2018.06.27

オーナー企業の事業承継における課題論点とアプローチ

■はじめに

日本には、家族経営・同族経営といわれる年商100億円超のオーナー企業*¹が数千社あり、その多くが2020年にかけて事業承継タイミングを迎える。本稿では、オーナー企業に見られがちな課題論点を整理し、事業を現オーナー陣から次期経営陣へとつなぐ、弊社のアプローチを紹介する。

*¹オーナー企業=代表者と筆頭株主が一致する企業

 

 

■なぜ今、事業承継なのか

日本では、年商100億円超の規模であっても、家族経営・同族経営を行っていることが多く、およそ数千社が存在している。その多くにおいて、2020年までに団塊世代である数十万人の経営者が引退時期に差し掛かると予想されている。

 

 

 

■オーナー企業の内なる声

以下のコメントは、オーナー企業の社長・次期社長・企画部門役員へのインタビューに基づく内容である。

 

「客観的数値や事実に基づいた意思決定ではなく、社長の鶴の一声で決められてしまう」

「技術・製造等の商品に対する思い入れが強く、後方支援への投資(例:インフラ設備投資)に消極的」

「事業多角化の結果生まれた“ゾンビ事業(利益が出ていない事業)”から撤退する意思決定がなされない」

「組織ラインや会議体を越えて社長が口を出してしまう/決めてしまうため、次世代の幹部候補が育たない」

「後継者は、現社長の経営スタイルを踏襲したくない(真似したくない)が、どうすればよいかわからない」

 

自前やブティック系コンサルタントによる事業承継は難しいとの声も・・

「内部の人間からはオーナーに意見しにくいため、外部のサポートが欲しい」

「キレイな戦略を描くことも重要だが、社内の人間関係も踏まえて『どう動かすか』が極めて重要」

 

 

■オーナー企業の課題論点とは

上記のインタビュー結果、および、リブ・コンサルティングでのクライアント支援実績に基づいて、「事業承継に関する論点」は以下の三つに集約される。

 

A. 経営の意思決定において、合理的なモノサシ(判断根拠)がない/見えない

決裁権限が一局集中する組織においては、トップの独断による意思決定がなされることが多く、その際、客観的数値や事実などの根拠がないケースもしばしばである。その結果として、「客観的数値や事実を把握する」機能自体が脆弱(社内で数字・事実を一元的に把握する仕組みが不在)な体制となり、負の連鎖が続いてしまう。

(負の連鎖:ファクトがない→ファクトで説得できない→トップ・上長のファクト収集への感度が低下)

 

B. 決裁権限の一局集中

前述したが、オーナー企業では、決裁権限がオーナーに一局集中し過ぎていることが多い。そのため、大型の投資案件がオーナーの独断でスピーディに推進できるプラスの面もあるが、上記Aの課題がある場合には、致命的な経営上の判断ミスにつながりかねない。また、各事業部や現場管理者の判断に委ねるべき案件に関しては、オーナー決裁のリードタイムによる機会ロスにもつながり得る。

 

C. 事業承継をリードする人財ケーパビリティが不足

現オーナーの引退後など、事業承継にかかる戦略策定や組織・制度設計をリードするための人財・ケーパビリティが圧倒的に不足している。また、一般的な戦略コンサルティング会社のサポートを受けて戦略を策定したとしても、その後の戦略遂行(実行フェーズ)を強力に推進できる人財・ケーパビリティも不足している。

 

 

■事業承継を成功に導く弊社のアプローチ

弊社では、前述したオーナー企業の課題論点を解決すべく、以下のアプローチで事業承継を成功に導いている。特に、上流の戦略アプローチだけでなく、事業承継を最後まで完遂するために必要な組織・制度設計、さらに実行支援までを一気通貫で行う点を強みとしている。

 

 

Step1.「将来ありたい姿」の定義

通常、中長期的な戦略を策定する際には、理念ビジョンや価値観などの抽象度の高い議論は行わないこともある。しかし、たとえ同じ経営陣であっても方向性にズレが生じてくることは必然であり、経営上の弊害も起こり得る。そのため、事業承継の局面においては、現経営陣から次世代へと“想い”をつなぎつつ、新たな価値観を打ち出すべきである。

そこで、まずは中長期的な戦略を描く上での指針となる「会社としてのアイデンティティやDNA」「ありたい姿」「価値観」などの抽象的な概念イメージを「将来のありたい姿」として定義する。インプットの方法は、経営陣へのインタビューやワーキンググループなどによる討議、既存の理念ビジョンや社是・社訓などをもとにする。

 

 

Step2.中長期的な戦略策定

前ステップで定義した「将来のありたい姿」をもとに、中長期的な戦略を策定し、具体的な数値目標(KGI/KPIなど)と優先順位付けや依存関係などを策定する。

特に、“将来価値を最大化するための中長期的な投資計画”を戦略上の柱の一つとする。投資の対象は、インフラ設備などの“モノ”だけでなく、人財となる”ヒト“も含める。次世代幹部の育成や若手のキャリアパス形成、また生産性・効率性を高める組織制度設計が重要となってくる。

また弊社では、ROIC(投資収益率)などのキャッシュの回転数を意識し、投資対効果を把握した上で、NPV、回収期間法などの評価指標でリスクも把握し、合理的な投資判断をサポートする。

また、KGI/KPIなどの数値目標の設定に関しては、「将来ありたい姿」からのトップダウンアプローチとコアコンピタンス、メガトレンドや内部インタビューによるボトムアップアプローチによって、より実効性の高い目標設定を行っている。

 

 

Step3.アクションプラン策定

戦略目標と現状とのギャップ分析を行い、そのギャップを埋めるためのアクションプランを策定する。

アクションプラン策定の対象は、バリューチェーン・組織・プロセス・ルールなどの機能一覧別を基本とし、それぞれのギャップを埋めるための施策を立案し、優先度の高い目標達成に必要な施策から実行する。施策にかかる投資額と期待される成果を概算し、アクションプラン全体を戦略と整合の取れた計画にすることが肝要である。

また、初期案となる計画を立てて終わりではなく、あらかじめ、PDCAサイクルのための当初計画の軌道修正のデッドラインやその後のリカバリープランの設計も適宜実施する。

 

 

Step4.組織・組織分掌・会議体の設計

合理的な経営の意思決定を行うためのプロセスと、事業承継を成功裏に行うための実行組織を構築する。

まずは、ありたい姿、事業戦略、実現性をインプットして、組織の「骨格」および「くくり方」のルールを作成し、各論点を検討した上で組織コンセプトを策定する。「骨格」とは、事業部制、カンパニー制、職能別、マトリクス組織に見られるような組織形態を指し、事業環境に応じて組織に求められる要件によって最適なものを選別する。「くくり方」とは、人財や知見を供給する側と需要する側に部門を分け、これらの交流・共有を活発化するための仕組みを指し、例えば、需要系機能である営業企画やマーケティングといった部門は各事業部に配置することで、有意な情報を収集することができる。

次に、新たな組織形態に応じた職務・会議体を設計していく。職務については、例えば、各事業部や海外拠点に、どこまで権限委譲して責任を持たせるかといった点が論点となりやすい。他方、職務の統合・分担・廃止や合理化などによる業務効率化も検討できる。会議体については、必要性の高い「他部門と連携が必要な意思決定」に対応する会議体の参加組織、開催頻度、KPIを設定した上で、当該会議体でカバーされる既存の会議体の廃止を検討する。また適宜、部門内のみの会議体も、重要度の高いものについては、設計・導入を検討する。

 

 

Step5.実行

ここまで各ステップで計画・設計してきた事業承継にかかるプラン全体を実行に移す。

アクションプランに基づいて、各施策を随時リリース導入し、現場レベルのトラブルシューティングにも対応しつつ、施策実行上の課題を抽出し、その解決策を立案し導入することで、PDCAサイクルを回し、円滑な実行管理を行う。

 

 

■サマリー:弊社からのメッセージ

事業承継とは、現オーナーの引退によって起こる“受け身”のイベントと捉えられがちだが、弊社では、企業の抱える経営課題を解決する“攻め”の機会(チャンス)と捉えている。

 

なぜなら、事業承継を契機として、これまで体系的に整理していなかった創業から続く“想い”や、そこから描かれる“将来ありたい姿”、客観的根拠に基づく戦略と数値目標、目標達成に向けたアクションプランと遂行する組織体制の見直しなど、経営の上流から下流までの仕組みをトータルでデザインするベストタイミングであると考えているからである。

 

弊社は、戦略策定等の計画フェーズだけでなく、具体アクションを起こす実行フェーズまでの支援を行っており、常に、お客様に寄り添いながら、皆様とともに成果を創出することを“バリュー”としている。

 

“100年後の世界を良くする会社”を、われわれと一緒に創っていきませんか。

 

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