辻さんが「このストーリーラインが悪かったのでは」など、ひとつひとつ問題を指摘してくれて、ピッチのストーリーラインや資料の内容を微調整していったのです。

前回の支援時、リブ・コンサルティングさんが「営業はサイエンス」と断言していました。今回の資金調達も、仮説検証の過程はまさにサイエンスでしたね

仮説検証の結果、「実物を見せると投資家の熱は一気に上がる」という発見もありました。初回のミーティングの後、2回目以降はなるべくオフラインで会うようにして、実物を見せることでステップが進む案件が徐々に増えていきました。

プロセスが進めば、チーム内のテンションも上がります。その過程で、徐々に私の自信も回復していきました。

辻さんからは、「一社の投資が決まれば、あとは一気に決まっていくはずです。まずはリード投資家を獲得することに専念しましょう」と言われていました。実際に、リードとなりうるファンドが現れ始めた7月頃からは、そこを最優先事項として心血を注ぎつつ、他の投資家を模索していきました。

リブ辻  資金調達に携わる上で、私がもっとも懸念したのは「メンバーのモチベーション低下」でした。序盤ではある程度断られてしまうのは想定していたので、ここが大きなリスクだと思ったのです。

Spiral Capitalさんとの投資委員会の日も、応援と称して朝からaba社のオフィスに伺いましたが、実は上手くいかなかった際に、皆さんのモチベーションの糸が切れないようフォローができるように訪問させて頂いた側面が強かったです。

もちろん、投資委員会に対しては、念入りに戦略を練りつつ当日に臨みました。結果、T&Dイノベーション投資事業有限責任組合さんを通じて出資していただけることとなりました。

News – テクノロジーで介護者支援を目指す株式会社abaへ出資しました – Spiral Capital | スパイラルキャピタル

宇井 この時は、どんなストーリーで訴えれば出資していただけるかを必死に考えました。辻さんとのディスカッションを通じて、ようやく言語化できたのが「民間の介護保険を作る」という言葉でした

国営の介護保険という、ひとつの財布に依存している状態というのは、リスクが非常に高いと言わざるを得ません。そもそも、国営の介護保険がある国はドイツ・韓国・日本の3ヶ国だけです。

「国の財布ひとつの中でなんとかやりくりする」という、硬直化したモデルとは違う土俵で戦う。そのビジネスモデルがワークした瞬間に、グローバルへの展開も見えてくるはず。投資委員会当日は、その想いを必死に訴えました。

Spiral Capitalさんの出資が決まった2週間後、i-nest1号投資事業有限責任組合さんの出資が決定しました。プロダクトの完成度と、出資元の信頼度から「この会社は面白い」と思ってもらえたのでしょう。そこからは、次々と出資先が決まっていきました。

結果として、今回のラウンドでは3.45億円(累計12億円)の資金調達が実施できました。資金調達が難しい市況のなか、ダウンラウンドせずにこれだけの金額を集められたことは、大きな成果だと思います。

介護ロボット領域を牽引するaba、CVC・事業会社を中心とし9社より資金調達を実施。累計調達額は12億円に到達(補助事業/委託事業含む)

リブ辻 その後、私は2023年1月から3月にかけて、営業支援で携わらせていただきました。

宇井 他の会社さんにも相談はしてみましたが、やはり業界およびabaの理解度の高さという点で、辻さん以外に依頼する理由はないと判断しました。

リブ辻 営業支援で特に注力したのはプライシングです。排泄センサーという概念自体、まだまだ市場に浸透しきっておらず、価格の設定はとても重要でした。

今回のプロジェクトでは、実際に自分たちで商品の価格を設定して営業活動をし、検証を行いました。そこで得られた結果をもとに、「この価格で絶対に売れる!」という確信を持って、abaさんに価格を提案しました。

宇井 辻さんに提示された金額は、業界基準で見てもやや高額に設定されていました。排泄センサーは確かに、介護現場の重いペインから生まれた商品ですが、それがないからといって命に関わるわけではありません。最初は、この金額で大丈夫かなと不安でした。

11月にリリースする商品の予約販売という点も、不安の種でした。業界の商習慣としては、あまり前例がない販売方法で、かつこの金額で売れるのかと、心配が募りました。

それでも、辻さんの話す根拠を頼りに、先行予約の特典を提示したり、「この商品は圧倒的に価値がある」と顧客に伝えたりすることで、徐々に受注が獲得できています。

数字以外の成果―働き方を背中で語ってもらった

宇井 辻さんとの仕事は、数字以外の成果もありました。2つのプロジェクトを通じて、辻さんは私が発散する言葉をまずは一度受け止めて、その意見を肯定してくれました。私は意外と豆腐メンタルなので、その対応が非常にありがたかったです(笑)。 辻さんは私が発散する言葉を、ひとつずつ整理してくださいました。実際、辻さんとの打ち合わせやコーチングを通じて、abaのバリューの見直しも行いました。コーチングは自分の

内面を見直すいい機会になりましたが、辻さんがいてくれたおかげで、その学びを事業や組織にも反映できたと思います。

現在CXO候補の採用活動も行っていますが、辻さんをペルソナにして募集要項を書いています。

リブ辻 ありがとうございます。私は、コンサルタントは起業家の方々が描く未来に対して、信頼とリスペクトを抱くべきだと考えています。その前提で、宇井さんがベストな時間の使い方ができるようお手伝いすることが、私の役割だと捉えています。

宇井さんの考えを整理したり、大変な状況下で宇井さんがモチベーション高くいられるお手伝いをしたり、宇井さんのやるべきこと・やらなくていいことを決めたり。宇井さんが行きたい場所へ、一直線に走れるよう、必要なことを全部行うことが、私のすべきことだと思い行動していました。

宇井 それ以外にも、辻さんは背中で「働くということの本質」を伝えてくださった気がします

abaには「Be a Motor」というバリューがあります。社会の歯車になるのではなく、モーターとして積極的に社会を動かそうという意味を、この言葉には込めました。一方で、abaのバリューには「仲間を慮ろう」という言葉があります。介護者を支援しているからこそ、人に優しい会社でありたいという想いが込められています。

社内では、この2つの言葉がよく矛盾していました。メンバーを大切に思うあまり、成果や納期に対してゆるくなるという「甘さ」につながっていたのです

辻さん、ひいてはリブ・コンサルティングの皆さんからは、「なんとかして成果を出す」という姿勢をひしひしと感じました。皆さんの働く様子を見て感化されたメンバーは、私も含めて多かったと思います。

世の中には数多くのコンサルティング会社がありますが、成果を出すだけでなく、仕事のやり方まで置き土産にしてくださる会社は、果たしてどれくらいあるでしょう? 「一緒に仕事をすることで気づきを得たい」と思っているのなら、リブ・コンサルティングは最高のパートナーだと思います。

リブ辻 特にaba社のプロジェクトでは、私が半端な提言をしたり資料を作ったりすれば、事業が傾く可能性が大いにありました。予算が潤沢にあるわけではない中、大変な想いで調達した資金で依頼してくださった以上、少しでも多くのものを残さなければないと考えていました。

私の仕事のやり方や、仕事へのスタンスが皆様のお役に立てたのなら、とても嬉しいです。