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EV新規事業開発におけるアイデア創出の極意

EXECUTIVE SUMMARY

事業開発で大事なのは「誰にも思いつかなかったアイデアを“発想”すること」ではなく、「まだ解決されていない社会課題を“発見”すること」だということです。新規事業開発で重要なのは、数多くある課題の中で自社が向き合うべき課題領域はどこなのか、どのような課題を自社は解決すべきなのか。その点を明確にしたうえで、なぜ課題が解決されないままなのかを考えることです。

課題を具体化することで、解決の糸口につながる

それでは、より具体的に新規事業のアイデアを見出すまでの手順を、フレームワークを使って説明していきます。

新規事業創出のステップ

上部にある「パーパス・自社のMVV」のMVVとはミッション・ビジョン・バリューのことです。「新規事業の意義」には、事業の方向性を記入します。この軸をブラさないように「自社のアセットの強み」と「向き合うべき市場の課題」から埋めていきます。

具体的なサービスを例に説明したほうがわかりやすいと思いますので、中国のBaaSモデルの電池交換ステーションを展開しているNIOの「パワースワップ」をモデルに、その事業アイデア創出までのステップを想像して記入していきたいと思います。

まずはアセットの棚卸しによって見出したバリューカプセルと市場分析から見えてきた市場課題を「1.自社のアセットや強み」と「2.向き合うべき市場の課題」に書き出してみます。NIOは中国新興EVメーカーの御三家と呼ばれており、自社のアセットや強みは豊富に考えられます。ここではバリューカプセルまでの細かいレベルまでではなく、バリューチェーンレベルでの記載とします。既存事業のバリューチェーンと商品・ブランドという切り口で考えれば、EV自体の開発力や生産力、中国に留まらずグローバルに展開しているR&Dや業界を超えた幅広いネットワークも活用できるはずです。

一方、向き合うべき市場の課題については、発想するのではなく発見する意識で、市場調査に基づくデータや各種分析結果、顧客インタビュー、フィールドワークなどによってつかんだ課題を書き出していきます。

例えば、中国においては国の政策も後押しし、EVの急激な普及によって充電スタンドでの待ち時間を要してしまったり、どうしても長距離の旅行や出張などの場合、航続距離への不安を感じてしまっている人たちが存在しています。さらには国からの補助金は出るものの、EVの購入金額を抑えたいといった声も無視することはできないと思います。

こうして課題を一通り書き出したら、仮想の人物=ペルソナを想定して課題をより具体化していきます。例えば、本当はEVを購入したいけれども、充電に時間を要することが煩わしくて購入するのに躊躇している人であったり、土日はいつも泊りで遠くまで旅行にでかけるけど途中で航続距離をちらちら気にせずに乗りたい人などがざっくりとイメージできるかと思います。そうしたように考えを深めていきながら課題を具体化することで、事業の「WHOとWHAT」を固めていきます。

新規事業創出の具体例

オープンイノベーションでアイデアに幅を出す

WHOとWHATが明確になれば、自社のアセットや強みと組み合わせることで、新規事業のアイデアも具体化していくことができるようになります。今までの自社のアセットや強み、向き合うべき市場の課題、課題の具体化を踏まえると、充電というやり方では根本的な解決が厳しく、バッテリー自体を交換する「パワースワップ」というモデルでならば、約3分で空のバッテリーを満充電済みのバッテリーに交換ができ、快適なEVカーライフを楽しむことができます。しかもその支払いモデルとして、サブスクリプション型のモデルを採用すれば、EVの購入金額を抑えたい人のニーズにも合致することができます。といったように、思考を転がしていくことで、新規事業のアイデアにたどり着くことができます。

新規事業のアイデアを考えるときのポイントがあるとすれば、それは自前主義で考えるのではなく、オープンイノベーションで発想することです。EVX市場は市場規模が大きく、かつ新しい市場であるため、自社だけで事業を抱え込むことには無理があります。グループ会社はもとより、同業他社や異業種、大学、ベンチャーやスタートアップまで、互いに不足しているアセットを補完し合えるパートナーを模索しながら事業を検討すれば、アイデアの幅を広げることができます。また、EVXの領域は今回のNIOの事例のように海外の方がサービスの社会実装が進んでいる状況にありますので、海外の先行事例を参考にしつつ、日本・自社においてどのような展開が可能かどうか適切に判断することが求められます。

新規事業のアイデアが出たからといって、そこでアイデアのブラッシュアップをやめてしまってはいけません。発想したアイデアが自分だけのものだと驕ることなく、自らアイデアの粗探しをするつもりで、事業の独自性や自社がやるべき理由を明確にしていく必要があります。その点を検討するのが、図の右下にある「課題の事業機会化」です。なぜ、充電スタンドではユーザーは満足できないのか。本当に今後も課題として残り続けるのか。または気づいていないだけで実は代替サービスが存在しているのではないか。自社だからこそ課題を解決できる理由はあるのか=明確な競合優位性があるのかという点を突き詰めていきましょう。ここで気づいた自社の優位性や独自性をアイデアに落とし込むことで、新規事業の精度をさらに高めていくことができます。

ここまで読んだ方で事業開発の経験もある方は、「こんな簡単に新規事業のアイデアまで到達できるわけがない」と思うことかと思います。それはおっしゃるとおりで、実際には自社のアセットや強みの部分をバリューカプセル単位にまで落とし込んでいったり、課題の具体化の部分も実際の一次情報に触れて詳細にペルソナ設定をしていくことが必要になります。あくまでも、この例はNIOの「パワースワップ」というすでに存在しているビジネスをモデルに、後から思考の手順を簡潔に想定して当てはめているだけになります。

実際は、次のような問いを自分やプロジェクトメンバーに投げかけながら、フレームワークの①〜④を繰り返し、何度も何度も練り直すことで、独自の新規事業アイデアを形にしていくことになります。

  • 顧客のどのような課題を解決しようとしているのか?
  • 顧客はどの課題を解決してほしいと考えているのか?
  • 提供価値をもっとも理解してくれる顧客は誰か?
  • 顧客はすでに代替手段で満足しているのではないか?
  • どこに不満な点があるのか?
  • 対象顧客にどのような価値を伝えていくか?

新規事業というと華やかなイメージがありますが、実際の裏側で愚直な仮説検証を繰り返し、新規事業のアイデアをブラッシュアップしていく根気強さも大事になります。

UPDATE
2023.06.02
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