2022.10.17

基盤強化と収益力の向上を目指し抜本的な「営業組織の変革」を実施で成長

日機装株式会社 様

1953年12月26日創業。インダストリアル事業・航空宇宙事業・メディカル事業を事業の柱とする大手工業メーカー。産業・医療業界において世界トップクラスの実力を持ち、多数のトップシェア商品を有する。東証一部上場。連結子会社は国内外75社に及ぶ。

<お話を伺った方>
取締役執行役員 医療部門長 メディカル事業本部長 木下良彦 様(お写真左)
メディカル事業本部 副本部長 横山大輔 様(お写真右)

構成

営業スキルは決して属人的なものではない。多くの企業で悩むポイントでもある「課題解決型営業(ソリューションセールス)の組織化」そして、パイロット運用から全社展開で得られた多くの成果とは。

それまでの営業のやり方が変わった結果、どのような成果が見えてきたのだろうか。

第1回 変革の序章「幹部の変革意識共通化 編」
第2回 成果への手応え「営業勝ちパターン構築&展開 編」
第3回 主体的進化型組織へ「営業総合教育と進化 編」

第1回 変革の序章「幹部の変革意識共通化 編」

EXECUTIVE SUMMARY

  1. 日機装株式会社は、1953年に化学プラント向けや 発電所向けポンプの輸入販売、その後の国産化にはじまり、多くの世界初の製品を生み出した大手工業メーカーだ。メディカル事業においては、1969年に 日本で初めて血液透析装置 を開発し、現在でも国内市場シェアはトップである。しかし、追随する競合他社の営業攻勢によりシェアを奪われる危機感を感じ始めていた。
  2. メディカル事業本部では、基盤強化と収益力の向上を目指し「営業組織の変革」を行うべきだと考えていた。通り一遍の人事異動や社員教育ではなく、営業社員の意識を変える抜本的な変革である。そのような状況下でリブ・コンサルティングは抜本的な変革プロジェクトの伴走者としてかかわることとなった。
  3. 2020年12月期の決算において、メディカル事業部は前年比8.8%増の68,127百万円の受注高を計上した。新型コロナウイルス感染症の影響で営業活動の制約を受けた中にあっても、見事変革を成し遂げた結果でもあるといえるだろう。さらに、2021年12月期においては受注高84,500百万円(前年同期比24.0%)と2桁成長を見込む。

日本で初めて血液透析装置を開発した日機装

日機装株式会社は、1953年に化学プラント向けや発電所向けポンプの輸入販売、その後の国産化にはじまり、最先端技術を導入して製品を作り続けてきた企業だ。メディカル事業では、1969年には日本初の血液透析装置を製作し、業界のパイオニアとして市場を創出した。

日機装は、国内の血液透析装置シェアの50%超を有するトップ企業である。その強みは、開発から製造販売、メンテナンスまでを一貫してグループ内で行えることだ。たゆまぬ技術革新を行い、急性腎不全の治療に用いるCRRT(持続的腎代替療法)や、マイクロ波外科手術用エネルギーデバイス「アクロサージ」の開発など、医療業界にも数多くのイノベーションを生み出してきた。名実ともに業界のリーティングカンパニーと言えるだろう。

透析市場を取り巻く環境

「メディカル事業本部は、日本国内の透析市場の成長に応じ、必然的に伸び続けてきた事業体です」取締役執行役員として、医療部門長とメディカル事業本部長を兼任する木下取締役は語った。

日本透析医学会の2019 年調査報告によると、日本で透析が必要な患者は現在およそ34万人。ここ10年は毎年5000人ずつ患者数が増えているが、一時期に比べ伸びは鈍化している。透析市場はすでに成熟市場だ。

「日本の人口減に伴い、いずれ国内の市場は頭打ちを迎え、縮小するだろう。20~30年前からずっとそう言われてきました。しかし、実際にはわずかながら伸びています。結果的に、この市場を争うプレーヤーの数も減っていない状況です。もはや『良い機械を作れば売れる』拡大路線はありません。競合他社とのシェアの取り合いをしなければならないのです」

成熟市場の中で感じた危機感

日機装株式会社では、2016年~2020年にかけて、5ヵ年の中期経営計画「日機装2020」に取り組んできた。掲げた基本施策は「『技術の日機装』の確立」と「成長に向けた基盤強化と収益力の向上」の2つだ。まず、手を付けたのは事業改革。当初の2016~17年における売上収益は厳しかったものの、2018年には改革の手ごたえを感じ始めたという。

「しかし、営業手法は昔ながらのものでした」横山副本部長は述懐する。メディカル事業本部の営業社員は、現場で透析を担当する臨床工学技士や看護師ら現場スタッフへのルーティン営業をこなしていた。もちろん、このやり方でも現場のお客様の一定の評価は得られる。しかし医療事業の経営環境も大きく変わった。

「確かに現場スタッフの声は大事です。しかし、現場の声だけでは高価な透析装置の導入や継続の決め手にはならない。競合他社はどんどん経営層にアプローチし、コネクションを作っていました。結果、個別の案件で負けが目立つようになってきたのです」

訪問回数を増やしたり、説明の時間を多く取ったりしても契約には繋がらない。「これまでのやり方」が通用しないことに、現場は疲弊し、社員の離職が目立つようになった。ここで問題だったのは「会社として確固たる営業手法」が確立されていなかったことだ。

時代の変化と社員の意識の綻び、木下取締役は明確な危機を感じていた。
リブ・コンサルティングが、日機装株式会社とご縁をいただいたのは、そんな時であった。

木下取締役は、実は最初は気乗りしなかったという。
「またコンサルティング会社か。そんな気持ちでしたね」

それには理由がある。これまでも、多くのコンサルティング会社に営業変革の要望を伝えてきた。しかし結局は、基本的な社員教育に話が終始してしまったのだ。
「われわれが求めているのはそんなものではない」木下取締役は、コンサルティングそのものに失望していた。

営業変革を実現するためには組織の強化が必要となるが、具体的なニーズとして幹部教育が顕在化されることが多い。しかし幹部教育だけでは組織の変革にはつながらない。営業組織変革において大事なことは、組織内での主体的な変革を引き出すための伴走にある。

この度、なぜリブ・コンサルティングとご契約いただいたのかを木下取締役にお聞きした。
「われわれの思いに対して、企業文化を大事にしながらも、どういう風に取り組むかをしっかりと提案してきた。やりっぱなしじゃなくて、ちゃんとパートナーとして伴走してもらえると感じたからです。今までのコンサルティング会社とは違うと思いましたね」

まず必要なのは幹部メンバーの意識合わせ

日機装のメディカル事業本部は、事業本部長である木下取締役と横山副本部長、その下の職位は部長、そして課長職にあたるグループリーダーという組織である。

「当時は組織変更したばかりでした。よりスピーディーな意思伝達を図るため、それまで独立していた営業本部を事業本部の下に組み入れたのです。」

横山副本部長は当時を振り返った。

「事業本部と営業本部を一体化して、同じ方向を向いて進む必要があったための改組ですが、営業担当からしたらどうでしょう。自分たちの組織がなくなってしまい、事業本部に所属することが、モチベーションダウンにつながっていました」

最終的には一般社員まで経営戦略を浸透させる前に、まずは幹部社員がどのような認識でいるのかを探る必要があった。組織内を主導する幹部の目線が合ってないと、変革を進めることは困難だからである。どういった形で行うべきかミーティングを重ね、変革への想いを実現する形で提案したのが「幹部合宿」であった。懇親会を入れることで、さまざまな事柄についても、ざっくばらんに腹を割って話し合う機会にもなる。

「いま思えば、合宿が変革の起点でしたね。変革チームのチームビルディングになりました」

「経営幹部合宿」で何を行ったか

経営幹部合宿は、「事業本部のありたい姿・あるべき姿(事業戦略・組織戦略)の議論および現状を把握したうえでの組織・人材における優先して解決すべき課題について幹部で共通認識にし、一枚岩になること」を目的とした。

リブ・コンサルティングでは、ありたい姿(ビジョン)を「5つの成果」、すなわち「業績」「CIS(顧客感動満足)」「EIS(社員感動満足)」「人財育成」「よりよい仕組み」のレベルをバランスよく高めていくことであると定義している。

「合宿は、外部環境や自社と組織をどのようにとらえているかを、ワークショップ形式で改めて考え、79期(2019年度)の方針と戦略を解説という段階を踏んで、他社事例をもとに『5つの成果』について議論するという流れで行われました。」

横山副本部長は語った。

「わかったことが2つありました。1つ目は、部長職以上の幹部社員は、わたしたちと同様の危機感を持っていたこと。そして、2つ目は、当社が優先しているのは『業績』『CIS(顧客感動満足)』であり、『EIS(社員感動満足)』の認識がほとんどなかったことです。

合宿では『EISってそもそも何の意味ですか?』『本当に重要なんですか』という状況でした。禅問答のようなやり取りが、懇親会まで続いたんです。リブ・コンサルティングは、参加者に対して粘り強く、真摯に説明を重ねてくれました。われわれが目指す目標の『業績』『CIS(顧客感動満足)』は、『よりよい仕組み』によって行われる『人材育成』からの『EIS(社員感動満足)』の上に成り立つものだと。おかげで皆に『5つの成果』の価値の連鎖が腹落ちし、2日目にはガラッと変わりましたね」

「経営幹部合宿は、きっかけとしてとても良かったですね。環境変化を共通の認識とした同一の危機感を醸成することに成功し、『5つの成果』もみんなで確認し合うようになりました。」

木下取締役も賛同した。そして、こう付け足した。
「実は、この合宿前まで改革にいちばん否定的だったところが、今ではもっともうまく回っているんですよ」

「仕組みづくり」を起点とした営業改革はどのように行われたのか?
次回はその内容についてお話していただいた内容を本記事続編にて公開いたします。

(写真左から弊社常務権田、日機装木下取締役、日機装横山副本部長、弊社コンサルタント村越)

第2回 成果への手応え「営業勝ちパターン構築&展開 編」

EXECUTIVE SUMMARY

  1. 日機装株式会社のメディカル事業は、1969年に日本で初めて血液透析装置を開発し、現在でも国内市場シェアはトップである。しかし、追随する競合他社の営業攻勢によってシェアを奪われる危機感を感じ始めていた。
    そんな中、基盤強化と収益力の向上を目指した「営業組織の変革」プロジェクトの伴走者として、リブ・コンサルティングがかかわることとなった。前回の記事では、変革の起点となった幹部合宿により、「営業組織としてのありたい姿」「優先課題」「変革の必要性」について幹部社員の中で共通認識化された点に触れた。
  2. 営業変革を具体的に推進していくにあたって、事業本部が目指す姿の一つである「医療経営への貢献」を体現すべく、従来の「顧客現場×訪問量」アプローチに対し、「意思決定層×提案の質」アプローチの強化を図った。この新たな営業の型をパイロット拠点と一緒に作り上げていった。
  3. 新たな営業アプローチは、具体的な行動やKPIへの落とし込みだけではない。営業会議のやり方を大きく変えたことも、パイロット拠点での大きな成果につながった。社内で注目・関心を高めた状態で全社展開を行い、新たな営業アプローチは、具体的な行動やKPIへの落とし込み、営業会議のやり方を大きく変えたことによって、パイロット拠点で成果を上げる。社内で注目・関心を高めた状態で全社展開。当初の問題であった競合他社からの攻勢にも競り勝つようになっていく。

パイロット展開から始まった営業アプローチ変革

「幹部合宿を経て、営業変革を行う必要性とその方向性について事業本部経営メンバーと営業拠点の幹部社員との間で共有することができました。しかし、それだけでは組織全体を動かすことは難しいと思いました。日機装には、新卒から勤め続けてくれているプロパー社員が多くいます。つまり、営業変革は自分たちがやってきたことの否定にも繋がってしまうのです。いきなり全社展開するのではなく、まずはパイロット運用で変革を成功させ、具体的な『結果』を見せて『変革の必要性』を実感してもらおうと考えました。」

幹部社員の変革意識が共有化された後に、まずはモデル拠点を決め、パイロット運用から新たな「営業勝ちパターン」の構築と展開を始めることとなった。木下取締役はこう続けた。

「カルチャーが変化したら、どのような営業手法になるのかというのを、リブ・コンサルティングさんに具体的に示してもらった上で伴走してもらえたのが大きかったですね。パイロット拠点では、まずは営業社員の目の前にある仕事のやり方を変えることから始めました。精神論を説くのではなく、具体的な業務まで落とし込んでもらったので『何をすればよいか』が明確になった。動きやすくなっただけでなく、結果も伴ったので、若手社員にも腹落ちしやすかったはずです」

顧客関係性を可視化した新たな「営業勝ちパターン」とは

パイロット運用では、具体的に何を行ったのか。木下取締役は、営業プロセスの変更について次のように語ってくれた。

「営業の大きな課題の1つ目は『トップ層との関係構築ができていない』ことでした。リブ・コンサルティングさんがメスを入れたのはまずここです。『顧客との関係構築』について、段階ごとに定義をし、具体的に何をどこまですれば良いかを言語化して共有してくれました。例えば、既知の間柄であっても1年以上も経営者に会えていないのであれば、それはもう『新規開拓段階』で必要情報の収集から行うべきであるというような定義です」

リブ・コンサルティングでは、営業社員と顧客との関係構築を5つのフェーズに分割。そして、フェーズを進めるための具体的な条件を定義しKPI(重要業績評価指標)とした。

「『何をすれば評価されるか』が具体的になったため、営業社員が動きやすくなりましたね。意思決定権者との面談回数や内容など、次のフェーズに進むために必要な内容についても具体的に定義し、営業社員が先方から収集すべき情報が一目でわかるようにしてくれました。顧客管理情報の不足についてはシステム上で判別し、情報収集すべき項目を明確にしたので、次に行った時に何をすればいいかがわかりやすくなり、営業活動も効率的に行われるようになったのです」

とはいえ、足りない情報をどうやって得るかは、営業としてのコミュニケーションスキルの問われるところだ。

「さらに、どうやって顧客から情報を得るのか、商談を進めるのかという部分についても、具体的な解決方法を提示してくれました。もともとは、営業社員の独自判断に任せて個々に動いてもらっていたのが、営業の内容がそろわなかった一因です。そこで、トップ営業社員とその他の営業社員のコンピテンシー比較を行ってギャップを洗い出しました。一般の営業社員がトップ営業社員と比べて劣るスキルを明確化したのです。必要なスキルについては、強化手順を策定して実務の中で解消していきました。顧客についてもセグメンテーションを行い、状況に応じた重点ターゲットを設定した上で達成計画を立案してもらったのです。」

横山副本部長も併せて語る。

「評価対象は売上だけではなく、そのプロセスについても具体的な評価基準を細かく定めていきました。これによって『何をもとに営業社員を評価するか』が明確になっただけではありません。営業社員本人も『何を目指せばよいか』を自覚して動けるようになったのです。」

案件を取り残さない「チーム会議マネジメント」

顧客との関係構築から受注、その後のアップセルやクロスセルに至るステップについても見直しを行った。その解決のために取り入れたのが、チームミーティングの内容変更だ。

「リブ・コンサルティングさんは、営業会議の在り方をガラっと変えてくれました。営業社員それぞれが担当している案件について『どうやって成果につなげていくのか』をチーム全体で話し合う戦略会議にしたのです。一人の営業社員に責任を負わせるのではなく、チーム全員で案件について考えることで、建設的なミーティングができるようになったのはとても大きな変化です。これがパイロット拠点で目覚ましい成果をあげるきっかけになりました。」

「営業会議では、個々の案件の進捗を確認します。しかし、ともすればその営業案件の担当者を個別に詰める場になりがちという問題点がありました。リブ・コンサルティングさんが、手を付けたのはまずはこの進捗確認の部分です。それぞれの案件については、関係構築フェーズの定義とKPIにそってどの段階にあるかを確認し、現状を把握します。さらにそれを次のステップに進めるためにはどうすれば良いかを、拠点の皆で考えるようにしたのです」

ミーティングでは、案件ごとに商談プロセスのどの段階にいるか、現時点で困っていることは何かを開示し合う。そのうえでチーム全員で対策を練るようにした。手詰まりになっているポイントはどこか、どうすれば解決できるか。まるで、ゲームのクリアを目指すような楽しみと一体感がパイロット拠点に生まれてきたという。

「驚いたのは、リブ・コンサルティングさんが、会議に入って具体的にどのように進行するのかを示して見せたことです。『コンサルティング会社がここまで現場に入ってやるのか』と思いましたね」

横山副本部長がこう語るのを見て、木下取締役も頷いた。これらの取り組みは数字にも表れ、パイロット拠点での成果事例がどんどん生まれてくると、他の拠点も「あそこは何をやっているのだろう」と気になってくるのは当然だ。こうして、パイロット拠点で得た成果をもとに、全拠点展開に踏み切った。

パイロットから全社展開へ―ロードマップと共に伴走したリブ・コンサルティング

日機装の営業拠点は国内18か所。北は北海道から南は沖縄まである。北海道から上信越地方までが東日本支社、名古屋から沖縄までが西日本支社だ。リブ・コンサルティングは営業変革の全社展開に当たって全拠点を訪問。新しい営業の仕組みを、半年間かけて実地で引き継いでいった。

「顧客情報の管理シートから、ミーティングで行うことのチェックリスト、案件レビュー方法に至るまでやり方を統一できるようにマニュアル化してくれました。パイロット拠点だけでなく、拠点別の研修がトータルで3回、それに加えてミーティングへの参画もあります。全国を回り、実地で新しい営業手法を伝えるリブ・コンサルティングさんを見て『まさに伴走だ』と思いました。」

木下取締役はこう続けた。

「嬉しかったのは、パイロット運用後に、思いのほか現場がついてきてくれたことです。毎月末にKPIを集計し、ステアリングコミッティ(プロジェクト委員会)でチェックしていたのですが、毎回目覚ましい改善が見られました。おそらくですが、今までの営業活動の属人化によって孤軍奮闘していた空気を『変えたい』と、現場でも思ってくれていたのでしょうね」

全拠点へと活動が広がると、互いに他の営業所がやっていることが気になってくる。運用がうまくいっている拠点への見学の機会も設けた。仕組みをどのように運用すれば効果的なのかと拠点同士で活発に情報交換するようになっていく。

「『あそこはこれだけやっているのに、うちはまだこれだけだ』そんな感じで、他拠点がやっていることを見るのが、良い意味で刺激になっていました。特に、ミーティングのやり方に劇的な改善が見られた結果、各営業拠点から上がってくる週次の見込み数字の報告の精度が格段に上がりました。これまではちょっと弱含みに報告されていたのですが、自分の予測とマッチするようになってきました。営業会議で案件を共有して皆で考えることにより、成約の確度が高まったのだと思います」

コンサルティングのきっかけとなった、競合他社との戦況はどうなったのだろうか。

「当社では、営業の仕組みづくりを2019年からはじめた結果、どんどん変わっていきました。2020年の対競合の勝率は勝ち越し、2021年の数字も同様に推移しています。この流れを定着させたいですね」

パイロット運用から全拠点展開まで、営業改革における「よりよい仕組み」の浸透が成果として現れた。次は「人材育成」からの「ES(社員満足)」の改善である。

リブ・コンサルティングでは、今回のパイロット運用から全拠点展開するさなか、同時に社員のマインド向上のための施策も行っていた。最終回は、PDCAを自ら回す自走型組織になるべく行った「三位一体型の研修」について本記事続編でお話していただきます。

(写真左から弊社常務権田、日機装木下取締役、日機装横山副本部長、弊社コンサルタント村越)

主体的進化型組織へ「営業総合教育と進化 編」

EXECUTIVE SUMMARY

  1. 日機装株式会社のメディカル事業は、1969年に日本で初めて血液透析装置を開発。現在でも国内市場シェアはトップである。しかし、追随する競合他社の営業攻勢によってシェアを奪われる危機感を感じ始めていた。 そんな中、基盤強化と収益力の向上を目指した「営業組織の変革」をリブ・コンサルティングとともに着手。 
  2. 経営幹部合宿にて、幹部社員と営業変革の必要性と方向性の意識共有を行い、パイロット拠点から新たな「営業の型」の構築と運用を開始。成果が伴った新たな「営業の型」は、同社の変革チームとリブ・コンサルティングによる伴走型の全社展開により、対競合勝率での勝ち越しと前年比109%の受注高という業績成果へとつながった。 
  3. 最後との仕上げとして、目指す組織像を実現するための人材教育=教育体系構築と教育プログラムの実施に着手。「技術(スキル)」「頭(ブレイン)」「心(ハート)」の研修は「三位一体の研修」と評され、目標達成のために自発的にPDCAを回す「自走型組織」へと変貌を遂げていった 

「営業マインド」すら個人の資質ではないスキルである

人材をその個人が持つ感性やキャラクターで「営業向き」「内勤向き」と判断することは一般的に行われている。営業には「資質」が必要だと考える経営者は多い。

「リブ・コンサルティングに伴走してもらって、営業組織の変革を行っているうちに、われわれは大きな勘違いをしていると気が付いたことがあります」

木下取締役は語ってくれた。

「それまで、私たちは『営業力』にはもちろんスキルもありますが、職業人としてのベースである使命感や責任感も、個人の資質の上に成り立つと考えていたことです」

いわゆる「営業マインド」と呼ばれるものだ。これは生まれながらに備わった資質であり、医療という公共性の高い仕事の一端を担うのであれば、営業社員は当然として「使命感」「責任感」をもって業務に取り組んでいるに違いないだろう、そう考えていたというのである。

「しかしそれ自体が誤りでした。パイロット拠点から全社展開を行っていく時に『使命感や責任感自体も実はスキル』だとリブ・コンサルティングに言われてハッとしたのです」

最大の勘違いでしたよね、と横山副本部長も同意した。

「技術(スキル)」「頭(ブレイン)」「心(ハート)」の三位一体の研修に手応え

「社員の心の持ちようは、営業活動において非常に重要なポイントです。もし、使命感や責任感すらも磨くことができる対象であるならば、必要なのは営業の型や技術だけではありません。ベースにある「心」を含めて総合的に取り組まなくては、本質的に営業社員を変革することはできないと気が付きました」

横山副本部長がそう言うと、木下取締役も頷いた。営業マインドが、属人的な資質ではなく教育により向上が可能であるならば対処しなければいけない、と判断したことで、教育体系にマインドの研修も加わった。つまり「技術(スキル)」「頭(ブレイン)」そして「心(ハート)」の三位一体の研修だ。

「これまでの営業社員の教育カリキュラムやコンテンツでは、今一つ得られなかった手応えを感じました。特に、営業が数字を他責にすることがなくなってきたのが大きな変化でしたね」

これまで、競合と競り負けた営業社員は、その理由を自社の製品に帰して「機能が足りないため…」「〇社に比べると…」「価格が…」といった他責の思考になることが少なからずあったそうだ。

「もちろん、顧客からの声は重要です」

木下取締役が付け足した。

「しかし、他責の状態で止まってしまっては進化がない。その空気が蔓延すると『売れない理由』を探す組織になってしまう。それをやらなくなったのは、まさに『責任感の芽生え』といえます」

現在は、敗退理由の分析はSFAツールで一元管理し、部門をまたいで情報を共有している。仮に敗退したとしても、それは営業社員個人の責任ではない。部長やグループリーダーが一つの仕事に寄り添って面倒を見てくれる。仕事への大きな不安が解消されたことは、離職率の低減にも繋がっているという。

開かれたコミュニケーションで自立型の組織を目指す

「幹部合宿に呼ばれた幹部社員の管理職や、ライン管理職はリブ・コンサルティングとの接触が早かった分、納得して動きだすのが早かったイメージがあります」

横山副本部長は当時を振り返った

「営業マインド、つまり『ハート』を浸透させていくのと、チームミーティングの活性化は相乗効果がありましたね。コミュニケーションの仕組みを作り、KPIを設定して実施してもらったのは大きかったと思います」

営業変革の究極のゴールは、それまでのカルチャーを作り変えること。

「最近の変化としては、服を着替えるように新しいカルチャーが根付いてきているところです」結果を出す部署は、明らかに営業の質が変わったのだという。

「競合他社との勝率だけではありません。売上単価も上がっています。オプション機能の搭載率が高まっているのです」

木下取締役は晴れ晴れと語った。

「当社では、治療の質を高め、患者様の負担を取り除けるような透析装置の開発を日々行っています。しかし、その真価は使われて初めてわかるものです。医療機関の現場から声があがるだけではなかなか採用されません。やはりドクターや決定権者の推奨を得て、経営者に『顧客満足度を考えると、オプション機能を搭載することでコストパフォーマンスが上がる』という経営判断をしていただく必要があります。」

営業間で情報を共有することで、どのようなセールスがポイントなのか、さらに上司との協力体制を組み、病院のドクターや経営層に一緒に面談する。この流れを作ったことで、透析装置単体だけでなくオプション機能の必要性や有用性も理解してもらった上で購入されているのだ。小手先の営業スキル研修では、成しえなかった営業のレベルアップである。

営業組織の変革パートナーとして

「リブ・コンサルティングに、営業の変革は、あくまで営業の仕組みづくりであって、スタッフの育成ではないと言われて腑に落ちました。営業の仕組みづくりであれば、KPIもKGIも絡みますし、営業組織をチームとしてどう運用するかという内容も入ります。もし、1つのスキル研修としてカリキュラムやコンテンツを作っても、今の形にはならなかったと思います」

「営業の内容を量から質へ転換するにあたり、リブ・コンサルティングが、まず営業手法も指標もしっかりとやり方を固めてくれました

横山副本部長は言う。

「当社の本部スタッフとリブ・コンサルティングの方々で、実際に営業拠点を回り、彼らに伴走して指導しながら、教育体系を整理して作り変えていった。どうすれば、顧客との関係性を強化できるのか、訪問ごとにゴールを設定し、クリアすべきポイントがわかりやすくなったので、ある種ゲーム感覚で取り組めたと思います」

組織は、協力し合うことで成り立っている。プロジェクトを通じてその感覚は徐々に浸透してきている。

「会社に対しての興味が以前と比べて格段に上がりましたね。これまでグループによっては社内連絡を上長がストップして個人に渡していないところもあったのですが、そういったこともなくなりました。」

社員たちが、意識的に社内の情報に触れるようになったことで、木下取締役にも変化があったという。

「私が社内報でコラムを書いたり、方針の説明などを行うと、最近は、若手社員から感想メールやコメントが送られてくるようになりました。感想を送ってもらった社員には、こちらも社内表彰時などにメッセージを送るなどして、新たな交流が生まれています」

日機装ほどの企業規模だと、多くの企業では役員と一般社員の接点はほぼない。役員に直接連絡するような積極性は、木下取締役や横山副本部長が「こうあってほしい」と望んでいたことが、現場の営業社員にまで伝播していった端緒ともいえるだろう。

「コンサルティング」そのものに対する評価を変えたリブ・コンサルティング

「今だから言いますけれど、私はコンサルティング会社が好きではなかった。どうにも信用できないと思っていたのですよ」

木下取締役は述懐した。

「これまで、本当に多くのコンサルティング会社に企業変革の要望を伝えてきました。しかし、結局は基本的な社員教育に話を持っていかれてしまい、『そうじゃない』という思いを何度となく抱いてきた経験があります」

営業組織の改革は、人材研修をしたりDXによる業務効率化をしたりというだけじゃない、そういう思いがあったという。

「変革プロジェクトで最もやりたかったことは、営業社員たちのやる気を引き出すことでした。リブ・コンサルティングは、現状分析から営業社員のスキル、そして心のケアまで含めて取り組んでくれて、良い連鎖が生じるまで一緒に伴走してくれた。これは自分たちでだけでやろうと思ってもできなかったと思う。もし、他のコンサルティング会社を選んでいたら、今の結果はなかったでしょうね」

2020年12月期の決算において、メディカル事業本部は前年比8.8%増の68,127百万円の受注高を計上した。新型コロナウイルス感染症の影響で営業活動の制約を受けた中にあっても、見事変革を成し遂げた結果でもあるといえるだろう。さらに、2021年12月期においては受注高74,241百万円(前年同期比9.0%)と引き続き成長を見込む。

2021年からは、さらに新中期経営計画「Nikkiso 2025」もスタートしている。今回の営業変革をロールモデルとして、全社規模で広げていきたい。それが変革チームの次の目標だ。

「その時は、また、リブ・コンサルティングさん、ぜひ伴走をお願いします」

(写真左から弊社常務権田、日機装木下取締役、日機装横山副本部長、弊社コンサルタント村越)

 

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