2022.07.20

魔の川、死の谷、ダーウィンの海の事例からみる新規事業の推進

新技術の事業化を成功させるためには、さまざまな段階を踏まなければなりません。この段階は大きく分けて研究、開発、事業化、産業化の4つとされています。

魔の川(Devil River)、死の谷(Valley of Death)、ダーウィンの海(Darwinian Sea)とは新規事業を推進するにあたって、次の段階に移る際の困難を表現する経済用語です。これらの課題を乗り越えてこそ、イノベーションを実現することができるのです。

魔の川、死の谷、ダーウィンの海の事例

開発するプロダクト(商品、サービス)が多種多様に存在するように、魔の川、死の谷、ダーウィンの海の事例もさまざまです。新規事業を推進するにあたっては他社の事例に学ぶことが大切です。

魔の川の事例

A社は電話ができる腕時計の開発を目指した。電話機能の小型化のために研究開発を進めていたが、電話機能を丸ごと腕時計サイズにするために苦労していた。そのようななか、スマホと連動するスマートウォッチが発売されてしまった。A社はプロジェクトを諦め、それまで費やしてきたコストや労力が無駄になってしまった。

A社が魔の川にはまってしまった要因は、「競合商品の存在」と「消費者ニーズの変化」、「研究開発の遅さ」です。研究開発を進めているうちに、代替商品が登場してシェアを奪われてしまうケースは少なくありません。

死の谷の事例

価値の方向性がずれていた事例

B社は電話機能を搭載した腕時計を発売した。しかし、開発、生産、広報にかかるコストの割に興味を示す顧客は少なく、目標販売数には到底及ばなかった。B社は販売を取りやめたが、すでに投資済みの生産設備や人件費などが無駄になってしまった。

顧客分析が不足している時に陥りがちな、「顧客が興味を示さないタイプ」の死の谷です。提供すべき価値の方向性にズレがあると、優れた技術があってもうまくいきません。

予算不足が原因で失敗した事例

C社は電話機能の小型化技術を持っている。開発チームはこの技術を腕時計に搭載しようとしたが、会社の許可がなかなかおりず開発資金が不足していた。そのうちに、競合他社が現れ、同じような商品が発売されてしまった。

経営資源不足によって落ちてしまう死の谷です。従業員に対して予算の裁量を与えていない企業の場合に生じやすいといえます。

成果が長期間出せずに失敗した事例

D社は電話機能を搭載した腕時計を開発しようと研究を進めていた。しかし、開発期間が3年を経過したものの、うまくいく兆しがない。開発チームはモチベーションを失ってしまった。

優れた技術やノウハウがあっても、成果が長期間現れなければモチベーションは保てません。このように「成果の不在」は従業員のモチベーションを低下させ、死の谷へと落ちてしまいます。

死の谷に落ちてしまった実例

実際に死の谷に落ちてしまった事業の例には、2018年8月にローンチされたファンクラブ作成アプリであるCHIPがあります。4万人以上のユーザーを集めながらも翌年サービス終了となりました。クローズの原因には、ファン側の課題をしっかりと検証できていなかったことが指摘されています。

ダーウィンの海の事例

E社は電話機能付き腕時計を販売開始したが興味を示す顧客は少なかった。その後、徐々に認知されるようにはなるが、競合の参入もあり、プロジェクトは赤字に終わってしまった。

時代のニーズを読み間違えた点が大きな失敗要因といえます。いくら斬新なアイデアでも、市場が立ち上がっていない状態では売上につなげることはできません。商品化の時期が早すぎると、競合他社にヒントを与えてしまう可能性もあります。

ダーウィンの海を克服した代表的な事例はリチウムイオン電池です。リチウムイオン電池自体の開発は1980年代に始まっていましたが、パソコンが一般に普及し小型化するまでは、大きな売上は見込めず、長い間ダーウィンの海状態にありました。開発をやめてしまうと必要な時にすぐに動けないため、市場が熟すのを待ち続けた期間といえます。

魔の川、死の谷、ダーウィンの海、を乗り越えるために

リチウムイオン電池の例のように、魔の川、死の谷、ダーウィンの海は、適切に対応すれば乗り越えられる可能性があります。研究開発を進める際は、先々に待ち受ける課題を把握し、早めに検討することで、成功確率をあげることができます。新規事業のプロセスを理解しておくことが大切です。

新規事業のプロセス

新規事業のプロセスは市場調査フェーズ、企画フェーズ、事業推進フェーズの3つの工程に分かれます。

現在の段階はどこなのか、どのような取り組みをすべきかを常に確認しておくことが重要です。

1.市場調査フェーズ

戦略共有 ミッション、・ビジョンを共有し、どのように届けるかを考える
課題/ニーズ調査 どのような課題を解決すれば目標を達成できるか考える
アイデア出し 技術をどのように活かすか、アイデアを出す
領域選定 市場の状況とアイデアから、どのような事業化をするか検討する。

2.企画フェーズ

顧客/競合調査 顧客や競合となりうる企業などの調査をする
ペルソナ設定 最小のペルソナとなるユーザーを設定する
最小価値の検証 プロダクトの本質的な価値を定義する

3.事業推進フェーズ

製品開発 検証に基づき、うまくいきそうであれば開発にすすむ
量産開発 安定供給のための体制を整える
事業管理 事業目標を設定し、施策策定や管理を行う

まとめ

優れた開発研究であっても、新規事業として成功させるためにはさまざまな障壁が待ち受けています。自社のプロダクトについて事業化、産業化までのプロセスを整理することで、どのような状況で魔の川、死の谷、ダーウィンの海にぶつかるかをある程度予測することが可能です。

これらの課題をどのように解決できるかを考え、さまざまな対策を講じておくことで、プロジェクトの成功確率は上がります。魔の川、死の谷、ダーウィンの海にはまってしまう前に、これらからどのように抜け出すか、しっかりと考えることが重要です。

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