2023.02.06

ジョブ型人事制度に失敗する理由

ジョブ型人事制度とは、高いスキルが必要な業務など特定の業務に対して遂行できる人材を採用する雇用方法です。あらかじめ職務内容や勤務地、勤務条件などを明確にしており記載されていない業務は対応する必要がありません。企業側としては業務を遂行できる即戦力の人材を採用でき、採用される側としては望んでいる業務に付けるメリットがあるのです。

しかし、メンバーシップ型人事制度を長期間導入し現在でも多くの企業が活用している日本において、ジョブ型人事制度の導入は企業にとって一大改革です。十分な準備や理解がないと失敗しやすくなります。

ジョブ型人事制度とは

日本では長年メンバーシップ型人事制度といったゼネラリストを育てる方針が主流でした。特に新卒採用の場合は、研修やジョブローテーションをおこなうまで配属が決まらないことが一般的です。そのため、人材を採用してから職務が決まるといった流れです。対して、ジョブ型人事制度は必要な職務に関する詳しい内容をジョブディスクリプションに記載することで、職務内容や必要なスキル、勤務地などをあらかじめ明確にした状態で採用するのが特徴です。

ジョブ型人事制度も重要が高まった理由

ジョブ型人事制度の需要が高まった理由として、経団連が経営労働政策特別委員会報告においてメンバーシップ型人事制度を見直すべきと提起したのです。Society 5.0時代において市場において海外の企業に負けないためには、従業員一人ひとりの能力を基準とした雇用をするべきだといった内容です。

さらに、新型コロナウイルスの影響により在宅勤務やテレワークといった働き方の多様化の需要が高まりました。メンバーシップ型人事制度では、コミュニケーション不足や業務管理のしにくさといった課題があり、多様な働き方に対応しやすいジョブ型人生制度にスポットがあたったのです。

ジョブ型人事制度の必要性が高まったなか、多くの企業がジョブ型人事制度を導入し始めました。長年続いていたメンバーシップ型人事制度から大幅に企業改革をするケースが多く、雇用法においての転換期といえます。

ジョブ型人事制度の特徴

ジョブ型人事制度とは、特定の業務に対して必要な人材を採用する雇用方法です。業務に必要なスキルや経験、そのほか勤務地や勤務時間などをジョブディスクリプションに明記した状態で採用します。ジョブディスクリプションに記載していない業務をすることはありません。そのため、労働者は自分のスキルを活かせる機会を得やすいのです。

ジョブ型人事制度を導入するメリット

ジョブ型人事制度を導入する企業側のメリットとして、優秀な専門知識を持つ人材を必要なタイミングで採用できる点です。さらに、業務内容を明確にしていることから生産性の向上につながり、結果的に人件費削減にもなります。

さらに、ジョブ型人事制度においては即戦力の人材を採用できることから、研修や教育が不要です。そのため、外部研修費用や社内でおこなう研修費用などの費用削減が可能です。

労働者側においても、自分が持つスキルを最大限に活かせる業務に付ける点や、ジョブディスプションに書かれた業務内容以外は対応する必要がない点です。メンバーシップ型人事制度では、自分が考えていないような業務をする必要があるため、ジョブ型人事制度においてモチベーションが上がる可能性があります。

ジョブ型人事制度を導入するデメリット

企業側にとってジョブ型人事制度のデメリットは、ジョブディスクリプションに記載していない職務を依頼できない点です。職務以外にも転勤や異動などにおいても依頼することは不可能です。さらに、業務を限定することによって応募者が減ることが一般的であり、高いスキルを持った人材を採用できない可能性があります。

労働者側でいえば、ほかの業務がしたくなっても出来ない点が挙げられます。キャリアアップのためにさまざまな業務をしたい人には向いていません。

ジョブ型雇用が失敗する背景

ジョブ型雇用が失敗するのは次のような背景が挙げられます。

  1. 外部労働市場が発達していない
  2. 日本の企業環境にあっていない
  3. 管理職のマネジメント能力が足りていない

外部労働市場が発達していない

日本では企業内部においの労働市場で人事権を発動する内部労働市場が発達しています。外部労働市場が発達している欧米にはジョブ型雇用がマッチするのですが、日本ではさまざまな人材が企業に参加する、もしくは既存の従業員が外部に出る流動性の高い環境はマッチしにくい環境です。

さらに、欧米は企業内だけでなく企業外との間にも市場価値や適用する職業組織などがあるため、社外の企業との間にもルールがあります。しかし、日本では企業ごとに労働組合があることから企業を横断したルールが設定されることはそれほどありません。そのため、外部労働市場が発達していない日本においてジョブ型雇用導入がむずかしいことは自然な流れなのです。

日本の企業環境にあっていない

日本は長年終身雇用や年功序列を含めたパートナーシップ型を導入しており、ジョブ型雇用は日本の企業環境に合っていない可能性があります。日本人は一致団結する性質があり、困った同僚がいれば助け合うことが一般的であり、ジョブディスクリプションに記載された業務内容以外はおこなわないジョブ型雇用が合わないケースがあるのです。そのため、個々の能力を重要視するジョブ型雇用を取り入れるのに抵抗がある場合は少なくありません。

管理職のマネジメント能力が足りていない

ジョブ型雇用を導入すると、管理職のマネジメント能力が求められます。ジョブ型雇用において大きな特徴として、人事部がマネジメントしていた人材マネジメントをそれぞれの部署に権限移譲することが挙げられます。つまり、職務の内容や目標、評価、報酬などは部署の管理職がおこなうことが必要です。そのため、ジョブ型雇用を導入するためには、管理職のマネジメント能力が求められます。

管理職者が部下一人ひとりの目標管理をマネジメントすることにより、スキルアップができるような環境作りができ、キャリア支援につながるのです。そのため、管理職者に対して十分な研修が必要であるほか、管理職者の負担を減らすことが重要です。管理職者が1プレーヤーである企業はマネジメントをしている余裕はありません。そのため、プレーヤーとしての負担を減らし、マネジメントに集中できる環境作りが求められます。

ジョブ型人事制度に失敗する企業の特徴

ジョブ型人事制度に失敗する企業には次のような特徴が挙げられます。

  1. メンバーシップ型人事制度からの切り替えができていない
  2. ジョブスクリプションが的確でない
  3. 従業員がジョブ型人事制度を理解していない
  4. 企業がジョブ型人事制度を理解していない

メンバーシップ型人事制度からの切り替えができていない

日本の企業では長らくメンバーシップ型人事制度を採用しており、近年でも変わりはありません。ジョブ型人事制度と異なり人材に対して仕事をあてがうことが特徴です。具体的に能力を評価する指標がないことから、年功序列の評価になりがちです。さらに、会社主導の雇用であることや長期雇用を基準としています。

メンバーシップ型人事制度を導入している企業が、個人の能力を重要視するジョブ型人事制度を導入すると制度の形骸化になりがちです。例えば、業務内容やスキルを把握していない担当者がジョブ型人事制度を運営しているケースがあります。

ジョブスクリプションが的確でない

ジョブ型人事制度を運営するためにはジョブディスクリプションが重要です。ジョブディスクリプションには、業務内容や範囲、必要なスキル、勤務地などを詳しく記したものです。ジョブ型人事制度の場合は、ジョブディスクリプションに記載された業務内容のみを対応するため記載内容が正確でない場合はあとからトラブルになる可能性があります。

従業員がジョブ型人事制度を理解していない

従業員がジョブ型雇用について十分に理解をしていないと、導入に失敗する可能性が高まります。従業員が理解していない状態で導入すると、思っていたような評価をされずに満足度が下がる可能性があるのです。満足度が下がると離職率が高まり、かえって逆効果となってしまうのです。

従業員が仕事の成果のみで給与が決まる成果主義とジョブ型人事制度を間違えて理解しているケースもあります。結果が出ないと給与をもらえない、解雇されるかもしれないといった誤解をする人は少なくありません。

企業がジョブ型人事制度を理解していない

企業側がジョブ型人事制度を理解していない場合もあります。スキルの高い従業員を採用しほかの業務を指示できないことからも、従業員の職権意識が強くなりすぎて対応しにくくなると誤解して考えることも少なくありません。日本では長年メンバーシップ型人事制度を導入しており、現在でも変わりありません。そのため、性質がまったく異なるジョブ型雇用人事制度を導入することは容易ではありません。

ジョブ型人事制度に失敗しないためのポイント

ジョブ型人事制度に失敗しないためのポイントは主に次の2点です。

  1. 両方の良さを残した雇用方法を導入
  2. 導入事例を参考にする
  3. 企業全体で取り組む

両方の良さを残した雇用方法を導入

メンバーシップ型雇用とジョブ型雇用を比較するケースが増えていますが、雇用方法は必ずしもこの2種類ではありません。企業によってはメンバーシップ型雇用とジョブ型雇用のよさを両方混ぜた雇用方法を導入しているケースがあります。例えば、一般的な職務に関してはメンバーシップ型雇用を導入し、高いスキルを必要とする職務のみジョブ型雇用を導入する方法です。

自社の特徴や扱う商品などに合わせて、自社オリジナルの雇用方法を設定する方法があります。

導入事例を参考にする

2020年以降多くの大手企業がジョブ型認定制度を導入しています。導入事例を明確にしている企業が多く、どのような効果があるのか参考にすることが可能です。日本では富士通や日立などがグローバル化に対応するため、ジョブ型人事制度を導入しています。ほかにもジョブ型雇用を導入している企業は多く、これからも増えていくことが見込まれます。

企業全体で取り組む

ジョブ型人事制とは、これまでのメンバーシップ型雇用とは大幅に異なります。そのため、企業を上げての一大改革となるため企業全体で取り組むことが重要です。経営側、従業員側ともにジョブ型人事制度において理解をしていないと失敗しやすくなります。

まとめ

2020年に経団連が経営労働政策特別委員会報告においてジョブ型人事制度を推進し、さらに新型コロナウイルスの影響があり、多様な働き方をしやすいジョブ型人事制度の需要が高まりました。しかし、いきなり性質の違うジョブ型人事制度に変革することはむずかしく、失敗する例が多くみられます。

失敗する例としては、既存の従業員側、企業側の両方がジョブ型人事制度を理解しきれていない場合が多くあげられます。そこで、ジョブ型人事制度とメンバーシップ型人事制度の両方の良さを取り入れたケースなど、さまざまな工夫をする企業が増えています。いずれにおいても、従業員一人ひとりのスキルを高められる職場環境は重要であり雇用体系を見直すべきタイミングだといえます。

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