2023.03.28

アカウントベースドマーケティングとは

アカウントベースドマーケティング(ABM)とは、従来の低コスト広範囲で実施する手法とは違う、高コスト狭範囲で顧客にアプローチするマーケティング戦略です。実施にあたっては社内リソースをフル活用して全力で成約に持っていくので、専門チームとデータマネジメントシステムの構築が成功のカギを握ります。

中堅企業〜大手企業をターゲットにするケースが多い分、成約には相応の努力と時間が必要です。絶えず手法の評価改善を繰り返し、ターゲットに対してどれだけ尽くせるか、組織としての提案力が試されます。

アカウントベースドマーケティング(ABM)とは

アカウントベースドマーケティング(ABM)とは、データマネジメントを用いて収益率、成約率の高いリードにのみアプローチする一点集中型のマーケティング戦略です。

大量のアプローチで反応があった企業に営業していく手法と違い、ABMでは自社商材やソリューションサービスと親和性が高い企業のみがターゲットです。その代わり、ターゲットに対して社内リソースを集中させ、全力で成約に臨みます。

ターゲットはポテンシャルの大きい企業

ABMはターゲットの範囲を狭める分、1リードに対しリソースを大きく使う手法です。そのため、相応の収益が見込める企業がターゲットでなければいけません。大口顧客との継続的な取引成立は、ABMで目指すべき1つの目標です。

また、ABMでは、5:25の法則を意識して取り組みます。これは顧客離反を5%改善すれば、その利益率は25%改善されるという理論です。新規顧客の開拓より1度成約した商談の維持を優先するのがABMです。

メリットは大きく安定した収益

ABMではターゲット企業を資金力のある大口企業に絞り込むため、成功すれば小口取引の数を増やすよりも高い収益と安定した取引機会が獲得できます。

仮に、小口取引の5倍のコストがかかったとしても、その収益が10倍ならアプローチするべき、というのがABMの考え方です。ABMは既存のマーケティング手法のなかでも、ハイコストハイリターンの特性を持ちます。

その代わり、かけるコストが大きいので失敗が許されません。成功には営業部門やマーケティング部門を初め、全社で一丸となって取り組む必要があります。

アカウントベースドマーケティング体制の構築方法

ABMは従来のデマンドジェネレーションやリードベースドマーケティングの延長線上ではなく、異なる組織体制で実践に臨みます。マーケティングという言葉からマーケティング部門による施策と思われますが、実際に戦略の要を担うのは営業部門です。

営業部門を中心に各部門がサポートに徹する

ABMチームの構築にあたっては、中心をアカウント営業部門とし、マーケティング部門とインサイドセールスチームがそのサポートに回ることを基本とします。

マーケティング部門の役割はターゲット企業へのフォローアップとアプローチ手段の最適化、ターゲットのセグメンテーションです。社外には新規顧客とのコミュニケーションを中心に取り組み、そのかたわらで営業活動の支援に徹します。

インサイドセールスチームの役割は、情報を整理し担当部門に渡すこと、既存顧客との非対面コミュニケーションによる関係継続です。主にアカウント営業部門とマーケティング部門の橋渡しを担います。

対応幅の広いソリューションを用意する

クライアントのニーズに応えられるよう、商材はアップセル(単価が上昇できる商材)やクロスセル(関連性の高い商材)にもつなげられる対応力を持たせて臨みます。

ABMで避けるべき事態の1つが顧客離反です。ABMで目指すべき取引は単発ではなく、継続的な取引である必要があります。商材のバリエーションが少ないと、自社で提供できるソリューションがクライアント企業のニーズに応えきれず、顧客離反が起きかねません。

バリエーションが多ければ、それだけ営業部門も多方面でアプローチができるというものです。商談の成立や継続には、対応幅の広いソリューションが必要です。

ABM戦略に用いるデータマネジメントの定義付け

ABMでは、どの部門でもデータを用いる機会が増えます。戦略の基盤となるデータベースのマネジメントシステムを定義しておくことで、データ分析や他部門間での情報共有がスムーズになります。

蓄積するデータの属性、入力ルールなど、各部門がデータベースに入れる情報はルールによって統一しなければなりません。

アカウントベースドマーケティングの基礎プロセス

ABMの大まかなプロセスは以下の3つです。

  1. 戦略策定
  2. ターゲットとの信頼関係構築
  3. 評価と改善

ほかの手法と違う点は、それぞれのフェーズにおけるターゲットの解像度が従来の手法よりも高い点です。大まかなターゲットではなく少数の優良企業を狙うため、とことん顧客に寄り添ったアプローチが欠かせません。

戦略策定

まず初めに、自社のABMの戦略設計をおこないます。ここで必要な工程は主に5つです。

  1. ABM体制の構築
  2. 目標・評価基準の設定
  3. 企業リストの収集・セグメンテーション
  4. 顧客の定義付け
  5. ターゲット企業の選別

戦略設計では、部門同士のアライメント(連携)が重要です。ABM体制構築直後では部門間の認識に齟齬が存在する可能性があるため、アプローチするべき顧客の定義やアプローチ型、データマネジメントのルールを共有します。

ターゲットとの信頼関係構築

次におこなうのは、策定した戦略設計をもとにターゲットへアプローチをかけていく戦術フェーズです。ターゲット企業の属性や獲得した顧客情報をもとに、具体的な有効なアプローチ手段を練り上げます。

以下はABMの戦術フェーズで実施するアプローチの例です。

  1. インサイドセールスチームがターゲット企業の意思決定力を持つキーマンを特定
  2. マーケティング部門がアカウント情報をもとに購買シナリオ、チャネル、有効なアプローチ手段を設計
  3. アカウント営業による企業への直接コンタクト
  4. ヒアリングで獲得した情報を加え、マーケティング部門がニーズを特定
  5. ターゲットのニーズを解決するソリューションの設計

上記は1つの例ですが、従来のマーケティング手法と違うのはターゲットに対する解像度の高さです。初期段階でどれだけ企業に対してコミットできるのかが成功のカギを握ります。対象企業の情報だけでなく、市場全体のトレンドや競合の存在も含めた詳細な情報も施策に組み込みます。

評価と改善

次におこなうのは施策の成果をKPIなど具体的な数値によって評価、改善につなげるフェーズです。ABMではアプローチをかけた新規顧客や既存顧客に対して、商談がファーストコンタクトから成約までどの段階まで進んだかを主に評価します。

ABMの成功指標として挙げる数値は主に以下の3つです。

  1. 商談創出率
  2. 成約率
  3. 顧客離反率

新規顧客開拓の場合は、商談創出率と成約率をもとに商談につながりやすい手法へと施策を最適化します。既存顧客の場合は顧客離反率を参考に、同じケースが発生しないよう対策を考えます。

アカウントベースドマーケティングのコツ

ABMは社内のリソースを1企業のターゲットに注力する手法です。そのため他の手法と比べ、1つの失敗でかかる負担が大きくなります。また、従来のマーケティング手法と性質が異なるため、よりターゲットにコミットした戦術を取らないといけません。

ターゲット企業の課題を正確に抽出する

ABMではリードベースドマーケティングやデマンドジェネレーションなどほかのマーケティング手法よりも精度の高いターゲティングやシナリオ設計が求められます。内部的な情報だけでなく、ターゲット企業を取り巻く競合やトレンドなど外部環境の情報も必要です。

マーケティング部門は、インサイドセールスチームとアカウント営業部門から収集したデータと既存の顧客データから、ターゲット企業の課題を正確に抽出しなければなりません。売り込むのはアカウント営業の役割ですが、アプローチの要はマーケティング部門です。

リードナーチャリングは徹底的に尽くす姿勢で臨む

ABMにおいては、ターゲットに対して商材を売り込むスタイルではなく、ターゲットを理解するために尽くすスタイルが必要です。これをリードナーチャリング(顧客育成)と呼びます。

ABMのリードナーチャリングの場合、ターゲットが1企業にまで絞り込まれています。そのためリードを成約に導くシナリオ設計は、広範囲に共通するものではなく、対象企業にコミットしたものが必要です。

不要なデータの選別

ABMに携わると営業、マーケティング部門に関わらずデータと向き合う機会が必然的に多くなります。初期段階でセグメンテーションに必要なデータを蓄積させますが、その過程で不要なデータやプロジェクトの精度を落とすリストを最適化させなければなりません。

セグメンテーションの精度を妨げるデータには、以下の4つの特徴があります。

  1. 不完全(未記入項目など)
  2. 不正確(入力ミスなど)
  3. 非正規化(入力規則の不備)
  4. 重複(企業名称にバラつきがあるなど)

ABMではデータの扱いが重要なため、上記の属性を持つデータはリソースの食い潰しや分析の質を下げる要因となります。マーケティング部門はデータ蓄積における詳細なルールを定義し、各部門に周知させておかなければなりません。

まとめ

ABMとは、ターゲット企業を大口にのみ絞り込んでアプローチする一点集中型のマーケティング手法です。少数の企業に対してリソースを注ぎ込んでいくため、ターゲットとの取引では相応の収益が求められます。

ABMの成功で重要なのは、部門同士の組織力とデータマネジメントの連携です。大口取引を目指す以上、部門間で一丸となって施策に取り組まなければいけません。成果までに時間がかかる手法ですが、成功した場合の収益率は相当な期待が持てます。

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