COLUMN
【LiB Mobility経営 vol.18】
業界変化を見据えた一手
エネルギー事業への挑戦にかける想い
エネルギー事業に挑戦する
九州三菱自動車販売
地域に求められる企業を目指す新たな姿
九州三菱自動車販売株式会社は1951年(昭和26年)4月2日に創立され、2021年に創立70周年を迎えた。
2004年に設立されたKMGホールディングス株式会社の傘下として、同社は自動車販売を主軸にしつつも、「車の販売会社」という枠に囚われず事業の多角化を進めている。展開する新規事業は多種多様だが、中でも一際注目すべきは、V2Hを足がかりとしたエネルギー事業への参入だ。この度の18号では、新規事業に挑む意気込みと経営への想いを伺った。
既存事業・新規事業の両輪を追求
LiB 九州三菱自動車販売様の、現在の経営方針について教えてください。
牟田弘昭氏(以下、敬称略) 九州三菱自動車販売は、「大方針」として
- お客様満足度No.1に
- 繁栄と幸福は会社と共に、社員と共に
- 健全経営で競争力のある、永遠に生き残る会社に
という3つの経営理念を掲げて経営してまいりました。その上で、当社では3年ごとに中期経営計画を打ち立てています。各計画毎にアルファベットを振っており、2021~2023年度の「S計画」では、次の5点を重要項目として事業を展開しています。
- コンプライアンスの遵守
- 新車拡販
- バリューチェーン拡大による更なる収益確保
- 選択と集中による効率経営
- KMGブランドの醸成
KMGホールディングス株式会社
九州三菱自動車販売株式会社
代表取締役社長
牟田 弘昭 氏
LiB S計画では、新車拡販やバリューチェーン拡大など既存事業に力を入れているのが伝わります。
牟田 ありがたいことに、当社はこの3年で新車販売台数を着実に伸ばし続けてきました。将来的に日本の人口は減り続ける中においても、人材育成を通じての新車拡販には、変わらず挑戦し続けています。収益を安定させるための、バリューチェーン拡大も同様です。
それに加え、「KMGブランドの醸成」という方針では、新規事業への参入を視野に入れながら自社ブランドの再構築を図っています。レンタカー事業やデジタルサイネージを活用した広告事業、中古車販売や次世代型電動モビリティの販売。こうした各種事業に加え、EV・PHEVの普及を通じたエネルギーの有効活用と、災害時におけるEV車の価値をお客様に体感いただくための、DDS(電動DRIVE STATION)を九州各地に展開しています。
「KMG」という名称も、「Kyushu Mitsubishi Motors Group」から「Kyushu Mobility & service Group」へ大胆に変更しました。
久永信也氏(以下、敬称略) ロゴはそのままにしつつも、会社の中身を大きく変貌させようとしています。リブランディングでは特に、「地域の定番でありたい」という想いを大切にしています。現在は次世代型電動モビリティなどを取り扱うことで、地域の皆様に必要とされる会社を目指しているところです。例えば、次世代型電動車椅子「WHILL」の販売は、自動車免許を返納した後のお客様の移動にも、寄り添いたいという想いがあるからです。
こうした活動は、社員の自信や誇りにもつながると考えています。アウターブランディングとインナーブランディングの両面から、KMGブランドの醸成を図っています。
どこよりも早くエネルギー事業に着手しようと決意
LiB エネルギー事業に進出するにあたり、EV・PHEVの普及といった業界の変化をどのように捉えていますか。
牟田 EVが世間に認められたきっかけは、三菱自動車が自社PHEVを活用した災害時協力協定を、全国47都道府県の自治体と締結したことだったと思っています。その動向を見て、当社は何ができるのかを考え続けました。そして、「三菱自動車がEV・PHEVの先駆者であるのならば、当社はディーラーとして、どの競合より早くエネルギー事業に着手しよう」と決断したのです。
先輩からの教えで、「失敗してもよかやんか」「チャレンジしてダメだったのならやめればいい、良かったのなら続ければいい」と思いました。自分たちの持つノウハウを活かしつつ、できることをまずやってみようと。
LiB 保守的にならず、未来に向けて前進しようと貴社が決断できたのはなぜですか。
牟田 70年の経営の過程で、当社は多くの成功と失敗を積み重ねてきました。先人の努力の甲斐もあり、当社は「無借金経営による健全な体質」「誰もが社長になれる環境」「社員持ち株制度」という体制での経営を実現できています。健全な経営体制や社内で切磋琢磨し合える環境を構築できたからこそ、新しい分野に挑戦しようと考えられる文化が醸成されたのかもしれません。
さらに、現在代表取締役会長の城戸﨑建二だった時代に、当社のチャレンジ体質は一気に浸透しました。高齢化社会によって、新車販売台数は必ず減少します。事業全体の勢いが衰えるのがハッキリ見えている以上、新しいことをはじめなければなりません。そうした危機感から、城戸﨑はさまざまなチャレンジに乗り出しました。そばで見ていた私も、その想いを受け継ぎチャレンジを続けています。
LiB とはいえ、エネルギー事業という未知の世界に歩を進めることに対して、必ずしも現場で働く社員は歓迎しないということもよく起こりがちな事象だと思います。社内では、経営陣と現場との間で意見の衝突などはありませんでしたか。
牟田 衝突が起きないよう、社員とコミュニケーションを取りながら、今後の方針を理解してもらうよう努めました。私は社長に就任した時、3つの志を掲げました。そのうちの1つが「現場に一番近い存在でありたい」です。昔、先輩や上司に少しでも声をかけてもらえると、とても嬉しかったことを今でも鮮明に覚えています。あの時の先輩方と同様に、私も社長室に黙って座っているのではなく、現場の社員に少しでも声をかけていきたいと考えて、日々行動しています。
LiB 牟田社長の心がけが、経営陣の意思決定の浸透に一役買っているのですね。
共感と体感で新規事業への理解を促す
LiB 新しい方針を推進するにあたり、私たちは「理解」「共感」「実践」「定着」「継承」という5つのステップがあると考えています。ここまでのお話を聞いて、九州三菱自動車販売様のエネルギー事業は共感のステップを越えつつあると感じました。
牟田 共感から徐々に、実践へ向かうタイミングだと思います。エネルギー事業を始めるにあたり、まず社内から担当者を選抜しました。選抜した社員には面談で、時代背景やなぜ当社がエネルギー事業に挑戦するのかを城戸﨑と私が説明しました。
LiB エネルギー事業は、貴社が取り組んできたモビリティ事業とは異なる領域でもあります。そこに注力する以上、社員皆様の共感は必須です。その共感を引き出す上で、城戸﨑会長と牟田社長の言葉はとても重要だったのだと思います。
牟田 担当者もはじめのうちは、自動車以外の商品を扱うことに抵抗があったかもしれません。しかし少しずつ、エネルギー事業に携わることはとても意味があるのだと、考えてくれるようになりました。
KMGホールディングス株式会社
九州三菱自動車販売株式会社
新事業・ブランド戦略室長
久永 信也 氏
久永 社内でエネルギー事業推進に対する共感が進んだ背景には、現場での「体感」を得られたことも大きいと思います。
最近はEV・PHEVの販売を進めていくと、お客様の方から太陽光パネルやV2Hに関する質問が投げかけられることがあります。
こうした経験を重ねると、社員にも既存事業とエネルギー事業とに関連性を見出します。そして、「自分たちはこの領域でもお客様に貢献できるのではないか」と感じ、自分たちがエネルギー事業に関わる意義を理解し始めてきていると感じています。
牟田 ありがたいことに、経営陣からの意思決定に対して、大きな反発は起きていません。エネルギー事業に取り組むと決めて以降、すべての事業所が行動に移してくれています。
LiB 実行力がとても高いのですね。
牟田 これから重要となるのは、「実践」の段階をどう進んでいくかだと思います。これまでのノウハウが通用しない領域だからこそ、選任された担当者たちの体験を通じて、成功例や失敗例を社員たちに共有していきたいです。
失敗してもいいの精神で、先手を打って挑戦しよう
LiB KMGグループは最終的に、どのような企業体を目指したいと考えていますか。
牟田 私たちは「総合商社化」を目指しています。まずS計画で示した通り、新車拡販は引き続き採用と人材育成を積極的に進め、前年比以上の成長を目指し続けます。それと同時並行で、エネルギー事業も推進します。将来的には内製化を実現したいので、社内から人材を抜擢させつつ、M&Aも視野に検討していく予定です。その時は、双方にとってWin-Winの関係になればと思っています。
LiB 「総合商社化を目指す」ということですが、現段階でエネルギー以外の構想もあるのでしょうか。
牟田 まだ発表できる段階ではありませんが、いろいろと調査中です。
久永 モビリティ領域の延長線上に囚われることなくできることがあると思っています。例えば今後、高齢化で自動車販売台数は減少していくわけですが、高齢者の方々が増えることで新たなマーケットが生まれるはずです。ここに対応していくことで、より地域の皆様に貢献できる企業になると考えています。
「カーライフ」から「トータルライフ」という言葉に考えを切り替えて、行動できるかどうかが、今後の企業存続に関わってくると思います。その点を踏まえて、先手先手で行動していきたいと思っています。
LiB 貴社は自社の組織機能として「能力開発部」があるということも特色だと思うのですが、どのような意図でそのような組織を組成されているのでしょうか。
牟田 能力開発部というのはかなり昔から組成しており、いままでは車両販売や新人教育等の研修講師としての役割を担ってきました。しかし今後は、幹部育成や、本エネルギー事業に関する研修講師としての活躍もしてもらうことを期待しています。
当社の人・組織に対しての「能力向上」を担うためにも必要不可欠な部署です。
LiB これからのチャレンジに向けて、社員の皆様に対して期待していることはありますか。
牟田 人口減少という確実な未来がある現状において、私たちは「自分たちの事業が成立しなくなるかもしれない」ことを前提で行動しなければなりません。だからこそ、現時点では予想できない新事業に早く挑戦して、軌道に乗せる必要があるのです。この危機感を社員とも共有した上で、共に進んでいければと思います。
久永 チャレンジを歓迎する企業文化をもっと前面に押し出して、社員1人1人の積極的なチャレンジも促していきたいです。
LiB 最後に、ここまでの新規事業での経験を踏まえて、カーディーラー業界の経営者の方々にメッセージをお願いします。
牟田 まずは挑戦してみましょう。新しい領域に踏み込めないのは、失敗が怖いからなのだと思います。しかし、怖がったままでは何もできません。「失敗してもよかやんか」の精神で、ぜひ挑戦してみてください。
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- UPDATE
- 2024.02.15
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