2018.08.21

加速する中国のVC投資

■はじめに

中国におけるVC(ベンチャーキャピタル)のベンチャー企業向け投資は非常に加速しています。

その投資領域は、ビットコイン等の仮想通貨投資ブームで火がついたマイニングマシンの開発企業、アリババグループとしてアリペイを軸に決済サービスを手がける企業、急速な高齢化が進む中国においてテコ入れが急務なヘルスケア、中国が自国発コンテンツ開発に積極的姿勢を見せるエンタメと多岐に亘ります。

今回は、2018年のPre-IPO(*1)段階における資金調達事例を紹介し、関連VC社を見ていきます。

(*1: ここでいうPre-IPOは、「1年以内に上場する可能性が高い企業」と定義)

■2018年8月までのPre-IPOにおける調達事例

(リブ・コンサルティング作成)

 

上記表は、2018年8月までのPre-IPO企業の調達事例の一部です。

それぞれを見ていくと、まず2018年3月にテンセントのCVCである「腾讯产业共赢基金(テンセント産業共贏基金)」から1億米ドル(約110億円)を調達した上海基分文化传播有限公司(シャンハイジーフェンウェンフア)が挙げられます。同社は、2012年設立で「趣头条(チウトウティアオ)」というニュース情報アプリを2016年にリリース、利用履歴に応じてユーザーに適した情報提供を行えるビッグデータ分析アルゴリズムが強みです。登録ユーザー数は約7,000万人(2017年時点)でアクティブユーザーが約2,000万人、競合サービスとしては約3.5億ユーザーを持つ「今日头条(ジンリートウティアオ)」で、こちらはアクティブユーザーが3,500万人です。

 

4月には、「朗玛峰创投(ランマーフォンベンチャーキャピタル)」から資金調達をした上海灿星文化传媒股份有限公司(シャンハイツァンシン)が挙げられます。この会社は、2006年設立で、テレビ番組制作や出版を手がけており、人気歌番組である「中国好声音」や「中国好歌曲」などをプロデュースしています。

2018年1月より上場準備を進めており、4月のPre-IPO段階での調達額は未公開ですが、7月には更にテンセント音楽部門、アリババより3.6億元(約61億円)を調達し、上場間近とみられています。

 

5月には、シンガポール政府系ファンド「GIC新加坡政府投资公司」、米国系ファンド「华平投资(ファーピン)」、カナダ系ファンド「加拿大养老基金CPPIB(カナダ年金制度投資委員会)」から調達をした蚂蚁金融服务集团(アントフィナンシャル)が挙げられます。同社は、電子決済プラットフォームとしてウィーチャットと並んで広く使われているアリペイを展開するアリババグループ企業です。今回の大型調達ではブロックチェーン及びAI関連での技術強化、またアジア圏への進出強化をするとみられています。同社は最近パキスタンへ進出しており、アジア圏を含め、海外展開を加速させています。

 

6月には上海・広州の証券会社である「东方证券(ドンファンジェンチュアン)」と「广发证券(グアンファージェンチュアン)」、更に中国の理系の名門である清華大学系のファンドである「清华控股(チンファーグーコン)」から調達をした无锡华云数据技术服务有限公司(ウーシーファーユン)が挙げられます。同社は2010年設立で、ストレージ、セキュリティ、ビッグデータ解析などのクラウドサービスを展開、全世界に20のデータセンターを有しています。

 

同じく6月には、米系の「セコイアキャピタル」、「セコイア中国」などから資金調達をした北京比特大陆科技有限公司(ビットメイン)が挙げられます。同社は世界最大のマイニングマシンの開発・製造企業で、半導体チップのオーダーメイドなども行っており、世界のマイニングマシンシェアの約90%を占めています。2018年末に、香港への上場が見込まれています。

 

7月には、香港を拠点とし中国・米国・欧州などグローバルの医療領域を得意とする「汇桥资本(フイチャオ)」、フランスのバイオテクノロジー企業が母体となっている「梅里埃(メイリーアイ)」から調達をした天士力生物医药股份有限公司(タスリー)が挙げられます。同社は2001年設立のバイオケミカル企業で、心血管疾病治療薬を主軸に、漢方、化学薬品、生物薬品まで広く研究開発を行っています。同領域最大のユニコーン企業として注目されており年内に香港へ上場が見込まれています。

■Pre-IPOに参画した中国系VCの概要

2018年8月までのPre-IPO案件に参画している中国系VCの内、テンセント系の「腾讯产业共赢基金(テンセント産業共贏基金)」、「朗玛峰创投(ランマーフォンベンチャーキャピタル)」について紹介します。

 

  • 腾讯产业基金(テンセント産業共贏基金)

下記表の通り、直近3年間の投資件数は166件に上り、その内、次のラウンドへ進んだ件数が36件、その中で継続投資件数が25件となっています。全投資案件を投資ラウンド別で見ると、Aラウンド、Bラウンドで過半数を占めています。

投資領域は上位3位がゲーム&アニメ、交通&移動、フィンテックとなっており、テンセント社の主要事業が軸になっています。

出所:創業邦(CYZONE)より リブ・コンサルティング作成  https://www.cyzone.cn/d/20150521/401.html

 

  • 投(ランマーフォンベンチャーキャピタル) 

下記表の通り、直近3年間の総投資件数は23件、その内、次のラウンドへ進んだ件数が4件、その中で継続投資件数が2件となっています。全投資案件を投資ラウンド別で見ると、Aラウンドが過半数を占めており、Bラウンドまで含めると約7割を占めています。投資領域は上位3位がハードウェア、医療&健康、電子商取引(EC)となっています。

 

出所:創業邦(CYZONE)より リブ・コンサルティング作成  http://www.cyzone.cn/d/20150528/451.html

■サマリー:弊社からのメッセージ

今回は、「中国におけるVC(ベンチャーキャピタル)のベンチャー企業向け投資」というテーマにおいて、どの様なVCや企業があり、どの様な領域で投資をしているもしくは受けているのかをご紹介しました。
アントファイナンシャルの約1兆円という莫大な調達額に代表される様に、将来性があるビジネスモデルや画期的な技術を持った企業は、資金調達環境という面で現在の中国以上に恵まれた環境はないと言えます。各産業における中国市場規模が伸びる中、中国市場参入を目指す国外内ベンチャー企業の中国VCからの資金調達は今後も増加すると考えられます。

今回取り上げた腾讯产业共赢基金(テンセント産業共贏基金)の親会社であるテンセントでは、売上の約40%をオンラインゲームが占めています。ゲーム・アニメの領域は景気に左右されにくい領域とも言われております。既に中国の大都市では、スマホゲームに集中している若者や子ども達をよく目にします。
昨今日本でもプロチームができるなど注目を集めるeスポーツ(エレクトニックスポーツ)は、2018年にインドネシア・ジャカルタで行われるアジア競技大会(アジアオリンピック)ではデモ採用され、2022年の中国・杭州大会ではメダル種目として正式に採用が決まっています。実は、その採用された6種目の内、テンセントが開発元、または代理権を持っているものが3種目あります。深センの大型商業施設ではeスポーツが観戦できるバーもあり、テンセントがスポンサーになって全国大会を行ったりもしています。ゲームがただのゲームだけでなく、スポーツとして市場拡大していく動きの中、優良なIP開発も見据えたゲーム・アニメ領域への投資戦略をしていると言えます。

一方で、朗玛峰创投(ランマーフォンベンチャーキャピタル)の投資領域トップはハードウェアで、同社直近の水中ドローン(ROV-Remotely operated vehicle)の領域は非常に注目を集めています。2018年に東京で行われたジャパンドローンでも代理店が展示ブースで数種類を紹介するなど、空中からの拡張として話題となっています。ランマーフォンの投資先企業は天津ですが、深センでも2社が参画しており、その内1社は空中ドローンの画像データ転送技術を水中にも応用しており、間も無く量産体制に入る計画です。海洋調査や船の点検の他、マリンスポーツの撮影など、空中ドローンと同様に様々な活用方法が模索されていますが、空中に比べ落下リスクなどがないため、法的な制約は少ないと考えられています。まだ産業利用が多く価格帯が高価なので、一般ユーザー向けで手軽に使えるモデルが出てくれば、新たな映像表現のツールとしてドローンの様なブームになると考えています。

今後も中国VCに注目してきたいと思います。

 

担当者:マーケティング&セールスグループ コンサルタント 中村圭佑

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