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【LiB Mobility経営 vol.15】
地域に選ばれ続ける
次代のカーディーラー経営とは

EXECUTIVE SUMMARY

トヨタカローラ香川は、社員数200名超、拠点数9店舗を持つ。1966年の設立以来、地元に根ざした事業展開を行い、地域のファンを獲得してきた。近年は、その盤石な基盤に甘んじることなく、整備の出張サービスや、車以外のモビリティ提供など新たな取り組みにも積極的に挑戦。中長期ビジョン「フライトプラン」を掲げて従来型のカーディーラー事業モデルを進化させている。ビジョン策定の背景と狙いについて話を伺った。

地域の「生涯顧客」のために業界の先駆者になる

LiB トヨタカローラ香川様では、中長期ビジョン「フライトプラン」を策定し、従来のディーラー業務とは違う新しい取り組みをスタートしています。まずはフライトプラン策定に至った経緯について教えてください。


<左から>トヨタカローラ香川株式会社
代表取締役社長 向井 良太郎 氏
総合営業推進部 (フロア・サービス担当 兼 輸入車事業担当)
副部長 因藤 明央 氏
EV・エネルギー事業室室長 特販事業部 リース課 マネージャー 坂西 哲郎 氏

向井良太郎氏(以下、敬称略) 自動車業界全体はCASE、MaaSなどを含む変化によって「100年に一度の大変革」と言われるようになりました。当社を含むトヨタディーラーは2020年から全車併売化となり、会社を取り巻く環境が大きく変化しています。その状況を見た時に、今のディーラー事業の延長線上では我々の事業は厳しくなっていくだろうと考えていました。そこで、今後様々な事業へのチャレンジが必要な中で組織としての一貫性をどう確立するか、人材育成をどうするかという2つに重点をおいて、新しいビジョン策定に至りました。

LiB フライトプランが今後の事業活動の一貫性を示す軸となったわけですね。
向井 はい。一貫性を示す文言としては企業理念がありましたが、理念があり、その内容も何となく知っているけど具体的に何をするかがよく分からない、というような位置づけになっているのではないかと思い、LiBさんと一緒にミッションを考えることになりました。ミッションを考え、ミッション実現のために大事なバリューとスタイルを考えて、この3つ(MVS)を明確にすることで、これから展開していく戦略的な土台にしようと考えたのです。

LiB MVSを明確にしたことでどのような変化が起きましたか。
向井 我々が本当にやりたいことは何だろうと考えるきっかけになりました。事業の地場である香川県でカーライフを楽しんでいただくためには、車の販売と整備に止まらず、生涯のお付き合いをしていくことが大事です。また、生涯顧客を増やしていくためには今の状態ではオプションが足りません。2030年を見据え、カーディーラーである我々のミッションをスタートポイントとして考えて、その青写真がフライトプランに通じています。

LiB カーディーラー業界の未来予測は不確定要素が数多くあります。その中で重視したポイントはどんなことでしたか。
向井 業態については、今後は車の販売と整備だけでなく、CASE、MaaS、エネルギーなどを含む新しい業態へと変化していくと思っています。また、マーケットのエリアも変わると思っています。当社は香川県が地場ですが、その中だけで商売ができると想定するのはリスクですし、業界絵図が変化していく中では、四国全体や中国地方全体の中で当社のポジションをどうするかを考える必要があると思いました。

LiB 具体的にはどんなポジションをイメージしているのでしょうか。
向井 トヨタ系ディーラーが変化していく中では、その変化についていくだけでなく、先導する立場になっていかないと存在価値のあるディーラーにはなれないと思いますし、そこに危機感も持っています。一方で、我々には志があります。我々の事業は香川県のお客さまに支えられ、地域に根付いていますので、地域の移動を支え、地域の課題を解決する存在になりたいと考えています。また、トヨタがアジャイルで積極的に変革に取り組む中で、最前線でお客さまと接している我々は、新しい事業モデルや新しい車の乗り方を提案する役割を果たし、トヨタグループにとっての先駆者になりたいと考えています。

移動手段より目的地がないことが課題

LiB 地域の移動課題という点で注目しているのはどんなことですか。

向井 LiBさんの協力を得て四国在住者1,000人に困り事を聞くアンケートを行いました。我々は「移動手段が少ないこと」が課題の1位に挙がるだろうと予想していたのですが、実際には「行きたいところがない」が1位でした。つまり、目的地に行く手段ではなく目的地そのものが足りていないということです。これは移動を売っている我々としては衝撃的で、目的地の設定や目的地への移動を楽しむといった付加価値を創出していかなければならないと理解しました。

LiB 高齢化社会においては手段としての移動も引き続き重要ですね。

向井 そう思います。地方においては車移動ができない人は移動弱者であり、生活弱者にもなります。移動できない人生はつまらなくなってしまいますし、そういう人を増やしたくないという思いがあります。そこで、移動する手段と目的という二軸で、観光に目を向けました。四国は観光資源が多く、世界的なガイドブックにも掲載されています。よく知られたところではお遍路巡りがありますし、最近は、3年に1度、瀬戸内海の12の島で開催される瀬戸内国際芸術祭も有名になりました。このような観光資源を、観光客の移動を快適にするという観点で支えることで地域経済も観光需要も活性化できるのではないかと考えたのです。

現地、現物でたどり着いたソリューション

LiB 観光モビリティの実現に向けて、現場ではどのように取り組んだのでしょうか。

因藤明央氏(以下、敬称略) 私は過去に芸術祭に出かけたことがあり、バスや自転車はあるのですが、乗れないことも多く、歩くことが多かったと感じました。その経験から、小型モビリティの提供などを手伝えたらいいという思いがあり、そういうワクワク感を持って実証実験としてスタートしました。

LiB どのようなモビリティを想定したのですか。

因藤 当初はキックボードを持って行き、現地・現物で実際に自分たちで使ってみました。その結果、パワーが足りなかったり荷物が運べないといった問題が見えてきます。それを踏まえ、その後もいろいろなモビリティを試しながら情報を集め、最終的に三輪EVにたどり着きました。

LiB 新規事業に対する社内の反応はいかがでしたか。

坂西哲郎氏(以下、敬称略) 社員向けに参加スタッフを募集したところ、当初は「手が挙がらなかったらどうしよう」という不安があったのですが、思っていた以上の応募がありました。動機を聞いてみると、将来に向けて新しいことに取り組もうとしていることを知り、自分も参加したいと答えたスタッフもたくさんいました。その考えに共感してくれたことが嬉しかったですし、だからこそ、社員が「ここで働いて良かった」と感じられる事業にしたいと思っています。また、実証実験に漕ぎ着けるためには現地調査、営業活動、各種スケジュールの管理をする必要があり、この部分はLiBさんに段取りしてもらわなければ当社単体ではできなかっただろうと思っています。

社会的意義と企業価値の向上を両立する

LiB フライトプラン以降、出張整備事業もスタートしています。

向井 我々はカーディーラーですので整備の重要性や意義がわかっていますし、生涯顧客を掲げるからにはお客さまの安全性もきちんと担保していく必要があります。ただ、お客さまにとっての整備や定期点検は、面倒で、お金がかり、時間がかかるものといった認識があります。つまり、整備はウォンツではなくてマストになっているのです。飲食店を中心に世の中全体がデリバリーサービスが普及している中、カーディーラーは来店型で入庫を待ちます。お客さまに時間とガソリンを使って来店してもらっています。これは今の時代に合わなくなっているのではないかと考え、出張整備という案にたどり着きました。

LiB 整備のために出向くと出張コストや効率化が課題になりそうですね。

向井 そうですね。事業として成立させるためにはコストの問題を解決する必要があります。そこで我々が考えたのが法人の通勤車両を対象とする事業です。お客さまにとっては、我々が点検する間は仕事時間中ですので、通勤用の車は眠っているのと同じ。手間なく時間のロスもなく自分の車を点検することができます。また、我々はこのサービスを福利厚生として展開することを考えています。会社は社員の安全を守ることができ、社員は安心して車に乗れるようになり、我々は整備需要を獲得でき、それぞれにとってメリットがあります。香川はそもそも47都道府県の中で事故が多い県ですので、このサービスを県内の企業に広め、整備不良による事故を減らしていくことにより、県全体で交通安全水準を高めていくことができます。また、LINE経由で聞きたいことや知りたいことをやりとりできる仕組みを作り、整備結果表もLINEで提供できるようにすることで、簡易的で分かりやすいサービスにして、そもそもの課題である点検や整備が面倒と感じる人にも対応することができます。


LiB 今後の目指す姿について教えてください。

坂西 少人数で出せるアイデアには限界があります。スタッフを巻き込みながら、全員参加で取り組んでいく環境を作っていくことが大事です。社内の次は社外にも目を向けて、県、四国、中国地方へと広げていけるような事業にしていきたいですね。

因藤 10年先、20年先を見据えて、新しいことにチャレンジできる会社でありたいと思っています。そういう会社にこそ人が集まりますし、お客さまも利用したいと思ってくれます。私は地元である香川が好きですから、県内や近隣の異業種、同業種の会社とつながりを作り、切磋琢磨しながら地域を住みよくしたいと思っています。

向井 フライトプランは我々の目指す姿を周囲の企業に向けて発信する機会となりました。その結果、例えば、地域MaaSについて相談を受けたり、モビリティ関連の新規事業ならまず当社に話をしてみようといった流れができてきましたし、実際、すでにいろいろな話を受けています。この立場を進化させて、地域におけるモビリティのハブ機能を充実させていきたいと思っています。また、観光モビリティについては、実証実験のステージから事業化に進め、収益を獲得できるサステナブルな事業にしていくことが重要です。この取り組みをパッケージ化できれば、全国津々浦々にある観光地にも展開可能です。シェアリングプラットフォームが当たり前になっていく時代だからこそ、中長期で収益が得られる事業モデルを固めたいと考えています。

LiB  ありがとうございました。

UPDATE
2022.08.09
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