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EV普及の動向とシナリオ

EXECUTIVE SUMMARY

日本でのEV普及シナリオを考えるにあたって、大きく3つの観点で潮流をとらえていく必要があります。まずひとつ目に、地域の観点であり、EVと親和性の高い地方部への普及が今後重要なカギとなっていきます。2つ目に、利用目的の観点であり、タクシーやフードデリバリーといった商用車からEV化が進んでいくと思われます。最後にサイズの観点であり、バッテリー容量が小さい小型車から普及していくことが考えられます。

EV普及は地方部がカギ(地域の観点)

日本全国一律にEVが普及していくことなどありえません。まずは、需給バランスや地域ごとの事情などによって普及スピードにはグラデーションが生まれます。そこで、ビジネス機会を模索するためにも、どの地域から普及が広がっていくかを知ることには意味があります。

まずは地域をざっくりと一都三県や中核都市といった都市部と地方に分けてみた場合、EVの販売比率が10%前後に達するまでは都市部の方がEVは売れると考えます。下の図は、一般社団法人次世代自動車振興センターの調査データで、クリーンエネルギー自動車(CEV)補助金の交付数を集計したものです。EVの新車販売台数と完全に一致しているわけではありませんが、おおよその傾向は把握できます。

これによると、上位を都市部が占めていることがデータからはっきり読み取ることが出来ます。マーケティングで語られるところのイノベーター、アーリーアダプターと言われる層が都市部に多いからです。彼らにとっては充電施設が必要十分に揃っているとか、何キロメートル走れるかといったことは二の次ということが多く、環境貢献や次世代のモビリティといった部分に価値を見出し、購買意欲を刺激されているわけです。
参考:イノベーター理論をわかりやすく解説!【事例あり】(東大IPC)

都道府県別 補助金交付台数(EV) 2009~2020年合計数
都道府県別 補助金交付台数(EV) 2009~2020年合計数

出典:都道府県別補助金交付状況 電気自動車等(一般社団法人次世代自動車振興センター)

ただ、こういった層はユーザー全体の15%ほどでしかありません。EVが日常生活の中に定着していくための原動力とはいえず、アーリーマジョリティやレイトマジョリティといわれる層にまでEVが普及していくためにはユーザーにとってより身近で切実なニーズや問題との関わりが必要になります。

実は、すでにそのヒントが現れており、EVの販売台数でみると都市部が多いのですが、人口1万人当たりの台数で見ると、岐阜県が第1位に躍り出てくるのです。東京都が1万人あたり15.4台であるのに対して、岐阜県は34.8台なので、岐阜県は東京都の2倍以上EVが普及していることになります。このような現象が起きている理由のひとつに、地方部における「ガソリンスタンドの減少」が挙げられます。

ガソリンスタンドは、ガソリン車の燃費向上や少子高齢化、自動車離れなどの影響によって、その数が年々減少しています。ガソリンスタンドには地下に大きな貯蔵タンクが埋設されていますが、耐用年数があり、一定期間が過ぎれば切り換えなければなりません。それには莫大な投資が必要です。

しかし、需要が減少し利益を確保することが厳しくなっていくことがわかり切っているなか、回収に数年から数十年かかる貯蔵タンクの切り替えに踏み切るのは大きなリスクがあります。そのため、事業継続を断念して、ガソリンスタンドの廃止、廃業が進んでいるのです。1994年度末、6万か所以上あったガソリンスタンドが2021年度末には半数以下の2万8000件台にまで減ってしまっています。

揮発油販売業者数及び給油所数の推移
出典:揮発油販売業者数及び給油所数の推移(経済産業省)

この傾向は過疎化が進む地方では、より深刻だといわれています。住居エリアによっては、給油のためにわざわざ車で30分かけて移動しなければならないケースもあるそうです。日常的なアクセスコストを考えたときに、自宅で充電できるEVのほうが使い勝手がよく、今後地方で同様の現象が広がっていくことが予想されます。

一方都市部では、住宅事情もEV普及の壁になります。マンションなどの集合住宅では充電設備を設置するのが難しいからです。分譲マンションの駐車スペースは自己所有地ではないため、設置するには区分所有者の4分の3以上の同意が必要になります。しかし、居住者の中にはEVを所有していない人もいるため、設備の設置費用やメンテナンス費用を誰が負担するのかといった問題が発生しがちなのです。敷地が限られる都市部では機械式駐車場も少なくありませんが、そもそも機械式駐車場の場合、物理的に設置が難しいという事情もあります。地方で普及が進む背景には、戸建て住宅が多く、充電設備を設置しやすいこともあるでしょう。一方、都市部には集合住宅が多いため、今後こういったことも普及の妨げになってきます。

EV普及は商用から(利用目的の観点)

2つ目の視点は、「利用目的」です。個人利用か商用か、という視点であり、日本においては商用利用の方が先に普及していくと考えられています。理由は、個人が自家用車を選ぶときの要素として、環境貢献やサステナビリティといった環境文脈の優先順位が海外に比べて低いと感じるからです。アラブ首長国連邦のドバイでウーバーを利用して車を呼ぶとき、車種の選択肢の中にEVがあります。といっても、海外ではEVを呼んだ方が安くすむわけではありません。

また、EVが日本より普及しているといっても街中を走っている台数を考えれば、ガソリン車を選んだ方が早く来てくれる可能性のほうが高いはずです。それでもEVを選ぶ人が多いのは、それだけ環境に対する意識が浸透しているということでしょう。一方、日本でタクシーを配車するとき考えることは到着までの時間と料金というのが一般的で、そこに環境文脈は入ってきません。EVを購入するときも環境にいいことを最優先条件として選ぶことは少ないはずです。

EVの販売価格はガソリン車よりも割高で充電施設の数など不自由さも伴うことなどを考え、個人利用目的だとEVよりもガソリン車やハイブリッド車を選択する人がまだまだ多いというのが実態です。また、現状EVを購入しているアーリーアダプター層がEVを購入するとき重視しているのは「カッコイイ」とか「クール」だからという側面が強いとも感じています。

EVがマジョリティになっていくためには、環境文脈が大きな意思決定要因にならないといけないと思っていますが、個々人の意識が変わるのには、まだ時間がかかるというのが弊社の考えです。その点、商用となると話は違ってきます。カーボンニュートラルへの取り組みに積極的な企業が少なくありません。環境貢献やサステナブルに寄与する活動を重視する株主や投資家が増えているため、企業価値を高めるためにも、資金調達という意味においても、おろそかにできないという事情もあります。

近年は、カーボンニュートラルなど環境に対する感度の高い学生が増えていることもあり、ブランディングに活用している企業も増えています。環境貢献に注力している企業の方が、採用活動上の魅力度が高いという考え方です。

EVの主流は小型タイプ(サイズの観点)

3つ目の視点は、大型か小型かという「サイズ」の話です。というのも、トラックやバスといった大型の車種となると、バッテリーも大きくなってしまうからです。10 トントラック用のバッテリーの重さはおよそ2トンといわれています。4人乗りセダンタイプの乗用車のバッテリーが300キログラムほどですから、EVが大型化するとそれだけ製造コストが跳ね上がることになってしまうわけです。

長距離輸送では流通コストをいかに削るかで優位性を出していくしかないという点からも、コストがかさむ大型EVの導入には二の足を踏むと考えられます。また、航続距離の問題も大きな壁になります。1日の乗車距離が数十キロメートルで済む路線バスであれば、フル充電で80キロメートルほど走れるというEVバスの航続距離でも問題ありませんが、数百キロメートルを走る高速バスや長距離トラックでは導入が難しいのが現実です。航続距離を伸ばそうとすればバッテリーを大型化するしかありません。しかし、バッテリーが大きくなると車体重量が増加してしまいます。車両総重量に制約がある輸送トラックにとって、車両重量の増加は最大積載量の減少を意味し、輸送効率の悪化をまねくことになります。そのため、普及が進むには、バッテリーのエネルギー密度が大きく向上するなど、航続距離を大幅に伸ばせる技術革新が起こるか、充電時間の問題や充電施設数の問題などが解決される必要があります。

弊社としては、長距離輸送については、EVではなく、FCV(Fuel Cell Vehicle(燃料電池自動車))が担うようになるのが現実解と考えています。こういった理由から当面普及が進むEVのサイズは、小型のほうが有利だと考えます。例えば、配送用の中でも集荷基地から個宅に届けるところのラストワンマイル輸送で利用される小型のバンタイプEVが活躍するのではないでしょうか。ラストワンマイル輸送であれば、航続距離の問題もあまり気にする必要はありません。

UPDATE
2023.03.24
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