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再生可能エネルギーの普及に必要不可欠な蓄電池

EXECUTIVE SUMMARY

脱炭素社会を実現する手段として再生可能エネルギーが注目されています。これまで、天候に依存する再生可能エネルギーは供給が不安定(自然変動性)で、再生可能エネルギーは実用性の観点で問題視されていました。しかしながら、自然変動性の解決策として、最近では蓄電池が注目を浴びています。現時点では、蓄電池が普及することによって伴う課題もいくつか指摘されているものの、それを事業機会として捉えて、蓄電池の活用に留まらない更なる新しい複数の事業モデルが構想され、実現に向かっています。

蓄電池が注目される背景

2020年10月、日本政府はアメリカやEU、イギリスなど他の先進国と足並みをそろえ、2050年までにCO2などの温室効果ガス排出を実質ゼロにするカーボンニュートラル、つまり脱炭素社会の実現を目指すことを宣言しました。そのための中間目標として2030年度に、「温室効果ガス排出量を2013年から46%削減、さらに50%の高みに向けて挑戦を続ける」という野心的な目標を打ち出しています。

脱炭素社会の実現に向けては、エネルギーの脱炭素化が最も重要なテーマのひとつになります。従来の化石燃料を燃やす火力発電では、大気中に大量のCO2を排出してしまいます。これに対し、再生可能エネルギーを活用すれば、CO2を増加させることなく、発電することができます。

しかし、再生可能エネルギーが普及したとしても、我々はこれまで通りの生活を送ることができるのでしょうか。SNS上では既に再生可能エネルギーに対する懐疑的な意見が散見されています。

脱炭素化社会の実現が未来の生活に重要だとしても、現在の生活にマイナスの影響を及ぼすようでは、その持続的な繁栄は現実的ではないでしょう。そこにおける打開策のひとつとして蓄電池が注目されています。

同時同量の原則と再生エネルギーの問題点

再生可能エネルギーと蓄電池とその関係性を理解するためには、2つの前提知識を理解しておく必要があります。電気は我々の生活にとって必要不可欠です。でも、我々が安心・安全に電気を使えているのは、同時同量の原則が24時間365日守られているからなのです。

同時同量の原則

電力業界のシステムや課題を理解する際に欠かせない基本的な特徴のひとつに「同時同量の原則」があります。電気の品質維持のため、ネットワーク内で発電される電気の量と消費される電気の量は常に一致している必要があります。需要と供給のバランスが崩れると、最悪の場合、停電が起きてしまいます。停電にまで至らなくても、半導体などの精密品を扱う工場では微妙な周波数の乱れも製品の質に影響を及ぼします。最近ではテレワークが普及し、一般家庭においてもPCなどの精密機器が当然のように使用されています。そのため、この同時同量が保たれることは個人にとっても法人にとっても非常に重要なことなのです。

再生可能エネルギーの電力供給は不安定

前述した同時同量の原則を踏まえると、再生可能エネルギーの大きな課題が浮き彫りとなります。それが自然変動性です。ここでは、イメージしやすいように、再生可能エネルギーの中で最も一般的な太陽光発電を例にして解説します。

太陽光発電で発電するためには太陽光が必要です。天候が曇・雨・雪などの日照りが少ない日には、一日を通しての発電量がほぼゼロになることも現実として起きてしまいます。また、日照りが強い日には、必要な量を超えた量が発電されてしまいます。この供給の不安定さが、再生可能エネルギーにおける重要な課題のひとつなのです。

その課題を解決するためには、再生可能エネルギーの発電量が必要な量と比べて少ないときには他の発電所から電力を分けてもらう必要があり、逆に再生可能エネルギーの発電量が多いときには、どこか別の場所へ電力を逃がす必要があります。つまり、再生可能エネルギー単独では、同時同量の原則が保証されることは現実的ではありません。不安定な供給をサポートしてくれるソリューションが必要不可欠なのです。その解決策のひとつとして最近では蓄電池が注目されています。

再生可能エネルギー普及における蓄電池の役割

1859年にフランスの科学者ガストン・プランテによって世界初の再充電可能な蓄電池(鉛蓄電池)が発明されました。160年以上の歴史がある蓄電池が、現代の生活においてはスマートフォンや自動車など生活必需品に用いられており、そして、今後の数十年先の生活においても、より多方面での活躍が期待されています。

前述した再生可能エネルギーの大きな課題である自然変動性は、蓄電池によってどのように解決され得るのでしょうか。その機能は大きく分けて、①電気を蓄える②電気を供給するといった2つに分けられます。再生可能エネルギーとしての発電量が多い晴れの日には、電力需要量を超えた余剰分を蓄電池に蓄えます。そして、その蓄えられた電力を再生可能エネルギーとしての発電量が少ない曇・雨の日或いは夜間に供給することができます。

このようにして、再生可能エネルギーの大きな課題である自然変動性が蓄電池によって解決され得るのです。しかしながら、再生可能エネルギーと蓄電池の組み合わせが万全ではないことも事実です。そこにはいくつかの課題があり、次章ではその課題を解説します。

蓄電池の普及における課題

蓄電池普及における主要課題のひとつ目は経済的な負担を伴うバッテリーの劣化です。普段、スマートフォンを利用している中で、バッテリー残量の減りが早くなり、買い替えに悩んだことがある人も多いのではないでしょうか。バッテリーは一度劣化すると、元の性能に戻すことはできないため、基本的にはバッテリーを買い替える必要があります。そして、スマートフォンのバッテリーよりも物理的に遥かに大きい蓄電池は、初期投資やメンテナンス費用も相当に掛かります。

2つ目は「制御」と称される分野の課題です。電力業界において、「制御」とは電気回路の開閉を指します。例えば、照明などのスイッチのONとOFFの切り替えは、「制御」の一例です。発電所と需要家(オフィスビルや一般家庭など)との関係性においては、発電所が需要家に向けて電気を供給したり、あるいはその供給量を減らしたり増やしたりする操作が24時間365日管理されています。先述した同時同量の精度を保つ手段のひとつとして制御の精度が挙げられます。蓄電池が普及することで、この制御の複雑性が大幅に増すことが考えられます。

蓄電池が普及する前の時代においては、特定のエリアで同規模の需要量の需要家に対しては、同じ電気量を発電所から供給しておけば、同時同量が保たれている状態でした。しかしながら、各需要家が蓄電池を保有し始めたことにより、特定のエリアで同規模の需要家であっても、蓄電池の所有の有無、あるいは蓄電池の容量の大きさの違い、残量のムラなどの複数の変数が生じました。結果的に、供給側は需要家ごとに蓄電池の状態を踏まえて、個別かつ精緻に需要量を把握する必要が生じたのです。今後、蓄電池が普及すれば、その複雑性は更に増していくことが想定されています。不安定な供給として問題視されていた自然変動性を蓄電池で解決できたとしても、それだけでは同時同量が担保された安定的な電力供給は実現できないのです。

再生可能エネルギーと蓄電池の更なる普及に向けて

脱炭素社会を実現するための課題はまだまだ残っています。しかしながら、この状況を悲観的に評価するのではなく、むしろ前向きに捉えることができます。課題があるからこそ、事業機会が望めるからです。

エネルギー領域は日本だけではなく、世界中の国々が鋭意挑戦している課題です。それだけ広範囲な領域の課題だからこそ、一筋縄では解決できず、だからこそ多様な事業機会が国内外で期待されています。脱炭素社会の実現に向けたソリューションは数多く存在します。本記事が、世界規模の目標である脱炭素社会の実現に向けた取り組みを早める力になれたら幸いです。

参照

▼「バッテリー・アズ・ア・サービスの事業機会/取組事例集」▼
UPDATE
2023.03.24
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