2023.07.18

選択と集中とは

選択と集中とは、中核事業に経営資源を集中させて事業価値を高める経営戦略のことです。選択と集中を導入すれば業務効率化につながったり、コスト削減につながったりと自社の利益が得られます。

しかし、選択と集中には優秀な人材の流出につながったり、臨機応変な対応がむずかしかったりするのも事実です。選択と集中を経営戦略に活用するためには、特徴や注意点、成功事例などを深く理解する必要があります。

選択と集中とは

選択と集中とは、複数の事業を展開する企業が自社の中核事業を見極めて選択をおこない、経営資源を集中させる手法のことです。企業は分散していた資源を自社の得意事業へ集中させることで、競合他社との差別化を狙っています。

一方で、中核事業以外の事業は売却や縮小を実施する必要があります。バブル経済期や高度経済成長期などの場合は、経済状況が良好であったため、複数の事業を実施していても安定した利益を得られていました。

しかし、リーマンショックや新型コロナウイルスの感染拡大など経済状況が悪化していくにつれて、複数事業を同時に展開するのはむずかしくなってきています。企業の業績をより高めるためにも、選択と集中を自社に導入して多くの利益を獲得できるように努める必要があります。

事業の多角化との違い

選択と集中と似ている言葉に、事業の多角化と呼ばれる言葉が存在しています。事業の多角化とは、自社が取り組む事業を次々と増加させる経営戦略のことです。つまり、事業の多角化は選択と集中の対義語です。

事業の多角化を導入すれば、事業のリスクが分散できたり、社員のモチベーション向上につながったりします。しかし、事業の多角化には経営資源の分散や多額な投資コストの発生などさまざまな注意点が生じます。

選択と集中のメリット

選択と集中のメリットとして、以下の3つを解説します。

  1. 業務効率化につながる
  2. 飛躍的な成長が期待できる
  3. コスト削減につながる

業務効率化につながる

選択と集中を導入すれば、業務効率化につながります。自社内の限られた経営資源を中核事業へすべて投入できるため、効率的に業務が進められるからです。選択と集中をしたことで、中核事業の売上拡大やイノベーションの創出につながります。

選択と集中をしなければ、経営資源が分散されてしまうため、特定の事業の売上を伸ばしにくくなります。選択と集中を導入すれば、業務効率化につながってさらなる収益性の向上を目指せます。

飛躍的な成長が期待できる

選択と集中の特徴として、飛躍的な成長が期待できることが挙げられます。選択と集中を導入すれば収益性の高い事業にのみ経営資源を活用できるので、自社が獲得できる利益は向上しやすくなります。

また、選択と集中を導入することで、中核事業に関するイノベーションの創出が狙えます。今までほかの事業で業務へ携わっていた社員が全員中核事業に携わるため、さまざまなアイデアの創出が可能です。選択と集中を導入すれば、多くの経営資源を活用できるため、企業のさらなる飛躍的な成長が期待できます。

コスト削減につながる

選択と集中を導入すれば、コスト削減につながります。経営資源を特定分野へ集中させれば、組織構造の簡素化や業務プロセスの最適化につながるため、会社経営に関する費用の削減になります。また、中核事業のみに特化すれば、無駄な時間的コストを省けます。自社のコスト削減につなげたい場合は、選択と集中を導入するのが適しています。

選択と集中の注意点

選択と集中の注意点として、以下の2つを解説します。

  1. 優秀な人材の流出につながる
  2. 臨機応変な対応がむずかしい

優秀な人材の流出につながる

選択と集中を導入すると、優秀な人材の流出につながるおそれがあります。選択と集中によってコア事業のみの仕事に絞り込んだ場合、社員の業務希望と合わない可能性も十分にあり得ます。

社員の業務希望と合わなかったら、優秀な人材が流出してしまうかもしれません。また、会社で事業Aと事業Bがあった場合、選択と集中をすれば、事業Bが撤退し、事業Aに多くの経営資源を投入することになります。しかし、新たに事業Aへ導入した社員は事業Bの業務内容に対してまったくの未経験であるため、十分な成果を出せないかもしれません。

事業Bでは優秀な人材として活躍できる予定だったのに、選択と集中をして事業Aを選択してしまったせいで自主的に退職される恐れがあります。そのため、コア事業に関する業務研修をしたうえで、選択と集中の導入をするべきです。

臨機応変な対応がむずかしい

選択と集中は、臨機応変な対応がむずかしい傾向にあります。選択と集中は限られた経営資源を1つの中核事業へ集中投入することなので、大きな市場ルールの変化が発生した場合は、臨機応変な対応ができないかもしれません。そのため、選択と集中をおこなう際は長期的な視点をもって事業を進めていくべきです。

選択と集中の活用事例

株式会社日立製作所

株式会社日立製作所は、2008年9月に発生したリーマンショックがきっかけで過去最大7873億円の最終赤字を出したため、選択と集中を導入しました。その結果、日達製作所はカンパニー制を導入し、独立採算制(企業内にある部門を切り分けて、それぞれが利益を生み出すことを目指した経営方式)による迅速な事業運営に努めています。

また、日立製作所は経営資源を有効に活用するためにも、自動車機器関連事業や薄型テレビ事業など低収益の事業を撤退させています。

参考:残るは建機と金属、日立の「選択と集中」最終章(東洋経済)

キヤノン株式会社

キヤノン株式会社では、終身雇用型制度を守りつつ、パソコン事業を中心とした赤字事業を切り捨てて多額の利益を獲得できるインクカートリッジに経営資源を集中投入しています。また、キヤノンでは従業員の雇用形態を守りつつ、実力主義の賃金形態の導入を組合に認めさせています。

その結果、260億円の赤字削減につなげ、経営の健全化を実現しています。また、キヤノンは生産部門にセル生産方式を導入しています。セル生産方式とは、少人数の社員がセルと呼ばれるラインで製品の組み立て工程を完了させる生産方式のことです。

キヤノンはセル生産方式を導入させたことで、36,000人の生産要員を他部署へ移動させて87万平米の生産スペースを空けられたため、在庫削減につなげています。

参考:なぜ「選択と集中」は日本で失敗するのか?成功したキヤノンと武田薬品の巧妙な手法(Business Journal)

参考:日本のリーダーが語る世界競争力のある人材とは?(一橋大学)

まとめ

選択と集中とは、複数の事業を展開する企業が自社の中核事業を見極めて選択をおこない、経営資源を集中させる手法のことです。選択と集中を導入させれば、業務効率化やコスト削減につながって自社の業績が向上しやすくなります。

しかし、選択と集中には、優秀な人材の流出につながったり、臨機応変な対応がむずかしかったりとさまざまな注意点があることも事実です。選択と集中を導入するためには、自社の経営方針に合っているのかを確認する必要があります。

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