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EV新規事業開発における事業ドメインの極意

EXECUTIVE SUMMARY

新規事業創出プロセスのうち山場となるのが、新規事業展開領域の絞り込みになります。いわゆる、事業ドメインの設定です。どの領域で「誰に」「何を」「どのように」提供していくかという方向性を決めるということです。そのためには、まず自社が現在事業を展開している範囲を明確にします。そのうえで、自社が目指している方向性を考慮しながら理想的なドメインを探っていきます。

事業ドメインの明確化

事業ドメイン決定にはさまざまな切り口がありますが、大きく次の3つのパターンで検討するといいでしょう。1つ目は「自社領域の深耕」です。自社がすでに参画している既存領域において、事業ドメインを拡大していく方向性です。2つ目のパターンは「バリューチェーンの染み出し」になります。自分たちが今いる領域から川上、あるいは川下へ事業領域を拡大して、新しい事業ドメインを探す方向性です。3つ目は「自社アセットの横展開」です。アセットを活用して、自分たちが所属している業界から他業界へ事業を広げる方向性です。

よく知られている事例としては、富士フイルムが挙げられます。写真フイルムのトップメーカーからコア技術を横展開することで、現在は、ヘルスケア、マテリアルズなど幅広く事業を多角化し、成長を遂げています。計測機器メーカーのタニタがタニタ食堂を開業して成功しているのもその1つですし、EVX領域でいうなら、アップルやAmazonといったテックジャイアントが、自動運転対応のEV開発やEVフリート事業に乗り出してきているのも自社アセットの横展開といえます。このように自社の強みを活かせるようにターゲットとなる市場を再定義し、事業を展開すべき範囲を明確にしていきます。

事業ドメイン検討フレームワーク

一次情報が真の課題への近道

事業ドメインの方向性が決まってきたら、市場課題の探索も行っていきます。市場環境分析や業態動向分析、競合分析、トレンド分析などを行いながら、市場にあるペインや課題、ニーズを探っていきます。

課題の解像度を上げる方法はいくつかありますが、toB、toCと問わず「顧客インタビュー」は効果的な手法の一つです。ターゲット層へ直接インタビューすることで一次情報を取得できるため、データ分析など定量的調査ではわからない定性的な課題感をつかむことができます。

ターゲットの声をたくさん集めようとするとWEBアンケートを活用しがちですが、表面的な意見が大半を占める傾向があり、信ぴょう性という点ではあまり信用に足る情報とはいいづらい面があります。EVX領域のビジネスは、カーボンニュートラルという文脈が入るため、反対しにくい雰囲気があります。そのため、WEBアンケートのように顔の見えない状況で「困っていることに対してお金を払いますか」などと聞かれると「はい」と安易に答えてしまいがちなのです。いくらまでなら払えるかといった質問に対しても、実際許容できるよりも高い金額を答える傾向があります。

課題解決のためにお金を払えるかどうかは課題の深さを図るための重要指標ですので、可能な限り一次情報を集めることをお勧めします。実は、事業仮説を立てて事業性の評価をクリアした後、実証実験を始めてみると、想定していたほど課題感を抱いているユーザーが少なかったとか、別のところに深い課題感があったといった壁にぶつかり、再度、事業ドメインの設定からやり直すことがあります。その原因の多くは、この段階の市場調査が甘く、芯を捉えた課題にまで掘り下げきれなかったケースが多いのです。

また、エキスパートインタビューは大学教授や業界に精通した有識者や専門家から最新の情報や専門性の高い話を聞くことで仮説の制度を高めていくうえで有用です。さらに想定している事業ドメインや市場に関する知見を持っているキーマンを紹介してもらえるというメリットもあります。

調査手法の一例

新規事業のタネ、バリューカプセル

市場課題の探索を進める一方で、自社が持つ技術、機能、保有資産、ブランドなどの視点で自社アセットの棚卸しも行います。このときに大切なのは、自社の「強み」を意識しないことです。新規事業開発をするための棚卸しというと、ついつい自社の競合に対する優位性や強みに目が向きがちです。棚卸するアセットが強みである必要はありません。むしろ、強みや競争優位性を意識してしまうと、どうしても既存事業における優位性に引っ張られてしまい、既存事業の延長線上でしか新規事業を考えられなくなってしまいます。

そもそも、優位性や強みと思っているものは、既存事業を前提としたものであって、新規事業でも優位性や強みになるとは限りません。過去の成功体験にとらわれやすくなりますし、強みや弱みといったものは時代や環境によって変わるものでもあります。

そのようなものに思考が引っ張られてしまうと、自ら新規事業の可能性を狭めることになってしまいます。そのため、客観的な視点で自社のアセットを棚卸ししていくことが大切なのです。もう1つの注意してほしい点は、棚卸しできたと思っても、すぐ次のステップに移ろうとしないことです。なぜなら、往々にして棚卸したアセットは粒感が大きく、そのままでは新規事業のタネを見出すことが難しいからです。そのため、棚卸したアセットをこれ以上分解できないところまで粒度を細かくしていきます。

例えば、一口にEV車載用バッテリーといってもバッテリーモジュールやバッテリーECUなど複数のパーツで構成されており、筒形、ラミネート型など形状も複数存在します。現在のところリチウムイオンバッテリーが主流ですが、『全固体電池や東芝や双日、ブラジルのCBMMの3社で取り組む次世代リチウムイオン電池(LiB)』など新しい技術も誕生していますし、もっと粒度を細かくしていけば、リチウムイオン電池の性能を左右する活物質材料の加工にもさまざまな技術が存在します。原料資源の調達という観点でも原料別、入手先別などアセットを細かく分解していくことができるはずです。

このように、さまざまなカテゴリごとに最小単位まで分解したアセットのことを、私たちは「バリューカプセル」と呼んでいます。バリューカプセルが見出せたら、想定している事業ドメインから抽出した市場課題から将来の市場動向を予測します。そこから逆算して新たなビジネス機会のアイデアを創出し、バリューカプセルとの組み合わせを探っていきます。EVX領域における事業開発であれば、この段階で初めてEVXというフィルターをかけてバリューカプセルの中から有用なものを絞り込んでいくイメージです。

自社アセットの棚卸し
UPDATE
2023.06.02
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