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カーディーラー業界における黒船来航
「100年に一度の大変革」における成長加速の要諦

EXECUTIVE SUMMARY

1853年、黒船が浦賀に来て開国を迫った時、吉田松陰は「こんなものがあるのか。この船を送ってきたその先に何があるのか見たい。ぜひ乗せてほしい」と言ったという。これは、現在のカーディーラーの経営者の方の気持ちと類似するものではないだろうか。

最近、カーディーラーの経営者の方との会話では営業力強化、人財確保などの現場活動に関係するテーマに加え、全車種併売、CASE、MaaSなど幅広い。

環境の変化の質が、従来とは異なり、既存事業への影響度合いの解釈や対応が多様化し、業界無いの横並びではなくなってきた。

変化の質が変化する中、事象ごとに対応することで十分であろうか。自動車産業の産業構造や事業モデルに大きな変化が起きているのではないだろうか。

今、何が起きているか、変化を捉えるべきか、弊社の見方を紹介する。

■解釈で活用するフレームワーク

本稿では、変化を解釈するために、①製品ライフサイクル(PLC)、②アンゾフの事業拡大マトリックスの2つのフレームワークを用いる。PLCは、製品・サービスを導入期、成長期、成熟期、衰退期の四つのステージで捉え、各ステージの戦略、活動、組織のあり方などの方向性を示唆する。アンゾフの事業拡大マトリックスは、商品・サービス、市場の2軸で、既存、新規の4セグメントで捉え、市場浸透、新製品開発、新市場開拓、狭義の多角化など、多角化の方向性を示唆する。

■成長パターン【図1】

従来の一般的な事業における成長パターンは、どのように表記できるだろうか。PLCをベースに整理する。

既存の商品・サービスが「成熟期」になると、「成長期」となる商品・サービスを投入している。「成長期」の商品・サービスは、事業拡大マトリックスをベースにすると、新しい商品・サービスの提供、既存商品・サービスの新規市場への展開の2つである。前者は、自動車販売における新車種、モデルチェンジ、ファッションの流行が有り、後者は、製造業の海外進出などである。

■事業に関係する3層モデル

個社の事業は、産業全体における業界レベルの役割などの「産業構造」(第1層)、個社レベルでの提供価値、収益モデル、差別化などの「事業モデル(ビジネスモデル)」(第2層)、そしてその事業モデルに適応する「事業活動」(第3層)の三つのレイヤ(層)で構成される。従来、産業構造、事業モデルを長期固定化し、事業活動を変化に適応することで、成長してきた。

■自動車産業に関係する3層モデル

自動車産業における3層を確認する。「事業活動」は、前述の通りである。「事業モデル」は、従来の販売からアフターメンテナンスに関係する収益モデルを指している。ここでは、業界レベルの「産業構造」を確認したい。

自動車(ガソリン車)における大衆化の象徴は、1908年に登場したT型フォードである。1913年には史上初のコンベヤラインが完成し、量産化が加速し、産業構造が構築された。その後、メーカーが川上の開発、製造の機能を担い、カーディーラーが川下の販売、サービス機能を担うという分業体制も確立した。

現在まで自動車産業は初期のガソリン車を前提とした産業構造を、カーディーラーは販売を前提とした事業モデルを維持している。環境適応させてきたのは、商品・サービスに関係する事業活動である。

 

■カーディーラーの役割

トヨタ販売会社グループのHPでは、カーディーラーの役割を、「商流」に関係する販売、サービス機能と、「情報流」に関係するマーケット情報をメーカーに届ける機能と説明している。

また、カーディーラーの活動は、エリアが限定されている。そのため、成長パターンの「成長期」は、新規市場という選択肢がなく、商品・サービスにおける新規、すなわち新車種、モデルチェンジの投入である。これらは、メーカー主導で実施される。

 

■自動車産業を取り巻く環境の変化

トヨタ自動車のアニュアルレポート(2018年)の冒頭に下記のような記述がある。

「自動車業界は『100年に一度の大変革の時代』に入っていると、日々実感している。『電動化』『自動化』『コネクティッド』『シェアリング』などの技術革新は急速に進み、新しい競争ルールで、新しいライバルたちと、『勝つか負けるか』ではなく、『生きるか死ぬか』の闘いが始まっている。

また、2019年3月期決算説明会において、豊田章男社長は次の挨拶を行った。「この10年間の経営、また、大変革期に突入したとの認識を持つ中で、トヨタを『モビリティカンパニー』にフルモデルチェンジすることこそが、私の使命であるとの想いに至った。『モビリティカンパニー』とは、モノづくりを中心に、モビリティに関わるあらゆるサービスを提供する会社である。これまでの自動車産業は、確立されたビジネスモデルの中で、 成長を続けてきた非常に良くできたビジネスモデルであった。今、『CASE』と呼ばれる技術革新によって、 クルマの概念そのものが変わろうとしている。これまでのビジネスモデルそのものが壊れる可能性があるということを意味している。

また、クルマが進化しても変わらないものとして、クルマが『リアルの世界:で使われることを挙げ、競争力の源泉の1つに「ネットワークの力」を挙げた。

「ネットワークを、自動車の製造・販売だけでなく、新たなサービスにも活用していくことができれば、私たちの未来は大きく広がる。これからは、お客様との接点となる『ラストワンマイル』が勝負を分ける時代である。」

■産業構造レイヤの世代交代

社会の変化、技術の進化は、新たな産業を創造し、従来の伝統的な産業を進化させる。自動車産業では、CASE、MaaSなど、質が異なる変化がある。

この変化は、自動車産業(ガソリン車)の産業構造で対応できる領域を超えており、産業構造自体が「成熟期」を迎えている。豊田章男社長は、この「産業構造の世代交代」を「100年に一度の大変革の時代」と表現したと言える。

■カーディーラーを取り巻く変化と成長の方向性【図2】

今回、変化事象の例として、全車種併売、CASEを取り上げる。この変化事業を成長機会と捉えるには、従来からの新車種、モデルチェンジなどの事業活動に加え、事業モデル、産業構造までレイヤを拡大し、最適化することが有効である。

成長パターンをベースに、何が「成熟期」となり、何が「成長期」の選択肢となるかについて整理する。

●全車種併売

トヨタ自動車は、全車種併売を来年5月に実施する。全車種併売により、系列が廃止され、全車種が販売可能となる。

全車種併売をどのレイヤの変化と捉えるべきだろうか。成長パターンで考えると、「成熟期」は何であり、「成長期」の選択肢は何であろうか。2つの捉え方を紹介する。

1つ目は、変化レイヤを事業活動とする捉え方である。この軸で成熟期となるのは、系列による車種である。また、成長期となるのは、提供する商品が全車種である。事業活動に着目すると、例えば、営業担当者に対する全車種の商品知識習得や水平統合(M&A)などが考えられる。

2つ目は、変化レイヤを事業モデルとする捉え方である。この軸で成熟期となるのは、エリア内の系列による自動車の販売モデルである。また、成長期となるのは、提供する商品が全車種、対象顧客が全セグメントとなった場合の新たな販売モデルである。事業モデルに着目すると、多様化に対応すべくセグメント化がある。例えば、既存の画一的な店舗ではなく、シニア向け、家族向けなど店舗ごとにテーマを設定し、テーマをベースとした店舗網の体系化などが考えられる。

 

●CASE

経産省の自動車新時代戦略会議の資料には、「ツナガル・自動化・利活用・電動化(いわゆるCASE)の潮流が産業構造を大きく変革する」と説明した。また、「産業構造変化への対応が急務に」として、「新たなプレイヤーとのイノベーション競争、ハードからソフトへの付加価値シフト、利用段階ビジネスの拡大、必要となる開発段階の大規模化、新たな人財確保・育成の必要性、部素材サプライヤーの経営革新の必要性など」を検討している。

 

●Connectivity

Connectivityを、自動車新時代戦略会議では「車のツナガル化、IoT社会との連携深化」と説明した。Connectivityにおいて「ツナガル」のはクルマとメーカーである。メーカーがダイレクトにクルマの状態、利用状況に関係する情報を常時把握することができるようになる。これは、情報流の革新であり、従来の事業モデルの機能を進化させる。コマツのKOMTRAXなどが有名である。Connectivityにおける変化レイヤは、点検などのサービス事業の形態である「事業モデル」(第2層)、情報流に関係する「産業構造」(第1層)の2つである。1つ目の「事業モデル」軸で成熟期となるのは、発見、対応型事業形態である。EVなどのクルマのデジタル化が進むと、代替機能としてリモート保守の比率が高くなる。予防保守型の設計のポイントは、予防保守に関係するKSF(重要成功要因)、差別化領域を意識することである。顧客における利用に関係する決定要因が変化するのではないだろうか。例えば、サービス提供事業者群と事前にスケジュール、対応時間、費用などを比較し、決定する構造になる。これら顧客の意識の変化も加味した事業モデルの設計が重要である。2つ目の「産業構造」軸で成熟期となるのは、カーディーラーがマーケット情報をメーカーに届けるという情報流の仕組みである。

 

●Shared & Services

Shared & Servicesを、自動車新時代戦略会議では「車の利用シフト、サービスとしての車」と説明した。社会全体におけるシェアリングエコノミーの潮流はクルマでも起きており、クルマの関わり方が、従来の「所有」だけでなく、「利用」にも拡大している。Shared & Servicesにおいて変化するレイヤは、クルマのシェアリングに関係する価値観の変化適応などの「事業モデル」(第2層)である。この軸で成熟期となるのは、販売を前提とした所有型事業モデルである。また、成長期となるのは、所有×利用の複合型事業モデルである。

従来の「所有(販売)」に関係する事業活動は、来店以降のセールス活動が中心であった。「所有×利用の複合型事業モデル」における「利用」という商品/サービスは、「販売」のカニバリゼーション(共食い)ではなく、協調のポジショニングで事業モデルを設計とすることが重要である。1つの例として、利用の対象セグメントは、来店客以前のセグメントや他社客など、自社がリーチしていない潜在顧客が含まれている。今までの管理対象外のセグメントとの接点を加味した新たな事業モデルの確立が必要である。

また、事業モデル、特に差別化を設計する際に、利用における異業種との連携、差別化も重要である。例えば、販売の機能を持たない事業者との差別化は、複合型だから提供できる価値、所有と利用の融合による価値提供がポイントである。

 

●Autonomous、Electrics

Autonomous、Electricsを、自動車新時代戦略会議ではそれぞれ「自動運転社会の到来」「車の動力源の電動化」と説明した。豊田章男社長は次のような挨拶を行った。「これまでの私たちは、燃料電池自動車(FCV)でも、電気自動車(EV)でも、ガソリン車と同じように完成車として販売店に卸し、販売店を通じて、個人のお客様にお届けするという形にとらわれていたように思います。確かに、ハイブリッドカーまでは、このビジネスモデルは有効だったと思いますが、新たなインフラを必要とするFCVやEVでは通用しないかもしれません。」Autonomous、Electricsにおいて変化するレイヤは、「産業構造」である。この軸で成熟期となるのは、ガソリン車を前提とした産業構造である。また、成長期となるのは、EVなどを前提とした産業構造である。EVなどを前提とした新たな産業構造、昨日、分業の設計及び主体は、メーカーが決定する。この産業構造においてカーディーラーはどの役割を担うかを確認し、提供価値を設計する。カーディーラーが設計すべきは、EVなどの新産業構造における「事業モデル」(第2層)である。新産業構造においても、地域の実拠点は強みであろう。ガソリン車と共通な価値提供、異なる価値創出など自社の事業モデルの設計とが重要である。

 

●トヨタ直営販社の減少

遠州鉄道の静岡トヨタ買収や愛知の直営販社売却など、メーカー直営のカーディーラーが減少している。

市場の縮小以外に、情報流の革新などの産業構造における役割の変化も影響していると考える。

また、クルマの販売は、メーカーごとに店舗を持ち、顧客が来店し購入するという形態が存続している数少ない業態である。将来的に店舗という資産を持つことのメリット、デメリットも検証することも重要である。

■次代の事業モデル【図3】

今回、変化適応として、全車種併売、CASEを取り上げ、考慮すべきレイヤ、成熟期、成長期となるものを整理した。

弊社では、カーディーラー経営の次代の事業モデルを3つで体系化している。体系化することで、自社のポジション、事業ポートフォリオを確認することができる。今後は、既存のカーディーラー経営1.0の事業モデルから幅出しし、2.0や3.0の事業モデルとの最適な組み合わせを設計することが重要ではないか。

●カーディーラー経営1.0

従来から自動車の産業構造をベースに「所有(販売=セールス)」に関係する事業をメーカーの傘下で維持、発展する事業モデルである。例えば、マーケティングオートメーションなどITの利活用やモールなどの他の経営資源と連携することで、従来リーチしていなかった潜在顧客との関係性を構築することができる。これにより、新たな価値創造、生産性向上が可能となる。

 

●カーディーラー経営2.0

「所有」「利用」を含めた移動における新たなサービス(モビリティサービス)をメーカー傘下で実行する事業モデルである。「所有×利用の複合型事業モデル」がベースとなるが、収益モデル、マネタイズポイントがKSF、差別化要因となる。例えば、所有を軸とした事業モデルでは、利用に関係する事業単独の収益を犠牲にするという選択肢もある。自社のありたい姿、差別化を意識した事業モデルの設計が重要である。

 

●カーディーラー経営3.0

地域や自社のコアコンピタンスの視点から、ベンチャー企業などと連携した新たなサービスをメーカーに依存せず実行する事業モデルである。クルマだけに限定せず、自社のコアコンピタンスを意識し、外部連携での価値創造が重要となる。顧客情報を蓄積していることがコアコンピタンスであると聞くことがある。活用出来る顧客情報か、確認することも必要である。

 

■まとめ

自動車産業において、さまざまな変化が起きている。従来からの業界の常識、経験からの意思決定とは、異なる視点での対応が必要である。本稿では、現在の変化適応として変革期の最適化ステップを紹介した。

ステップ1:環境変化を客観的に捉え、進化するレイヤを3層から選定する

ステップ2:選定したレイヤにおいて、成熟期、成長期の対象を整理・可視化するステップ3:成長期に関係する最適化の構築および移行計画を実施する

同時に、カーディーラー経営における次代の事業モデルをあわせて紹介した。

■終わりに

自動車産業が大きく変化する中で、弊社は今までの数多くのカーディーラーの方々との実績を踏まえ、次代のモビリティカンパニーにおける顧客接点機能の進化へ向けたパートナーとなるべく、「モビリティラボ」を創設した。

カーディーラーの方々と次代の事業モデルを構築し、モビリティ社会への進化を加速させるべく、実態調査、提言などを踏まえ、活動する計画である。

現時点を黒船来航と捉え、開国を楽しんでいきたい。

UPDATE
2019.10.04
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