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EVシフトに伴う新規事業開発の成功要因

EXECUTIVE SUMMARY

EVX領域における事業開発の手順や考え方のヒントについて、まずは前提として認識しておいていただきたいポイントについて触れておきます。1つは「グリーンイノベーションとイノベーションの違い」について、もう1つが「ユーザー目線」です。

技術革新の必要性

イノベーションが起こるときの1つの引き金は、技術革新です。例えば、日本でスマートフォンが急速に拡大した引き金は、2G(第2世代移動通信システム)から3Gへの移行とiPhoneの登場でした。2Gまでは世界各地で別々に技術開発が行われていたため、1台の携帯電話を世界中のどこでも使うことはできませんでした。しかも通信速度(下り)は最大64キロBPSほど。これが3Gになると国際規格に準拠することになり、世界どこでも通話できるようになっただけでなく、通信速度も3.6メガBPSへと飛躍的に高速化が進みました。

また、大容量データを高密度に記録し、高速で読み取ることを可能にしたQRコードの登場は、私たちの生活を便利に変え、今もキャッシュレス決済など身の回りのあらゆるところで利用されています。このように、イノベーションとはテックドリブンによって、誕生、急成長していくことが多いものです。

政策と行動変容の同時発生が必要

一方、グリーンイノベーションは技術革新だけではうまくいきません。なぜかというと、政策と行動変容の2つが技術革新とセットになることで初めて生まれるものだからです。

今では再エネの主力を担うようになっている太陽光発電ですが、日本で初めて発売されたのは1990年代前半にまで遡ります。しかし、導入補助金が設けられたにもかかわらず、当時は価格が非常に高く普及するというレベルには程遠い状況で、間もなく補助金も打ち切られてしまいます。2000年以降、技術革新によって生産効率と性能が向上して価格が下がっていったことで生産量は徐々に拡大していきました。

2009年に余剰電力買取制度が始まり、購入補助金が再開されたことで普及が加速し始めます。この流れをさらに後押ししたのが、2011年に発生した東日本大震災でした。原発に代わるクリーンなエネルギー源として、太陽光発電の価値が改めて世の中に認知されたことで一気に普及が進んだのです。

2022年はEV元年といわれ、2022年8月の軽自動車新車販売台数の10位に日産のサクラがEVとして初のランキングトップ10に入り、勢いのほどがうかがえます。その背景には、バッテリーの技術革新による走行距離の長距離化や生産効率向上による低価格化といった技術革新だけでなく、カーボンニュートラルに向けて国が音頭を取る形で、充電インフラ整備や技術革新に投資を行い、購入補助金制度を整えるといった政策の後押しがあることも大きいでしょう。

消費者の間にもようやく脱炭素への意識が徐々に浸透し始め、ガソリン車に比べて多少不便さがあってもEVを選ぶという人も増えてきています。ただし、ガソリン車と比べると利便性は低いといわざるを得ません。諸外国に比べてEVの普及が遅れているのは、「それでも買う」という、技術革新、政策、行動変容による一押しが足りていないのだと考えられます。

近年、注目されているVPPも技術的観点だけでみれば、実現の可能性はかなり高まっています。それなのに、実証実験止まりで社会実装にまで、なかなか進展しないのは、EVといった低圧リソースを収益化するための法整備が遅れていたり、VPPによって電力需給の安定化を図らなければならないという理解が消費者レベルにまで浸透しきれていなかったりすることが原因だと考えられます。

とはいえ、事業者側としては消費者の行動変容を悠長に待ってから事業に乗り出していては機をとらえることはできません。そのため、EVX領域で事業化を考えるときには、技術革新によってサービス化が可能だと判断し先行して取り組み始めつつも、それを後押しする政策や消費者の意識・行動が伴ってきているかを常に見極めることが非常に重要になってきます。

忘れてはいけないユーザー目線

「ユーザー目線」は、どのような事業開発においても重要であることに変わりありません。ただ、グリーンイノベーションにおいては、説明したとおり消費者の行動変容が重要なカギを握っている分、その重要性がより大きくなっているといえます。近年は気候変動に伴う自然災害が世界各地で発生しています。その様子を目の当たりにしている世の中の人たちは、カーボンニュートラルの必要性をよく理解しています。

そのため、脱炭素の取り組みは必要かと問われれば、ほとんどの人は「はい」と答えるでしょう。しかし、カーボンニュートラルに関連する商品やサービスを購入・利用するかとなると、話は違ってきます。要は、「総論賛成、各論は……」というのが、EVX領域の事業に対する一般消費者の考え方なのです。

この「各論は……」という部分が根強いからこそ、EVX領域のビジネスはマネタイズが難しく、なかなか実証段階から社会実装へと進んでいかないのだと考えています。そのため、事業開発にあたっては、ユーザー目線の解像度を上げていかなければなりません。下図の4つのポイントは、解像度を上げていくときに検討すべき重要な視点を並べたものです。

①つ目の「課題の深さ」というのは、ユーザーがお金を払ってでも解決したいと思っている課題かどうかということです。例えば、飲食店で広がりつつある紙のストローですが、仕入れの原価でいうとプラスチックストローよりも2〜5倍ほど高いといいます。それでも飲食店が紙ストローへ切り替えるのは、環境に対する企業責任やブランドイメージなどさまざまな要素を複合的に考えた結果の結論です。つまり、お金を払うかどうかは経済合理性だけが判断基準ではないということです。ただし、導入する、しないの判断基準には必ずコストも絡みます。プラスチックストローの価格より何円までなら上がっても許容するのか。これらを冷静に見極めることが大切であり、見極めるためにはユーザーのペインやニーズの解像度を上げていくしかありません。

②つ目の「課題の広さ」とは、課題の影響がどれほど広範囲に及んでいるのかを見極めるということです。特定の業界や特定のユーザーだけが抱えている課題では、あまり事業の広がりは期待できません。②と同様に事業規模の拡大や事業成長に関係してくるのが、④「課題の継続性」です。一過性のムーブメントのように時限的な課題では長続きせず、一周して解決できてしまえば終わりということになってしまいます。

また、③「課題の発生頻度」は、お金を払ってでも解決したいという思いに関わってきます。頻繁に悩まされている課題であれば、お金を払う価値があると考える可能性は高いと思いますが、年一回発生する課題であれば、ユーザーも今だけ我慢すればいいと考え、お金を払おうとは思わないからです。EVX領域における事業開発では、こういった前提をしっかり頭に入れておかないと事業設計の段階から躓いてしまう危険性があります。

UPDATE
2023.06.02
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