2025.10.06

AI活用で実現した新規事業創出の圧倒的な効率化とスピードアップ――東急建設株式会社

東急建設株式会社

1946年創業。東急グループの総合建設会社として、建築と土木事業を手がけ、東急電鉄沿線の都市開発にも従事している。2021年に掲げた長期経営計画「VISION2030」のテーマは、「0へ挑み、0から挑み、環境と感動を未来へ建て続ける」。この言葉のもと、3つの提供価値(脱炭素、廃棄物ゼロ、防災・減災)にもとづく事業開発を推進している。

お話を伺った方
価値創造推進室 イノベーション推進部 
部長 藤田 耕一様
課長 関本 良平様
課長代理 重田 英行様

EXECUTIVE SUMMARY

  1. 東急建設は「第3の収益の柱となる新規事業の創出」をミッションに掲げ、「再エネ事業」で事業化と収益化に成功し、今後は数百億円規模の追加投資も決定されている。一方で、ゼロからイチを生み出すプロセスにおいては、アイデアが既存事業の延長線上に留まりがちであるほか、経営層から求められる「妥当な新規事業企画を生み出し、事業をスケールさせるスピード」への対応といった課題に直面していた。
  2. 同社の課題に対して、リブ・コンサルティングは生成AIを活用したアイディエーションを主体としたプロジェクトを実施。東急建設のコアコンピタンスを客観的に言語化し、それを起点に膨大なアイデアを創出。生成AIによる圧倒的なスピード感により、3ヶ月という短期間で社会価値起点の有望な事業仮説を複数検証することに成功した。

2つの壁の突破口として白羽の矢が立った生成AI活用

-リブ・コンサルティング森(以下 リブ森) 皆様が所属する価値創造推進室の設立経緯やミッションについて教えてください。

-東急建設 藤田 様(以下 藤田) 価値創造推進室は、2021年に会社のビジョンと長期経営計画を刷新したタイミングで設立されました。その中に新設されたのが、我々が所属するイノベーション推進部です。

私たちのミッションは、当社が掲げる「脱炭素」「廃棄物ゼロ」「防災・減災」という3つの提供価値に資する、新規事業を継続的に生み出せる仕組みを構築すること。そして将来的に、収益の柱となる事業を複数作り出すことです。

これらの実現に向け、新規事業開発とオープンイノベーションの推進を両輪で進めています。

-リブ森 2021年から現在(2025年7月時点)まで、さまざまな新規事業の取り組みを実現していると伺っています。

-藤田 長期経営計画で注力することを明言した「再エネ事業」は、事業化と収益化に成功し、今後は数百億円規模の追加投資が決定されています。そのうち系統用電池については、2026年に蓄電池関連の法改正により用途が広がるため、お客様に新たな価値を提供できると考えています。

-リブ森 素晴らしい成果ですね。そのなかで今回、弊社と新たなプロジェクトを始めるに至った背景にはどのような課題があったのでしょうか?

-藤田 再エネ事業は、長期経営計画のなかで定められていた事業領域であり、「やることありき」で進んだという側面があります。しかし、私たちはゼロからイチを生み出すことで、複数の事業を創出していくことを重視してきました

これまでも、可搬型木造建物を活用した「モクタス事業」や、社内ビジネスコンテストから事業化を目指す取り組みはありました。そのいずれも、本業の延長線上で生まれたアイデアが多く、また事業化まで至らないケースも多かったのです。

-東急建設 重田 様(以下 重田) 社内だけでアイデアを出し合うと、どうしても似通ったテーマに収束してしまったり、既存のアセットに固執して新しい切り口が見いだせなかったりする。現場の感覚として、現行のやり方に行き詰まりを覚えていました。

-藤田 加えて、経営層からは「開発のスピードアップ」を強く求められていました。再エネ事業という成功例があるからこそ、次の一手にも大きな期待がかかります。そんな中、これまでとは違う角度からのアプローチが必要だと感じたのです。

-リブ・コンサルティング村越(以下リブ村越) 「アイデアのマンネリ化」と「新規事業企画を生み出し、事業をスケールさせるスピードの向上」」という課題があったのですね。今回、弊社からは「生成AIを活用した新規事業アイディエーション」を提案しましたが、生成AIを使うことに対して懸念やネガティブな印象はありませんでしたか?

-藤田 当社の中では、自社の強み、例えば保有する「自社技術や専門能力」などをどう事業に活かすか、これまでも様々な手法で模索してきました。しかし、なかなかうまくいかなかった。生成AIを活用すれば瞬時に整理し、新たな可能性としてアウトプットしてくれるのではないかという、大きな期待がありました

-東急建設 関本 様(以下 関本) これまで行ってきた社内ビジネスコンテストでは、初年度に400件ものアイデアが集まっていました。しかし、すべての案に目を通しきれていたかというと、決してそうではなかったのです。本当は素晴らしいアイデアなのに、私たちが一つ一つの案の検討にじっくりと時間かけられなかったことで、社員の期待や情熱に応えられなかった部分もあったのではないか見落としたことで社員を裏切ってしまった部分があったのではないかという想いがありました。

そのため、生成AI活用で過去のアイデアをもう一度拾い上げたいという想いがありました。ただ拾い上げるだけでなく、「生成AIによる客観的な裏付けがあるから、もう一度あなたのアイデアを検討したい」と、説得力を持って再提案できると考えたのです。

-重田 その頃、社内でも「2025年度は何か新しい取り組みをしよう」という機運が高まっていました。外部パートナーから新しい手法を学ぶことも検討していた中で、貴社から生成AIを駆使した新規事業創出を提案されました。

正直なところ、生成AIでどこまでできるのか未知数な部分はありました。しかし、リブ・コンサルティングの提案は、生成AIのアウトプットをコンサルタントの力でしっかりとまとめ上げ、事業仮説にまで昇華させるというプロセスが明確に示されていました。生成AIの能力と、それを使いこなす人間の知見の両輪で進めるという点に信頼が置けたので、安心して任せることができました

生成AI活用が生んだ「圧倒的なスピード感」

-リブ森 プロジェクトの開始後、弊社と東急建設とで アセット・ケイパビリティの抽出や有望事業仮説の立案、事業領域の簡易評価を実施しました。その後、事業創出の方向性を検討しつつ、ニーズの検証を実施し、有望事業仮説事業化に向けた検証アクションの推進や事業成長の施策・体制の検討なども行いました。

プロジェクトを通じて、生成AIと一緒に事業を創出していくという体験は皆様にとっていかがでしたか?

-藤田 アイディエーションからの事業化はこれからですが、作業が圧倒的に効率化されたという点にとても満足しています。これまで、競合調査や市場分析にはものすごい時間とコストをかけてきました。それが、生成AIを使えば瞬時にできてしまう。加えて、アイデア出しも半自動で、しかも大量にアウトプットされる点には本当に驚かされました。

-重田 生成AIが出してきたアイデア群に対してフィードバックすると、次の打ち合わせではこちらの意見に合わせてチューニングされた新たなアイデアが提示される。しかも、アイデアそれぞれに市場規模や収益性の評価が添えられているので、議論の的が絞りやすく、非常に意思決定しやすかったです。

-関本 私が特に価値を感じたのは、生成AIが我々の「コアコンピタンス」を言語化してくれたことです。社員であれば誰しも、自社の強みについて漠然としたイメージは持っています。しかし、それを客観的かつ体系的な言葉で示されたのは初めてでした。今回生成AIが抽出した21のコアコンピタンスはどれも納得感があり、今後の事業開発の拠り所になるものでした。

-リブ・コンサルティング國分(以下リブ國分) プロジェクトを進める中で、特に印象に残っている場面はありますか?

-藤田 プロジェクトの中で、技術アセットを活用するアプローチでの事業検討を進めていたところ、一度アプローチ方法自体をゼロから再考しなおすといった場面がありました。リブ・コンサルティングは私たちの意見を真摯に受け止め、1週間後には全く違う切り口の、しかも質の高いアイデアを再提案してくれました。

-重田 アイディエーションが順調に進み、顧客ヒアリングのフェーズに入ったときのことも強く印象に残っています。ヒアリングで得られた定性的なフィードバックを、森さんたちは即座に分析し、次の検証方法を修正して翌週のブラッシュアップにつなげていました。あの伴走力とコミットメントの高さは、さすがだと思いました。

生成AI発のアイデアから生まれた事業化の熱意

-リブ村越 スピードや効率化という点で、生成AIの価値を非常に高く評価いただいていることがよく分かりました。一方で、生成AIのアイデアに対して事業推進者の皆さんが熱意や当事者意識を持てたのか、非常に気になります。

-重田 プロジェクトに参加する社員によって、ワクワクするポイントは違いました。特に「生活者目線」「東急沿線開発」など、我々にとって身近で社会的な意義を感じられるキーワードが入ってきたとき、チーム全体の熱量がぐっと上がっていましたね。生成AIが出したアイデアでも、自分たちの価値観と接続するポイントが見つかると、一気に「自分ごと」として捉えられるようになるのだと思います

-藤田 本プロジェクトでは、生成AIが出したアイデア群の中から特に評価が高かった10案件について、社内でサポーターを公募してみたんです。結果、3つの案件に対して社員が名乗りを上げてくれました。

-関本 公募では、過去のビジネスコンテストに応募してくれた社員に対して、個別にアプローチしたのです。「あなたが以前出してくれたアイデアと近しいテーマが、生成AIによって有望だと評価されている。ぜひ挑戦してみないか?と

自分の想いが詰まった過去の提案が、客観的なデータによって再評価された。それが、彼らの心を動かしたのだと思います。生成AIが、人とアイデアの「縁」を再びつないでくれたような感覚でした。

-リブ國分 素晴らしい取り組みですね。生成AIが創出したアイデアであっても、磨き上げていくプロセスに人が関わることで、納得感が醸成されたのですね。

-藤田 生成AIが出してきたものをそのまま受け入れるのではなく、自分たちの意見をぶつけ議論を重ね、何度もチューニングしていく。生成AIと人間の共同作業を経ることで、最終的なアウトプットが「自分たちのもの」になるのだと思います。

-重田 今回出てきた事業アイデアについて、議論を重ねる過程で「こういう未来があったら面白いな」と純粋に思えました。その想いを起点に、事業化を進めるとともに仲間を増やしていきたいと考えています。

効率と泥臭さ。事業創出のパートナーとしての厚い信頼

-リブ森 プロジェクトの成果として、約3ヶ月という短期間で具体的な事業仮説にまで落とし込めたことについて、改めて皆様の感想を聞かせてください。

-藤田 リブ・コンサルティングとのプロジェクトで素晴らしいと感じたのは、「スピード感」と、その裏付けとなる「バックデータの信頼性」です。以前なら、数ヶ月かけてアイデアを練り上げても、強力な競合の存在を前に議論が振り出しに戻ることが少なくありませんでした。

このプロジェクトは、そうした無駄が一切なかった。さらに、私たちがキャッチアップできていなかった先進的なトレンドや、生活者視点を取り入れたアイデアを出してくれました。当社だけでは、このスピード感とクオリティは実現できなかったでしょう。

-関本 プロジェクトにアサインされたリブ・コンサルティングのメンバーの方々は、当社と風土が合っているのか、議論していて非常に相性が良いと感じました。それもまた、プロジェクトが円滑に進んだ大きな要因だと思います。さまざまな企業の社風にフィットする豊富な人財がいることも、貴社の強みなのだと感じます。

-リブ森 ありがとうございます。今回のプロジェクトを踏まえた今後の展望と、弊社に寄せる期待を教えてください。

-重田 リブ・コンサルティングは生成AIを使いこなしつつ、顧客ヒアリングのような泥臭い作業にも真摯に取り組み、成果に向けて伴走してくれました。スピード感を持って事業開発を進める上で、これ以上ないパートナーだと思います。

-藤田 当社は長期経営計画の中で、新規事業による営業利益の目標数値まで掲げています。それくらい、新規事業を通じて新たな収益の柱を生み出すという目的に本気で取り組んでいます。貴社のように、スピーディかつパワフルに事業創出を推進してくれるパートナーの存在は、本当に心強いです。

-関本 私たちの目的である事業創出のために、今後もさまざまなチャレンジを続けていきます。その中でまた新たな壁にぶつかったときには、ぜひリブ・コンサルティングの多様な知見を貸してください。

※本記事の内容はインタビュー当時(2025年8月)のものです

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