2023.07.04

BCM(事業継続マネジメント)とは

BCM(Business Continuity Management、事業継続マネジメント)とは、災害による緊急時でも事業を継続するためのマネジメントを意味します。近年は地震や水害のほか、新型コロナウイルス感染症の影響からBCMに着手や強化、見直しする企業が増加しました。

BCMは世界的にさまざまな定義がありますが、日本ではBCMよりもBCP(事業継続計画)が注目されている傾向があります。計画書の策定はできていても運用まで行き届いていないケースが多い傾向にあるため、まずはBCMとは何かを正しく理解することが重要です。

BCM(事業継続マネジメント)とは

BCM(Business Continuity Management、事業継続マネジメント)とは災害といった緊急時でも事業を継続するためのマネジメントです。具体的には、災害時における事業継続に関する方針の取り決めや事業影響度分析とその対策、事業継続計画の策定、検証という流れで継続的に運用していく包括的な枠組みを意味します。

緊急時を想定し、万が一のときでも被害を最小限に抑えるため、BCMのような包括的な枠組みをつくり、社内に根付かせることが重要です。また、BCMを実施する際は、社内だけでなく、取引先に対しても実効性を高める運用が必要です。

BCPとの違い

BCP(Business continuity Plan、事業継続計画)とはBCMでおこなうサイクルの一環であり、緊急時の事業継続計画を策定する部分です。あらかじめBCMでおこなった事業影響度分析をもとに策定し、緊急時の初動マニュアルや復旧マニュアルなどを策定します。

2024年4月より、介護事業者にはBCP策定が義務付けられ、厚生労働省にアクセスすると研修の動画などが公開されています。政府も介護事業者に対してサポートや後押ししている状況です。

具体的には避難場所や経路、二次災害の防止の取り決め、緊急時でも使用できるツールの選定など、万が一に備えた計画を明記します。BCPを策定している企業は多くありますが、大半が運用まで至っていないというケースが現状です。

参考:介護施設・事業所における業務継続計画(BCP)作成支援に関する研修(厚生労働省)

BCMの目的と重要性

BCMの目的は災害の緊急時でも事業を継続させることです。BCMの実施を社内で周知されていなかったり、時間経過とともに忘れてしまったりするようでは意味がないため、BCPで策定した計画をBCMでしっかり社内全体に落とし込む必要があります。

大地震で一部の地域が被災すると全国的な生産が止まってしまうという事態も起こり得るなか、企業としての信頼を失わないためにも社内でBCMを構築しておくことは重要です。

BCMを実施するメリット

BCMを実施するメリットは次のとおりです。

  1. 緊急時の対応能力向上
  2. 倒産リスクの軽減

緊急時の対応能力向上

BCMを実施するメリットは、社内での訓練や教育によって従業員1人ひとりが災害に対しての意識が高まり、災害時の対応能力が向上する点です。BCMでは書面上のマニュアルを読むだけではなく、実際に訓練や教育を受けることによって災害時における知識や行動が身に付きます。

また、災害から身を守れる環境づくりから従業員が安心して働けるという点も大きなメリットです。加えて、リアルな体験は印象に残りやすいため、BCMに取り組んでいる企業とそうでない企業とでは事後にも大きな差が出ます。

倒産リスクの軽減

BCMを実施することにより倒産リスクの軽減につながります。災害で事業停止を余儀なくされた場合、期間が長くなるほど企業にとっての損失は大きく、災害を機に倒産に追い込まれる可能性も考えなければなりません。しかし、BCMに取り組んでいる企業では、たとえ事業停止になったとしても早期復旧が可能であるため、倒産や事業縮小といったリスクを軽減できます。

BCMを実施する手順

BCMの効果的な実施手順は次のとおりです。

  1. 基本方針の策定
  2. 影響度の分析
  3. 対策の検討
  4. 事業継続計画(BCP)の策定
  5. 社内周知
  6. 見直しと改善

基本方針の策定

まずは災害時における基本方針の策定です。もっとも優先すべきは人命ですが、BCMの目的である事業継続や早期復旧を目指すには企業の特性に合わせて中核となる業務にも優先順位を付ける必要があります。ほかにも、二次災害の防止や地域貢献なども多くの企業が挙げている基本方針です。

影響度の分析

基本方針の策定後、災害などによって自社がどのような被害を受けるのかを考えます。地震や水害以外にも感染症やサイバーテロなど、あらゆる事態を想定し、被害規模や内部・外部取引先などへの影響を分析し、事前に把握しておくことが重要です。分析結果から事業を継続するにはどのような対策が必要であるかが見えやすくなります。

対策の検討

影響度を把握したあとは優先度に応じて必要となる対策を検討します。重要なデータ、部品や機器のバックアップ体制の構築、緊急時でも利用可能なツールや代替機器の選定など、あらゆる災害の緊急時でも高い適応力を備えておくことが重要です。ここでしっかり対策を整えておくことで、いざという時に迅速な対応を取れます。

事業継続計画(BCP)の策定

対策の検討にもとづき、初動から復旧まで、詳細なマニュアルの策定をおこないます。BCP策定では、災害時の発動基準や体制、対応の手順などを明記しますが、適切なBCMを実現するためにもっとも重要なポイントです。

災害時でも途切れさせてはいけない業務を明確にするとともに、後回しにしてもいい業務にも目を付け、メリハリのある計画を立てます。また、BCPを策定する際は、緊急時に迅速な行動が取れるように訓練計画の取り決めもおこなうことが大切です。

社内周知

計画を策定したら社内周知を徹底します。書面でのマニュアルを読み上げるだけでは万が一の際に実行できない可能性が高いため、実際に訓練などをして意識や行動を身に付けさせることが重要です。BCMを社内へ組み込み、従業員1人ひとりの意識を高めていきます。

見直しと改善

BCMサイクルを回したあとは必ず見直しと改善をおこなってください。近年、新型コロナ感染症によって大きく環境が変化しましたが、想定外の事態でも事業を継続させるために定期的にマニュアルを見直し、課題を見つけたら改善していくことが重要です。見直しと改善をおこなったあとは、再び試験や演習をおこない、抜けや漏れがないかしっかり検証します。

BCMを実施する際のポイント

BCMを実施する際のポイントは次のとおりです。

  1. 経営者が率先して取り組む
  2. 企業の特性に合わせる
  3. アップデートが必須

経営者が率先して取り組む

緊急時は事業継続に関わる意思決定が必要になる場面が想定されるため、BCMの実施には経営者の率先した取り組みが重要です。経営者が率先して取り組むことで従業員の理解や協力も得られやすくなるため、BCMを社内全体に根付かせることができます。BCMをスムーズに実施するためにも、経営者だけでなく、緊急時に備えて組織が一丸となって取り組むべきです。

企業の特性に合わせる

BCMは企業の特性に合わせて実施することが重要です。特にBCPの策定においては、最初からあまりにもレベルの高い計画書を作成してしまうと運用がむずかしく頓挫する可能性があります。あくまで継続的に運用していくことを考え、BCMのサイクルを回しながらフェーズに合わせて少しずつレベルアップしていくことが大切です。

アップデートが必須

BCMの実施において、定期的なアップデートは必須です。BCMのサイクルを一度回しただけでは抜け漏れが多く予想されるため十分とはいえません。BCP策定のためにプロジェクトを発足する企業もありますが、完了したら解散では意味がないため、運用につなげて継続的に実施していく必要があります。また、内部や外部環境の変化によりBCPは時間経過とともに劣化し、使えないBCPへとなっていくため、定期的な見直しや改善が必要です。

まとめ

BCMとは災害などの緊急時でも事業が継続できるようマネジメントすることです。業種によっては事業停止が社会全体に大きな影響を及ぼし、築き上げてきた信頼を失ってしまう可能性もあるため注意が必要です。

信頼を失い、企業に大きな損失が生まれる事態を避けるためにも経営者から現場の従業員まで一丸となる必要があり、BCMによって土台を構築して、BCPの策定や訓練、見直しと改善を繰り返し継続的に運用することが重要です。

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