新規顧客の開拓に限界が生じている成熟産業において、既存顧客からの収益拡大は重要な課題です。
既存顧客に対する、顧客生涯価値(Customer Life Time Value)の向上と、顧客の紹介・口コミ価値(Customer Recommend & Referral Value)の向上という2つのアプローチによって、営業力を強化し既存顧客からの売上を最大化します。
紹介営業の仕組みを構築し、既存顧客に対する、顧客の紹介・口コミ価値(Customer Recommend & Referral Value)の向上を実現することも、営業力強化における重要な要素です。紹介特性の高い顧客属性のセグメンテーション、紹介につながりやすい満足要因の特定などから、具体的な紹介営業のステップ構築までを行います。
弊社では、さまざまな業界における紹介トップセールスの行動を分析し、「紹介営業の6ステップ」として、成功に必要な手法を体系化しています。「特定依頼」「活動指定」などといった紹介営業ならではの手法をインストールすることで、紹介営業・口コミ営業による新規顧客の開拓数を格段に向上させます。
既存顧客に向けたリピート営業や紹介営業は、短期的には成果が出ても、現場レベルでは新規営業が優先されてしまい、中長期的には定着しないケースがほとんどです。弊社の営業力強化コンサルティングでは、成果が継続できるよう、活動の活性化施策、継続的なPDCAを回すための情報管理の仕組みなども合わせて設計し、中長期的な営業力強化を実現するための土台を構築します。
多くの人は、情報伝達において重要なものが情報の量ではないことに既に気づいています。情報の価値は、量から質へと切り替わっています。情報伝達の信頼性について揺るがないのが「紹介・口コミ」です。
Nielsen Global Consumer Survey(2009年4月)の宣伝媒体/情報ソース別の信頼度の調査結果では、知人からの推奨(90%)、インターネット上の消費者の意見(70%)、企業(ブランド)ウェブサイト(70%)の順になっています。現在では、従来の4大メディアと言われてきたテレビ、ラジオ、新聞、雑誌などからの情報よりも、「知人からの推奨」という、相手が見える、わかる「紹介・推奨」による情報が最上位になっています。
4大メディアを中心とした従来のメディアだけでは、顧客に接触するのは難しくなっています。インターネットの普及で顧客が触れる情報量は飛躍的に増加している一方、そのほとんどは顧客の頭に残っていません。情報の価値は「量」ではなく、「信頼性(質)」に切り替わっています。
日本能率協会が実施した「当面する企業経営課題に関する調査」によれば、上場、非上場を含む日本企業の多くが認識している経営課題の1位は「売上・シェア拡大」(55%)、2位は「収益性向上」(48%)です。また、現在取り組中、今後取り組み予定の重要な戦略対象は、「販売・マーケティング機能」(60%)が組織・人事領域や研究・開発領域を抑えてトップとなっています。
企業経営者たちは、売上・シェア拡大、収益性向上という課題を強く意識し、そのために販売・マーケティング戦略の強化を常に念頭に置いています。これは企業経営にとって終わることのない永遠の課題です。
販売・マーケティング戦略の強化を図るテーマの1つがCRM(Customer Relationship Management、顧客関係管理)です。
既存顧客との関係性の中からいかにして次の売上を上げていくかという点が本来のポイントです。多くの企業では「顧客第一主義を貫いていけばビジネスは自然とうまくいく」という曖昧な形で解釈されています。
「お客様は神様」と日本ではよく言われますが、この発想には常にハイレベルな商品品質、サービス対応が必要とされます。その結果、ジャパンクオリティは過剰品質と言われ、結局それが割高な商品価格や社員の長時間労働につながっています。品質向上自体は弊害でなく、品質向上後に既存顧客からのリターンの最大化を設計することが重要です。
企業は、「顧客との関係性を管理するCS(顧客満足)からいかに収益を上げていくかを設計する」ことについて考えていくことが必要です。
ヘスケット、サッサー、シュレンジャー著の「カスタマー・ロイヤルティの経営(1998年)」では、顧客との関係性が収益に与える影響に関して、「①単価」、「②頻度」、「③関係の長期化」が既存顧客を維持するために重要である一方、新規顧客の創出には「④紹介・口コミ」が重要であると説明しています。
商品の特性として、低頻度商材は紹介・口コミにより新規顧客の拡大に頼る部分が多く、高頻度商材は既存顧客の継続・維持が達成できれば事業として成立する時代が長く続いてきました。
社会が成熟化し、顧客の情報に関する意識、行動の変化を鑑み、収益と顧客との関係性を検証し、最適化することが重要です。
紹介・口コミから顧客を創造することが大事であるということに異論はないと思います。その取り組は、大きく2つに分かれています。具体的には、企業活動において、①紹介・口コミを最重要ポイントとして強化していきたい企業群、②もし可能なら紹介・口コミができたらいい程度に捉える企業群、の2つです。この違いは、個社における戦略の優先度の差異だけでなく、提供する商材やサービスの差異が影響しています。
最重要ポイントとして強化する企業群が提供する商材は、主に自動車や住宅など、購買頻度が高くない、低頻度商材です。可能なら紹介・口コミができたらいいと捉える企業群が提供する商材は、主に美容室や飲食店など、購買頻度が高い、高頻度商材です。
これまでの日本経済は、既存顧客の満足度を向上させ、リピート客を増やす「CS第一主義⇒既存顧客維持」というビジネス構造で発展してきました。これらに加え、社会の成熟化や顧客の情報に関する意識、行動の変化を鑑み、「紹介・口コミ」の発生を前提とした事業モデル、仕組みやプロセス(制度)の設計が必要です。
プロセス設計は、社員の活動において、①適切なプロセスを設計する、②プロセスを教える、③実際に現場で実施する、④顧客視点からプロセスの有効性を検証する、の4ステップで実施します。
従来、現場で考え、主体的に行動する傾向が強く、思いやりや配慮など個人の経験をベースに実行し、顧客も何となくサービスに満足していました。
紹介・口コミを引き出すには、「何となく満足」「特に不満はない」レベルの満足では十分ではありません。「大変満足した」と思ってもらえるように、企業活動、事業の仕組みなどを見直し、強化することが重要です。CLV重視から、CRV重視への転換と言えます。
CRV戦略のキーワードは、①コンタクトポイント、②能動的アプローチ、③タイミングの3つです。
既存顧客にリピートを促すことを目的とするのであれば、満足レベルの商品、サービスで十分です。例えば、行きつけの美容室がある人の多くは、特に不満はないので何年も通い続けているケースがほとんどです。
自分にとって「まあ、いいか」と思う程度の美容室を他の人に進めることがあるでしょうか。カットの技術、ヘアスタイルのデザイン、お店の雰囲気など、何か1つでも「すごい」レベルがないと薦めることはないのではないでしょうか。
既存顧客の心を大きく動かす感動が1つでもあることが必要です。「通常の満足」を「大きな満足」へ、さらに「感動」へと進化させる「仕掛け」が重要です。仕掛けの最適化において重要なことは、「コンタクトポイント(顧客との接点)」です。例えば、自動車販売の従来の伝統的なコンタクトポイントは、①CMやラジオ、②ホームページ、③チラシ、④来店/車販、⑤納車、⑥点検、⑦車検です。このように可視化することで、来店前から顧客との接点が始まっていることがわかります。①CMやラジオ、②ホームページ、③チラシなどの媒体は、顧客にとっては既に欲しいクルマや販売会社との出会いの場です。この顧客接点の流れの中で、感動を引き起こすための仕組みを構築し、制度化することが重要になります。
全体視点から感動を引き起こすコンタクトポイント、個別のコンタクトポイントの位置づけを明確にすることが投資対効果を高めるためには必要です。実際のコンタクトポイントでの活動は、個人の経験など属人的なものではなく、組織としてWhy、What、Howをセットとして体系化することが重要です。
一般的なビジネス書では、丁寧な対応をすれば自然に紹介・口コミが増える、紹介・口コミの強化に重要なのは、企業や営業担当者の心がけである、という内容を見かけます。これだけで十分でしょうか。
紹介・口コミから契約を取れる企業と取れない企業があります。扱う商品の内容や値段に差がなくても、なぜか一方は次に紹介を受けて契約が成立し、他方は振るわないことがあります。
「紹介・口コミ」は、自然発生的にわき起こるものではありません。企業が、紹介・口コミの発生というゴールを設定し、そのプロセスの繰り返し(PDCA)で精度が向上します。狙ったタイミングでこちら側から仕掛ける紹介活動への「能動的アプローチ」が重要です。
情報の量が飛躍的に増加している現在では、時間との関係、「タイミング」が重要になります。短時間アプローチとは、顧客が「いいな」と思った瞬間に、紹介なり口コミのアプローチができるようになっていることです。情報過多の現在において、適切なタイミングを逃してしまうと、多くがそのまま忘却されてしまいます。紹介を誘導するには、迷う時間、隙間時間などの短時間でできるアクションをナビゲートすることがポイントです。
顧客に対して紹介や口コミの仕方をいかに短時間で誘導できるかが重要です。具体的には、「こういう風に宣伝してください」「こういう活動をしてください」「周囲の人に広めてください」と顧客に対して具体的な行動をナビゲートすることです。
このためには、①事前の仕組み構築と、②実際の現場での行動に関するツールの準備および習得、の2つを実施します。
1つ目の事前の仕組み構築は、「CSが高まった時に何をすべきか」「紹介候補が出た時に何をすべきか」を明確にし、企業、個人レベルで仕組みとして設計することです。
2つ目の実際の現場での行動に関するツールの準備および習得では、「短時間でアプローチを完結させる」ことです。顧客から「そういえば、こういう知り合いがいた」という言葉を引き出せた時、「紹介をお願いします」に留まっていないでしょうか。必ず「今、電話かけられますか」「今、メールを送ってもらえますか」「LINEで書いていただけますか」と一歩踏み込んだアプローチをする、相手にアクションを選ばせるのではなく、「このカードを郵送してもいいですか」「名刺をいただけますか」「電話をかけて、これを言ってください」と、相手がすぐに対応できるような具体性のある行動をナビゲートし、こちらが主導権を握ることがポイントです。
紹介営業に必要な顧客選定の方法の4Sを説明します。4Sとは、セグメンテーション(Segmentation)、サティスファクション(Satisfaction)、セールス(Sales)、システム(System)です。
経営資源は無限ではありません。全ての顧客をターゲットにすることは生産性、効率性の面で課題があります。セグメンテーションとは、顧客を分類し狙いを絞り込むことです。
紹介・口コミを発生させている過去客が自社の何に対して満足しているのか、どのような顧客属性を持つのかについてルール付けをする、選定・分類することは、将来の新規顧客をこの分類に入れるには何をすべきかを考える基準となります。
ある企業で顧客をセグメンテーションした時、「企業ブランドへの満足度が高く、接触日が近い顧客は紹介発生率が高い」という結果が出ました。この場合、顧客へのアプローチの仕方として、①企業ブランドの伝達を強化する(広告、営業)、②一定周期で顧客と接触する機会をつくる、という予測をつけることができます。ここまで決まっていれば、ファーストコンタクトから購入までブランドの説明を強化したり、新商品のDM発行の間隔を短くしたり、アフターケアのサービスを追加するなど、具体的な施策が打ちやすくなります。
CRMで満足度を上げてリピートを促すアプローチとして、RFM分析があります。RFM分析は、「Recency(最新購買日)」「Frequency(購買頻度)」「Monetary(累積購買金額)」の3つの視点から顧客をセグメンテーションする顧客分析手法です。
受注・売上実績から、顧客ランクを自動で付与するものです。具体的には、最近会っているか、最近どれくらいの頻度で購入しているか、過去にどれくらい買ったか、の3つの視点から顧客を分類し、結果に基づいて次はどれくらいの金額を購入するかを予測します。CLVをベースとした顧客のセグメンテーション方法の1つです。
紹介は、繰り返しの購入ではなく、紹介・口コミが目的であるため、「紹介意向(紹介実績と推奨度)」「満足度」「最新接触(最新購買日)」をベースに判断します。顧客をランク分類することで、費用や時間に応じた適切な紹介活動を選定することができます。
紹介戦略において、顧客の声を直接聞くCSアンケートは必要不可欠な情報です。CSアンケートを活用することで、顧客との関係性に関する情報を企業資産として蓄積することが可能です。
低頻度商材の場合、紹介の元になる情報を収集する以外にも、発掘ルートや購買決定要因を明確にすることができます。高頻度商材では推奨度はおろか、満足度すら取得していないケースもあります。継続的な購入につながっているのは満足度が高いと判断できるので必要がない、または頻度が多い分、毎回購入するごとにアンケートを採っていてはきりがない、などという考え方もあります。
「CRV経営」を目指すのであれば、「継続されている」だけでは情報としては十分ではありません。初回購入のタイミングなど、何かしらのタイミングでCSアンケートを実施するなど、工夫が必要です。
CSアンケートの項目として、①総合満足度、②業務工程別満足度、③満足度要因(個別)、④購買決定要因、⑤接触ルート、⑥紹介・口コミ実績、⑦推奨度と、必要に応じて⑧推奨候補、⑨ネットワーク保有度、⑩属性情報などがあります。
既存顧客の分類において最上位にあり、紹介意向の高い(Sランク)の優良顧客の比率が高くなれば、企業の資産は貯まります。Sランクの優良顧客をいかに生み出すか、普通の顧客をSランクまで引き上げるにはどのような方法があるでしょうか。
紹介戦略を考える時、推奨度の高い顧客をどれだけ生み出していくことができるかは、重要な課題の1つです。そもそも何が推奨度に強い影響を与えるのか、を明確にすることが重要です。BtoCの場合、主な要素として「満足度因子」「年齢」「年収」「接触ルート」などと推奨度との相関関係を分析した上で見つけていきます。
満足度と推奨度の関係では、ジェームス・L・ヘスケット、レオナード・A・シュレシンジャー著の「カスタマー・ロイヤルティの経営」で顧客の満足度とリピート率との関係をまとめた「ホッケースティックモデル」があります。顧客の満足度とリピート率の関係は、「非常に不満」から「満足」まではゆるやかに右肩上がりで推移し、「非常に満足」になると急激に上昇します。これはCLVにおける「大変満足」の重要性を示していると言えます。推奨度を考える場合、「満足」レベルではなく、「大変満足」レベルにより注力することが重要です。
対象顧客が紹介行動に出やすいタイミングがあります。それは満足度や関心度がとても高い時です。企業は、「満足度や関心度が非常に高いタイミング」に「紹介行動を促すきっかけをいかに顧客に提供していけるか」が重要になります。
元ハーレーダビッドソンジャパン代表取締役の奥井俊史著の「日本発ハーレーダビッドソンがめざした顧客との「絆」づくり」では、「ハーレーのある生活ということを売るマーケティング」の実践を「紹介しています。
ハーレーは、乗る、創る、装うなど「10の楽しみ」を提案しています。例えば、「乗る」楽しみでは、単純に走行距離を争うサークルがあります。バイクオーナーたちが定期的に集まり、特定期間での走行距離を競うコミュニティです。また、「創る」では、バイクのパーツをカスタマイズすることをテーマに、メカ好きが集まって、パーツ自慢や情報交換を行うコミュニティです。
「顧客との関係性は、ブランド(企業)の歴史や伝統の共有を現実の体験として提供し続け、その感動体験を通して形成されるコミュニティにおいて成立する」としています。コミュニティが顧客と企業との絆を深める場であり、同時に新しい顧客を呼び込む場となっています。
紹介・口コミ戦略として進めていくためには、企業側からアプローチを仕掛けていくことで確実に多くの紹介を得ることができます。営業やマーケティングなど具体的なアプローチが欠かせません。組織として「大変満足」レベルまで品質を上げることに投資を行い、営業アプローチで満足度を最大化し、紹介につなげて収益化する活動が有効です。
行動特性におけるベストプラクティスの要素は、①マインド、②タイミング、③テクニックです。
◎マインド
セールス視点で紹介を考えた時、一番高いハードルは、そもそも営業組織として紹介のアプローチをする習慣があまりないことです。
以前「紹介に対する実態調査」を実施したところ、営業担当者への「紹介の依頼を顧客に対してしっかりお願いしていますか」との問いでは約50%の方が「紹介依頼をしています」と回答がありました。一方、顧客側の「営業担当者から紹介依頼をされたことがありますか」「紹介アプローチを受けたことがありますか」の問いに「ある」と回答したのは20%でした。これは営業担当者のアプローチが弱いか、顧客の認識が薄いかのどちらかです。営業担当者を動かしていかない限り、営業の結果は出ず、その真のハードルはマインドにあることが多いと言えます。
営業担当者に対して、CLVからCRVの時代に変わりつつあり、紹介・口コミを大事にしないと営業の数字も上げられなくなっている現状や紹介のメリットを理解してもらうことがポイントです。
〇紹介のメリット
紹介のメリットというと、多くの人や組織は経費や安く済む、効率が良いなど、自社にとってのメリットを思い浮かべるでしょう。それは重要なことですが、それ以外にもあるのではないでしょうか。実際、紹介でうまくいっている人・組織は「三方よし」のマインドをベースに動いています。自社のメリットに加え、「紹介先」「紹介元」のメリットという考え方が浸透しています。
企業におけるメリットは、①広告費を節約できる、②契約率が高くなる、③契約が決まるまでの時間が短い、④次の紹介者が生まれやすくなる、などです。紹介元におけるメリットは、①紹介料などの特典を受けられる、②自分の体験談を伝えることで、友人、知人にも良い商品、サービスを知ってもらうことができる、などです。紹介先におけるメリットは、友人、知人が満足した商品、サービスなので、確実性がある、紹介特典を受けられる場合がある、などです。
◎タイミング
紹介の依頼をどのタイミングで実施するか、組織としてルール化されていますか。紹介を依頼するタイミングを組織として意識することが重要です。
紹介を依頼するタイミングは、契約時、納品時、納品1~3か月後、の3つです。紹介活動のスタートはできるだけ早いタイミングであることが効果的です。
◎テクニック
テクニックは、代表的なものとしてコンテンツの整理、ネットワークの把握、アプローチ、橋渡し依頼、リピート促進です。
〇コンテンツの整理
紹介・口コミを発生しやすくするためには、自社の特徴を「ナンバーワン」「オンリーワン」「ファーストワン」の視点から整理します。ここで言う自社とは、商品、企業、人(担当者)などが含まれます。自社のいいところは、案外気がつかないことがありますが、自社のいいところが買った人に伝わっていないと、買った人がうまく紹介・口コミができず、結果的に周りの人を引っ張ることができません。
紹介営業が得意な営業担当者は、新規営業も強いことが多い傾向です。それは「好感形成」「心頼形成」スキルを備えているからです。「好感形成」とは、コミュニケーションの取り方がうまく、顧客の警戒心を解いて相手の懐に入ることです。「心頼形成」とは、商品の知識量や先読み感から、しっかりしたプロとして認識され、顧客から半歩リードして営業というよりアドバイザーとしてのポジションを取れる、販売のプロフェッショナルとしてのポジションを獲得できていることを指します。
〇ネットワークの把握
紹介依頼をする前に既存顧客の人脈ネットワークを把握します。推奨度が高い層にアプローチすることになりますが、その中で当該客がどれくらいネットワークを持っているか、ネットワークマップを把握することが有効です。例えば、個人の場合では、仕事や趣味のつき合い、地元の仲間、学生時代の仲間など、多種多様のネットワークになります。
〇アプローチ
代表的なアプローチとして、大義名分と特定依頼を紹介します。
紹介アプローチの最初に「大義名分」を伝えます。大義名分とは、こちらの本気度と顧客のメリットの説明することです。紹介依頼をする前に、まず顧客に紹介のメリットを理解してもらうこと、顧客(紹介元)、紹介先、そして企業の3者がWin-Win-Winとなる未来を築くために紹介活動を積極的にやっていきたいという強い思いを届けることです。
紹介する人が思い浮かばないというハードルを克服するには、特定依頼が有効です。「特定依頼」とは、自社の商品、サービスを買うタイミングにありそうな人を特定しながら依頼することです。例えば、「車検のタイミングをむかえる方は、周りにいらっしゃいませんか」「最近お子さんが大学に行かれた方はいらっしゃいませんか」など、相手が紹介先を思い浮かべやすくすることです。
〇橋渡し依頼
紹介候補が出た際に、自身、紹介元、紹介先の3者をその時、その場でつなげる橋渡し依頼を行います。紹介いただけそうになった場面で、「もし可能であれば、今、お電話をかけていただけますか」「3者で会う場を作ってもよいですか」など、もう一歩踏み込んだアプローチをすることが有効です。
〇リピート促進
紹介実績が既にある顧客から更なる紹介を発生させるために、個人、チーム、制度のフレームごとに手法を変えて活動します。例えば、個人では進捗報告の徹底、チームでは情報共有によるVIP対応、制度では紹介料マイレージ制度などがあります。
システムは、成果創出パターンを広範囲で実現、継続するために組織で運用する制度(ルール)のことです。体系化するシステムは、主に①管理指標、②ツール、③経営層の役割の3項目です。
紹介に関する管理指標を設定されていますか。紹介・口コミからの売上高、契約件数、契約比率などの管理指標は、結果指標です。成功パターンに再現性や継続性を持たせるという観点では、結果指標だけでなく、先行指標も必要です。代表的な先行指標は、紹介からの本提案の件数、橋渡し依頼からの3者面談の数、紹介からの面談数などのプロセス指標です。重要なのは、最終結果と相関の強い指標を先行指標として設定することです。代表的な先行指標は、ターゲット件数、Sランク件数、顧客満足度・推奨度、ネットワーク把握数、紹介依頼数、紹介活動協力依頼数などです。
ツールは、社内向けマニュアルと顧客向け紹介ツールの2つがあります。
◎社内向けマニュアル
営業の仕事の範囲をどこまでと定義されていますか。「契約を獲得するところまで」と考えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。営業担当者が紹介に取り組んでいないのは、「紹介営業ができてこそ一人前」ということを企業側が明確にしていないことが影響しているかもしれません。
紹介・口コミを鑑みると、「契約してくれた顧客にいいサービスとして満足していただき、次の顧客を紹介してもらうところまで」とすべきです。契約後対応、紹介獲得までを業務範囲とし、マニュアルに組み込んでおくだけで、組織として紹介活動が業務の当たり前となるでしょう。
◎顧客向け紹介ツール
顧客向け紹介ツールは、①セグメンテーション用紹介ツールと②セールス用紹介ツールがあります。
代表的なセグメンテーション用紹介ツールは、CSアンケート、コールスクリプト(メール、チャット)です。
CSアンケートは、多くの企業で実施されていますが、紹介・口コミ実績や推奨度などの項目が含まれていることが望ましいです。具体的には、顧客満足度に関する項目に、紹介意向と満足度因子を追加することです。
コールスクリプトは、CSアンケートの回収率が低い場合は、外部にコールセンターを活用し、電話で直接顧客の声を確認することも有効です。この時、電話用のコールスクリプトを揃えておくと、回答の有効性を向上させることができます。電話だけでなく、メールやチャットも同様です。
代表的なセールス用紹介ツールは、タイミング別アプローチプラン、ネットワーク把握資料、紹介アプローチブック、紹介制度一覧表があります。
タイミング別アプローチプランでは、顧客への実際のアプローチとしてどのターゲットにどのタイミングでどのようなアクションを取るかがとても重要です。業務を平準化するためにも、アプローチ方法をルール化しておくことが有効です。目安となるのは、満足度、関心度の推移です。
ネットワーク把握資料は、自社商品から派生して、家族、子供、友人のこと、仕事、趣味などの情報を幅広く拾うべく、項目を設定し、収集します。
紹介アプローチブックは、キャリアに関係なく、一定品質の紹介アプローチを可能にします。
紹介制度一覧表は、紹介元の顧客や紹介先の人への特典を一覧表にまとめておくことです。
経営層の役割は、「紹介に対する本気度」と「紹介は良い活動であるという信念」を示すことです。
自社にとって、「なぜ紹介が必要なのか」を明確なビジョンとともに社員に伝えることは経営層にしかできません。成熟社会となり、CLVからCRVに流れが変わっている中、紹介活動を進める意義をきっちり伝えることが経営層の役割です。
紹介活動がいいものであるという確信を経営層がどれだけ信念をもって語れるか、紹介・口コミでビジネスを広げることはいいことであるというマインドを当たり前のものとして発信することが重要です。
関厳. 経営戦略としての紹介営業―――成熟市場で必要なこと. あさ出版