2022.09.08

教育現場のデジタルトランスフォーメーション

デジタルトランスフォーメーションとは、さまざまな分野や場面でデジタル技術を取り入れて生活をより良いものへと変化させることです。

コロナウイルス感染症の流行をきっかけに、先進国でデジタル化の発展が遅れていた日本でも、あらゆる場所で活用され始めました。特に教育の現場では、昔ながらのやり方が引き継がれ非効率的な業務により長時間労働の原因となっています。

教育デジタルトランスフォーメーション

教育現場におけるデジタルトランスフォーメーションは、書類や教材を「デジタル化」するだけではありません。もちろん、保護者へ配布するプリント類や生徒が使用する教材、業務に関する書類などをデータやタブレットへ移行させることも教育DXの第一歩といえます。

しかしながら、形だけのデジタル化は根本的な環境の変化・変革とはいえません。デジタル技術やIT技術を活用し、デジタル化したからこそおこなえる教育・学習を実施することこそ、本来の教育デジタルトランスフォーメーションなのです。

学校教育でデジタルトランスフォーメーションが広がる背景

先進国として分類される日本ですが、他国と比べるとデジタル化が遅れているといわれています。とくに教育の現場においては、生徒は数十年前から変わらず毎日重い教科書を持ち歩き、教職員は効率の悪い業務に縛られ続けているといっても過言ではありません。

しかし、コロナウイルス感染症の流行により発令された緊急事態宣言にともない、さまざまな場面で急速にデジタル化が進みました。感染を防ぐため登校できない状況になったことで、否応なしにデジタル化の導入を迫られたのです。

教育現場でのデジタルトランスフォーメーションのメリット

教育現場でDXを導入するメリットは次の5つです。

  1. 生徒ごとの各データ管理・分析がおこないやすい
  2. 教師の知識不足を補える
  3. 教師側の労働時間の短縮・業務効率化
  4. 自宅・病室からの遠隔授業の実現
  5. 生徒の教材・荷物の軽量化

生徒ごとの各データ管理・分析がおこないやすい

生徒の家庭環境や連絡先は、非常に重要な個人情報のひとつです。現在もペーパーで物理的に管理しているところが多く、生徒数が多ければ多いほどかさばり管理に手間がかかります。

しかし、生徒の情報はこれだけにとどまらず、各教科の出席状況や成績の管理も重要です。小学校から中学校、高校と履修する教科は増え、生徒ごとに受ける授業も異なります。こうした膨大で複雑な情報をデジタル化して管理することで、必要なときに素早く探し出せるだけでなくセキュリティ面においても強化できます。また、各情報の変更や追加が必要となった際には、ペーパーよりもデータ管理である方がスムーズに手が加えられます。

教師の知識・理解不足を補える

小学校では教科のすべてを担任が担当しますが、中学・高校と教育の現場が上がるほど、生徒が関わる教職員は増えていきます。担任といっても、担当外の教科における授業の理解度や成績を細かく把握するのは大変です。

しかし、教科ごとの状況をデジタル化することで担当外教科の様子を理解しやすくなります。教科ごとの出席状況や授業態度、成績の推移を各教科担当が記録することで担任教師は生徒に対しトータル的な指導がおこなえます。

また、学年が上がり担任が変わる際、生徒の個性や家庭環境といった情報の引き継ぎが的確におこなえるのもメリットのひとつです。

教師側の労働時間の短縮・業務効率化

日本社会全体では、デジタル化が進んでいるともいえますが、教育現場においては他業界と比べても圧倒的に後れをとっています。学校は長く在籍しているベテラン教職員が多く全体的な年齢層も高いことや閉鎖的な空間であることから、新しいツールや新しいやり方を取り入れる機会が多くありません。

授業の準備や生徒と向き合う時間よりも、事務作業に時間と手間を取られていることから、長らく問題視されている教職員の長時間労働の原因となっています。デジタルトランスフォーメーションを導入することで、定型的でパターン化している作業は簡素化できます。細かな作業をデジタル化できると、作業効率は向上し教師にかかる負担も軽減できるのです。

自宅・病室からの遠隔授業の実現

コロナウイルス感染症により、世界的にオンライン授業が普及しました。緊急事態宣言の解除とともに登校も再開されましたが、この出来事をきっかけに教室の外からでも授業を受けられる遠隔授業が実現しました。

生徒のなかには、さまざまな事情で教室に通えない子供が多くいます。遠隔授業を活用して自宅や病室で授業が受けられる体制や環境が整えられれば、多くの子供とその家族の助けになります。

教材・荷物の軽量化

昨今、通学時の荷物量に注目が集まっています。とくに小学生においては、ランドセル自体の重さを含めると最大で6kgほどの重さです。私たち大人の通勤時の荷物量がおよそ4kgであることから、身体の小さな子供たちが抱えるには相当な負担であることが分かります。なおかつ、教科書や資料集のボリュームが年々増えていることもあり、昔と比べて小学生の荷物量は増え続けているのです。

そこで大きく活躍するのが、教科書をはじめとした教材のデジタル化です。全教科分の教科書をタブレットひとつにまとめられれば、負担を大きく軽減できます。

教材をデジタル化するメリットはこれだけではありません。紙の教科書では不可能な動画教材も取り入れられます。動画を取り入れることで授業に対する理解度の向上に期待できるほか、テストのデジタル化によりAIを活用した生徒ごとの課題や出題、自動採点も可能です。

教育デジタルトランスフォーメーション導入の具体例

教科書・ノート・課題等のタブレット化

生徒の荷物量軽減をはじめとした、さまざまな場面で活かされるのが教材のデジタル化およびタブレット化です。教科ごとに必要となる教科書やノート、資料集をタブレット端末にまとめることで荷物量の軽減に役立ちます。また、タブレット端末があれば授業を受けられるため、忘れ物の機会も減らせます。

毎日の課題や宿題をタブレットで配布し提出できると、教師側の管理や分析も円滑におこなえて負担軽減にも繋がるのです。

WEBカメラ導入による遠隔授業

WEBカメラを導入により、教室の外でも授業を受けられる遠隔授業が可能になりました。WEBカメラを使った授業自体は、外部交流など特別な授業で取り入れられていましたが、今後、通常授業での活用も期待されています。

遠隔授業が一般的になれば、教室での授業に抵抗のある子供や病気・怪我で入院している子供がほかの生徒と同じ授業を受けられます。また、台風や大雨の多い日本で登校が困難な際に、カメラを通して様子を確認したり自宅で授業を受けたりすることも難しいことではありません。

AIによるデータ分析・課題作成

これまで、学校での課題は生徒全員が同じ内容のものでした。しかし、教育の現場にデジタルトランスフォーメーションを取り入れることで、AIを駆使したデータ分析が可能になります。

これは、教材やテストをデジタル化することで、生徒の理解度やレベルに合わせた課題作成が実現できるということです。苦手な教科や問題は生徒によって異なります。それどころか、教科書を読めば理解できる子供もいれば画像や図で理解できる子供など、そのタイプはさまざまです。

タブレット端末でテストを出題できれば、AIがつまずく箇所を判断し教科書の該当ページを提案や克服に向けた課題作成が可能です。自動採点により教師側の負担を軽減できるほか、蓄積されたデータをもとに成績管理や進路指導にも活かせます。

まとめ

教育の現場にもデジタルトランスフォーメーションが求められる時代です。ただし、デジタル化やAI化がすべてではありません。これまで築かれてきた学校の歴史やベテラン教職員のノウハウは貴重なものであり、これからも必要とされ続けます。

「ブラック公務員」とも揶揄され人手不足が加速している教職員ですが、歴史を尊重しデジタルトランスフォーメーションを取り入れることで厳しい労働環境は必ず改善され、質の良い教育が期待できます。

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