2022.07.23

タレントマネジメントの導入事例

タレントマネジメントとは自社の従業員の能力(タレント)を把握・管理することで、経営課題を解決し、事業を発展させる人事戦略をいいます。

タレントマネジメントにより従業員の活躍する機会を増やし、やりがいのある仕事を実現するため、社内環境の改善や従業員満足にも効果を発揮します。ただし、タレントマネジメントはあくまで事業発展のための一手段であり、タレントマネジメントが目的にならないよう気をつけなければなりません。

タレントマネジメントの導入事例

KDDI

大手通信会社であるKDDI株式会社では、2017年3月期から2019年3月期までの3年間にライフデザイン企業への変革という中期目標を掲げました。そのなかで社員力の向上を重要課題のひとつとして設定し、タレントマネジメントを導入しました。

KDDIのタレントマネジメントが優れている点は採用、育成、活用、登用を戦略的におこなうタレントマネジメントプロセスを構築した点です。制度、環境を最初に設計することで社内全体にタレントマネジメントの意義を周知し、協力体制をつくることに成功しました。

また、2021年4月にはKDDIプロパー全社員である約1万7000名を対象にタレントマネジメントシステムSAP SuccessFactorsを導入しました。人材が持つスキルやノウハウを体系的に管理することで大規模な組織のタレントマネジメントを成功させています。

楽天グループ

楽天ではBack to Basics Projectと呼ばれる人事改革プロジェクトを進めています。楽天の人事目標である勝てる人材育成を基準として、従業員の力を最大限に引き出すことが目的です。特に楽天では70以上の従業員国籍数を誇っており、ほかにはなかなかないような社内環境の変化があります。これほど多様でオープンな環境は日本ではあまり見られず、相互理解をするのは容易ではありません。この壁を乗り越えるためにも、Back to Basics Projectが重要になります。

取り組みを進めるために、楽天が取り組んだのが従業員へのインタビューや従業員に関するデータの多角的な分析、さらに人事スタッフ全員と面談をすることです。これらをすることで採用や育成、人事定着において進化をしていないことが明確になりました。そこで、事業に必要な人材の採用をしたあと長期的に活躍できるための育成、これらに加えて長期間努めたいと思えるような環境作りに力をいれました。

スタッフが一丸となって取り組んだ結果、1年半で成果が見え始めたのです。

参考:Corporate Topics:「Back to Basics Project」(楽天)

アサヒビール

アサヒビールのタレントマネジメントはシステムを効果的に活用している点が特徴です。これまで別々に管理されていた勤怠情報や評価データ、人事基礎情報などを人材の情報バンクとして一元化しました。パーソル総研が提供するタレントマネジメントシステムHITO-Talentが導入されています。これにより、どのようなスキルや経験を持った従業員がどこにいるかが可視化できるようになりました。

また、キャリアデザインシートやヒアリングシートを使って従業員が希望する働き方やキャリアをデータとして収集し、人材情報を定期的に更新することも重視しています。さらに、従業員が人事部に直接希望を伝えられるダイレクトアピールによって、従業員一人一人が自律的にキャリア形成ができる体制を構築しました。

ソニー

ソニーグループは創業以来、人材を群ではなく個と捉えてきたことから、早くからタレントマネジメントに取り組んできました。社員一人ひとりが個性、スキル、能力、クリエイティビティを最大限発揮できる環境を目指しています。

2008年頃から優秀なタレントを研修と配属を通じ育成するレバレッジ・タレントという仕組みを構築しています。研修制度によって育成した人材をもっとも能力が発揮できるポジションに配属することで、長期的な視点でキャリア形成を可能にしています。

このレバレッジ・タレント制度には国境も関係ありません。従業員のタレントと希望だけを考慮し、国を超えた人材の行き来を可能にしました。

日産自動車

日産自動車においては、HPP(High Potential Person)とよばれるタレントマネジメントを導入しています。HPPに任命された従業員を海外事業所に2年間従事させ、現地のビジネスを学ぶ機会を与えながら業績もチェックされます。出向した従業員は日本でさらに研修を積むといったエリート育成を進めています。

HPPを選出するのは社員評価をするキャリアコーチです。キャリアコーチは、社内においてすべての会議に出てヘッドハンティングをする権限があります。

キャリアコーチの仕事は、社内の人材を発掘し、各個人に合った育成プランを綿密に実行することです。キャリアコーチには、社内のあらゆる会議に立ちあい、内密にヘッドハンティング活動を行う権限が付与されています。「優秀な人材を手離したくない!」、「いま異動や海外研修に行かれたら困る!」という現場の意志や、直属の上司から得られる一方的な評価に惑わされずにサポートができるように、このような権利が与えられているのです。
引用:日産と日立の例に学ぶ、新たなリーダーの育成法(NTT東日本)

日立製作所

日立製作所では、従業員全員を人材のプールと捉えています。グローバル人材データベースを構築し、従業員一人ひとりの情報や行動特性、パフォーマンスなどを把握し、将来のリーダー候補を育成するシステムを展開中です。さらに、グローバルグレーディングシステムを導入し、マネージャーより上の人材育成にも力を入れています。

同社では25万人以上の従業員を統括するために、「グローバル人財データベース」というものを構築しています。ここには従業員の基本情報だけでなく、コンピテンシー(高い業績を挙げる従業員の行動特性)やパフォーマンスなどから判断して選び出された、将来のリーダー候補の育成経過も記されています。
引用:日産と日立の例に学ぶ、新たなリーダーの育成法(NTT東日本)

サイバーエージェント

サイバーエージェントにおいては人事部にキャリアエージェントを設定し、従業員一人ひとりの実績や評価、キャリア志向などをデータを収集しています。これらのデータを組織判断ツールを使うことで分析をして、この分析結果をもとに毎月1on1の面談をして人材の評価をしています。

GE(ゼネラル・エレクトリック)

GEでは従業員をパフォーマンスとポテンシャルの2つの項目から9マスの表を作成し、人材をその表にあてはめてリーダー候補者を選んでいました。世界中から副社長候補を見つけ出し、それぞれの地域ごとに副社長を設定しているのが特徴です。定期的に候補となるメンバーを集め合宿することによって育成や選抜を進めており、日本企業での同じような取り組みをしているケースが見られます。

サントリーホールディングス

サントリーホールディングスでは、ダイバーシティ経営を経営方針としています。このため、すべての従業員を対象にタレントマネジメントを進めています。従業員一人ひとりがやりがいをもって働けるような環境や能力を最大限発揮できるような状態を目指しているのがダイバーシティ経営です。

具体的には国籍や性別、年齢などで差別をしないことや成果に応じた人物や実力本位の評価を進めています。

参考:人事の基本的な考え方(サントリーホールディングス)

タレントマネジメント導入の失敗につながる事例

タレントマネジメントは、従業員の働きやすさとやりがい創出のために有効です。しかし、タレントマネジメントの本来の目的は人事戦略によって経営課題を解決することにあります。これらを正しく理解していない場合、タレントマネジメントがうまく導入できない可能性があります。

求める人材が不明瞭

どのような人材が会社に必要か、はっきりと定義されていない場合、採用のミスマッチが起こったり、育成計画がうまく立てられなかったりして、タレントマネジメントが失敗する可能性があります。

人材の調達、育成する際のゴールである求める人材像、もしくは企業としての優秀人材の定義を明確にすることが大切です。

導入目的が曖昧

導入目的(ゴール)を明確にしなければ、タレントマネジメントをすること自体が目的になってしまい、結果的にタレントマネジメントが成功しない可能性があります。

導入目的がはっきりしないままタレントマネジメントをスタートすると、社内で連携が取れず、集めたデータもうまく活用できない可能性があります。最初にタレントマネジメントによって何を実現したいのか、目的を明確にすることが大切です。

完璧を求めすぎる

最初からすべての人材データを完璧にそろえようとすると膨大なデータを扱いきれないという問題が発生します。人材のタレントはいくらでも細分化することができます。また、常に変化していくものです。

まずはデータ収集する部署を限定し、小規模少人数からはじめてください。

システムを活かしきれない

タレントマネジメントシステムを導入する際は、自社の組織形態に合ったものを選ぶことが大切です。そもそも多くの企業において採用と人材育成、キャリアマネジメントは別々のシステムのもと管理されています。タレントマネジメントシステムはこれらを統合し、複利的な活用を目指すものです。まずは大掛かりなシステム導入が前提となることを認識し、社内情報の整理をすることが重要です。

従業員の協力が得られない

タレントマネジメントを導入する際は社内の人材データを収集しなければなりません。しかし、従業員の協力がなければパーソナルなデータまで得ることはできません。社内にタレントマネジメントの重要性や意義を周知し、従業員自らがデータを提供するメリットをアピールすることが大切です。

タレントマネジメント導入成功のポイント

タレントマネジメントとは、従業員のタレントを把握することにより人材配置を適材適所に配置することによって生産性を高め、経営目標を達成する施策の1つです。

タレントマネジメントには次のような導入ポイントが挙げられます。

  1. 経営戦略を明確にすること
  2. 人材に関するデータを管理すること
  3. 最適な人材配置をすること
  4. タレントマネジメントの導入はゴールではない点を認識すること

経営戦略を明確にすること

タレントマネジメントは経営戦略に基づいた人材戦略が基準です。そのため、経営戦略が目的でないとタレントマネジメントに対して正しい評価ができなくなり、タレントマネジメントの導入そのものが目的化してしまうおそれがあります。

人材に関するデータを管理すること

タレントマネジメントを進めるためには従業員のスキルや経験、キャリア設計などといったデータを蓄積することが重要です。これらのデータを管理することで従業員のデータを明確に可視化できます。さらに、分析することにより、人材採用や評価、育成計画などに活かしていきます。

最適な人材配置をすること

タレントマネジメントをすることによって、従業員一人ひとりのスキルやキャリアプランを明確にして可視化することが可能です。そのため、最適な人材配置をすることにより企業が持つ人材の能力を最大限に発揮する環境が重要です。従業員にとって自分の力が最大限に発揮でき、評価されることによってモチベーションが上がるといった好循環につながります。

タレントマネジメントの導入はゴールではない点を認識すること

タレントマネジメントの導入を成功させるためには、導入自体がゴールではないことを認識することが重要です。導入の目的を明確にして定期的に導入に対する効果を測定することが求められます。

タレントマネジメントは短期では効果は現れません。少なくても3〜5年ほどの期間で計画を設定するべきです。結果を焦りすぎると逆に生産性が低下する可能性があります。

まとめ

タレントマネジメントとは、経営者やマネージャの視点で考えるこれまでの人材マネジメントと違い、従業員一人ひとりの能力やキャリアプランなどを重要視した人材戦略です。少子化の影響により労働人口が減少し、働き方改革の影響もあり働き方が多様化している現代において個々の能力を重要視することによって、経営目的を目指していきます。

従業員全員の能力を把握でき、的確な配置をできることから生産性の向上が見込めます。さらに、従業員にとっても能力を発揮できるポジションにつくことによって評価を高めることができモチベーションアップを期待することも可能です。

タレントマネジメントは、採用活用や人材育成にも影響があるなどさまざまなメリットが挙げられます。

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