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企業のグロースが止まる理由-プロダクトマーケットフィットは“複数回”起こす-

 

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プロダクトマーケットフィット(以下、PMF)の達成は、成功している企業のいずれもが通ってきた道であり、起業家でこの言葉を知らない人はいないでしょう。

ご存じの方も多いとは思いますが、PMFとは、その言葉の通り“自社のプロダクトやサービスが、特定のマーケットにフィットしている状態”です。

これを読んでいる皆さんは、PMFを一度でも達成すれば、事業のグロースできると考えている方もいらっしゃるのではないでしょうか?

しかし、実際は1回のPMF達成だけでは、成長が続くことはありません。初めに思い描いたグロースプランの道半ば、どこかで必ず頭打ちになってしまうのです。

PMFを複数回繰り返すことによる、事業の継続的な成長ならびに急拡大するグロースのフェーズで必要な考え方、最大のポイントは「セールス・マーケティング・カスタマーサクセス等、企業のあらゆる営業活動に関わる方々が、“正しく”フィードバックを回し、プロダクトを常にアップデートしていくこと」です。

また、CROの担う業務として重要なRevenue Managementの観点から見ても、ROIが合わないままに、顧客開拓を進めても非効率な活動となるため、正しく旗を振り、事業成長に導くためには、必ず押さえておくべきポイントと言えます。

一度PMFを達成すれば「終わり」ではない。複数回繰り返すことによって、企業の成長を促進する

―その仕組みを今回は詳しく解説していきます!

目次


PMFとは

PMF(Product Market Fit、以下PMF)の定義としてよく用いられるのが、「顧客を満足させる最適なプロダクトを、最適な市場に提供している状態」です。

「解決する課題とその課題の最適な解決方法が見出せている状態」を示すPSF(Problem Solution Fit)の次のフェーズとして捉えられています。

そのため、顧客を満足させる最適なプロダクト自体は、PSFの検証段階でおおむね明らかになっていることを踏まえると、PMFの一番の目的は、当該プロダクトが受け入れられる最適な市場を見つけることにあります。

スタートアップにおいてPMFの達成は第1目標として掲げられますが、企業成長の観点からすると、それはグロースしていく準備の完了を意味し、レバレッジをかけていくスタートラインに立った状態であると認識するのが正しいといえます。

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なぜPMFは1回で終わらないのか

プロダクトやサービスのローンチ後に、最優先ターゲットを選定し、営業活動の試行を繰り返すことで、PMFの達成に導いていくわけですが、最優先ターゲットの選定の際に一般的に考えられる軸として、“自社の提供価値×市場の魅力度(オポチュニティ)×獲得難易度”のような形が挙げられます。

最優先ターゲットを開拓することによって得られる顧客がイノベーターやアーリーアダプターの層だということは、言わずもがなのことだと思います。

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(ボクシルマガジン “キャズム理論とは | イノベーター理論とキャズムを超える戦略を解説” より引用)

では、市場浸透度が16%を超え、“アーリーマジョリティ”以降の層の開拓に踏み出す際、同様のマーケティングミックスで効率的かつ効果的に開拓していくことがどれだけできるでしょうか。

プロダクトやサービスによっては、全く問題ないケースもあります。一方で、アーリーマジョリティやレイトマジョリティの層が、そこに位置する理由が情報感度ではなかった場合はどうでしょうか。

例えば、プロダクトの価値を感じてはいるものの、収益性がネックになり成約を獲得できないケースも往々にあると思います。その場合に、単純な価格の見直しもあり得ますし、一括購入だった販売形態にリース購入を追加して、購入形態にバリーエーションを持たせることもあるかと思います。

他にも、機能追加によって、顧客への提供価値・プロダクト購入におけるROI(投資対効果)をより高めるなど、様々な方法で“プロダクトをアップデート”して、マーケットに繰り出していくわけです。

(広義で捉えた場合のPMFですが、)他の例として完全異業種、例えばコンサルティングサービスからSaaSへの転換もその1種だと考えられます。


自社の提供価値を維持したままの状態で、コンサルティングサービスによって獲得したナレッジやノウハウをSaaS化して、新たにマーケットに投下する

これは、プロダクトのインターフェイスが変わっただけであり、“コンサルティング嫌い”等のアーリーマジョリティやレイトマジョリティ層に形を変えて進出していくことになります。

同時に、労働集約型のビジネスモデルから脱却していくことになるため、企業にとっては、非常に効果的かつ効果的にマーケットにフィットする形をとることができます。

これらのように、PMFを複数回にわたって行うことで、自社の商品やサービスをより広く普及させ、事業成長、ひいては企業成長をもたらします。
逆を返すと、PMFを1回のみ達成して、そのまま走り続けてしまうと、いずれどこかのタイミングで頭打ちになってしまう可能性があるのです。

実際に弊社が行った調査では、アーリーアダプター、アーリーマジョリティ、レイトマジョリティのそれぞれの層が商品購入時に重視することが異なることが分かっています。

具体的には、アーリーアダプターは「機能」「新規性」を重視するのに対して、アーリーマジョリティは「他社比較」「機能」を重視し、レイトマジョリティは「他社比較」「導入実績」を重視するという形で、明らかな違いがあります。

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(リブ・コンサルティング “2018年度4月度定期アンケート” より抜粋)

これが、PMFが1回で終わらない理由です。

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事例紹介:Smart News

ここまでに書いた通り、イノベーター理論に則って考えると、PMFは複数回必要です。
実際にそれを体現し、成長を遂げた企業/プロダクトについて、イメージがしやすいように身近な例を挙げてご紹介します。

例えば、プロダクトのアップデートによって、PMFを複数回実施した事例としては、スマートニュース株式会社の「SmartNews」が挙げられます。
もう、この時点で、「言われてみればそうかも…」とお気づきになった方もいらっしゃるかもしれません。

この記事を読まれている方でしたら、ご存じのプロダクトかと思いますが、ここでも簡単にご説明しておきます。

スマートニュース社は“世界中の良質な情報を必要な人に送り届ける”とミッションとし、“朝1分で世界のニュースをチェック”をキャッチコピーとした「SmartNews」を世に輩出しました。

「SmartNews」の主な特徴として、読みやすさ・便利さ・手軽さが挙げられますが、特に、オフライン(圏外)でもニュースを読めることが最大の利点と言えます。

他にもチャンネルのカスタマイズや、その時々の時世に合わせ、誰もが関心を示す話題のタブ(最近では、“新型コロナウイルス”のタブなど)が作成させるなど、そのカスタマイズ例は挙げはじめるとキリがないほどです。

現在では認知度も非常に高く、多くの方が愛用するアプリケーションですが、ローンチされた時からの大きなアップデートとしては、①日米ニュースの閲覧、➁クーポンの配布開始が挙げられます。

①日米ニュースの閲覧

様々なニュース閲覧アプリケーションがリリースされている中で、2014年10月に日米のニュースを切り替えて閲覧することができる機能が追加されました。

これは、主にアメリカ市場の開拓に向けたリリースだと捉えていますが、日本の市場においては、アーリーアダプター開拓の観点で、当時、日米のニュースを切り替えて閲覧できるアプリはほとんどありませんでした。

そのため、新規性の観点で非常に勝っていたと捉えることができます。その結果として、2014年10月のリリース以降、ダウンロード数の成長角度が明らかに変化しています。

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(スマートニュースプレスリリース “SmartNews(スマートニュース)、4,000万ダウンロードを突破” より引用)

➁クーポンの配布開始

ここで先の図をもう一度見ると、2018年にもダウンロード数の成長角度が変化していることが伺えます。この付近のタイミングでリリースされたのが、クーポンの配布開始です。(正確には2018年3月にクーポンチャンネルがリリースされました。)

幾多の競合ニュースアプリが存在する中で、クーポンチャンネルのリリースは“新規性”によるアーリーアダプター向けではなく、“他社比較”軸で優劣を判断する傾向にあるアーリーマジョリティ開拓に向けた取組だと捉えられるのではないでしょうか。

また直近(2019年のプレスリリース時点)では、4,000万ダウンロードを突破し、レイトマジョリティの関心事である“導入実績”も満たしているとも見ることができます。

このように「SmartNews」は開拓すべき顧客層に合わせて、プロダクトのアップデートを行い、複数回のPMFを成し遂げた成功事例だと言えるでしょう。

まとめ


■「PMFを複数回繰り返す」の概要まとめ

・PMFを1回達成するだけでは、開拓できる顧客は限られている

・PMFを複数回行うことが、事業のグロースを可能にする

・複数回のPMFを正しく行うためには、自社が開拓する顧客のニーズやトレンドを正しく捉えることが重要である


上記のまとめにもありますが、スタートアップ/ベンチャーにとって、PMFはプロダクトローンチ後の大きな壁として立ちはだかります。

それは、事業グロースの観点から見ると、1つ目の通過点であり、その先、複数のPMFを実現することによって、自社のプロダクトを広く普及させることが可能になるでしょう。

PMFが複数回必要であることを認識し、正しく顧客を理解し続けることが非常に重要であり、それなくしてグロースしきることは非常に困難です。
複数回のPMFを自社の事業ステージに合わせて、ディレクションできる人、それが、CRO(Chief Revenue Officer)です。

今回の内容を踏まえ、PMFを複数回繰り返すためにどのように事業転換を行うのか、事業開発とはどのようなポイントを踏まえて推進していくべきなのかというテーマについても別記事で公開していこうと思います。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

■参考書籍・記事
・イノベーター理論;1962年、米スタンフォード大学のエベレット・M・ロジャーズ教授が『イノベーション普及学』という著書のなかで提唱した、新しい発想や技術をもとに登場した商品やサービスなどの市場不急に関する理論

・ボクシルマガジン “キャズム理論とは | イノベーター理論とキャズムを超える戦略を解説”
・リブ・コンサルティング、2018年4月度定期アンケート
・SmartNews(スマートニュース)

 

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